【今日の1枚】Metabolisme/Tempus Fugit | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Metabolisme/Tempus Fugit
メタボリスム/テンパス・フュージット
1977年リリース

美しいストリングスとリリカルなギターで畳かける
フランス産ヘヴィシンフォニックプログレ

 レッド・ツェッペリン風のハードロック路線から、英国のプログレやアンジュ、モナ・リザの影響でプログレッシヴ志向となったフランス出身のグループ、メタボリスムの唯一のアルバム。奇怪なるジャケットアートの雰囲気とは違い、美しいピアノやハモンドオルガンを多用したキーボードやリリカルなアコースティックギター、手数の多いドラミングを中心に、アグレッシヴに畳み掛けるダイナミックなアレンジが魅力のヘヴィシンフォニックアルバムとなっている。やや湿り気のあるフレーズとヘヴィな音の交錯は英国オルガンロックに通じるものがあり、今なお多くのシンフォニックロックの愛好家に親しまれている逸品である。

 メタボリスムはフランスのプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏にあるマントンで、1960年代後半に結成されたグループである。メンバーはロベルト・デュランテ(ギター、ヴォーカル)、ジャッキー・ポイロット(ベース)、カルミーヌ・ヴェルサージュ(ドラムス)のトリオから活動を開始しており、主にレッド・ツェッペリンを模写したハードロックを演奏していたという。1970年に入るとディープ・パープルやユーライア・ヒープの影響でオルガンロックに目覚め、新たにキーボーディスト兼ヴォーカリストにティエリー・スカデューが加入して4人編成となっている。彼らのサウンドはますますプログレ的な要素が強くなり、キーボードを中心とした長尺の楽曲を演奏するようになったという。彼らの音楽は英国のプログレッシヴロックの影響が感じられ、特にギターはイエスのスティーヴ・ハウを彷彿としており、また、ハモンドオルガンを含めたキーボードはジェネシスのトニー・バンクスのようであったという。さらに楽曲からイタリアのP.F.M.(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)のエッセンスもあり、南フランスならではのアレンジが利いた演奏だったという。ヴォーカルもフランスで人気の高かったアンジュやモナ・リザに影響を受けたためか、次第にシアトリカル性を持ち始めたとされている。彼らは1976年頃まで南フランスや北イタリアといった広範囲に渡って精力的にツアーを行い、一定のファン層を獲得したという。彼らの活動範囲が首都パリに向かうことなく、南フランスや北イタリアが中心だったのは、北イタリアでの人気が高かったためとされている。その成果もあってメタボリスムの名はフランスの首都パリにも届き、1976年にアンジュのマネージャーのジャン・クロード・ポニャンが設立したクリプトレーベルと契約することになる。彼らは契約後も数多くのフェスティバルに参加し、フランスのプログレッシヴロック界のレジェンドであるアンジュと費用を分け合ったとされている。彼らは同年にアルバム制作をするためにパリのレコーディングスタジオに入り、今まで書き溜めていた楽曲にロベルトとティエリーがアレンジを加えた6曲にまとめ、1977年にデビューアルバム『テンパス・フュージット』をリリースすることになる。そのアルバムは1970年代初頭のアンジュとの類似点が多いものの、美しいハモンドオルガンやアコースティックギターが舞うリリカルなパートとハードなエレクトリックギターとオルガン、手数の多いドラムを中心としたアグレッシヴなパートが交錯するダイナミックなシンフォニックロックとなっており、何よりも哀愁漂うフランス語のヴォーカルが素晴らしい傑作となっている。

★曲目★
01.Apôtres Et Martyrs(使徒と殉教者)
02.Tempus(時間)
03.Khoros(ホロス)
04.Nadia(ナディア)
05.La Danse Des Automates(オートマトのダンス)

 アルバムの1曲目の『使徒と殉教者』は15分に及ぶ大曲になっており、アコースティックギターの響きと豊かなオルガンサウンド、そして繊細なピアノワーク、優れたハーモニーを湛えたヴォーカルが魅力的な楽曲。途中からエレクトリックギターのソロを皮切りにテクニカルなアンサンブルとなり、その後は緩急をつけた多彩な楽器によるインストが続いている。全体を通してテンポが頻繁に変化しており、アトールやアンジュとはまた違った複雑でひねりが加えられたテクニカルシンフォとなっている。2曲目の『時間』は、アグレッシヴなギターとオルガンをメインとしたハードロック調の楽曲。ピアノがあってクラシカルな一面があるものの、ジェスロ・タルばりのフルートや重いドラミングによる、畳みかけるような展開となっている。3曲目の『ホロス』は、穏やかなアコースティックギターとフルートから始まり、美しいピアノやオルガンをバックにしたスキャットが印象的な楽曲。荘厳さのあるスキャットと共に泣きのギターが奏でられ、その後はオルガンとギターによる高速アンサンブルとなる。最後はファズを利かせたヘヴィなギターが支配しながら締めくくっている。4曲目の『ナディア』は、静かなオルガンの音色から次第にアップテンポな曲に変化し、その後はピアノとギターによる美しいコントラストとなる楽曲。後半は手数の多いドラミングとヘヴィなギターからピアノソロといった緩急をつけつつ、荘厳なスキャットで終えている。5曲目の『オートマタのダンス』は、アコースティックギターのアルペジオから始まり、フルートとドラム、そしてオルガンがリードした楽曲。歪んだギターが1960年代のサウンドを思わせるが、ヴォーカルをはじめとする美しいメロディが勝った内容になっている。後半の終わりごろにはベースがリードしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、オルガンとピアノといった2つのキーボードと、エレクトリックギターとアコースティックギターといった2本のギターを巧みに使用した、ハードロックとクラシカルロックを行き交うユーモラスな作品になっていると思える。アグレッシヴに畳みかけるドラムが強すぎる感があるが、めくるめく展開はスリリングであり、プログレらしいツボを押さえた逸品となっている。

 アルバムはフランスにおけるシンフォニックプログレの傑作と謳われたが、1977年頃に英国を端に発したパンク/ニューウェーヴの全盛期を迎え始めたことで、多くの聴衆に届けられることは無かったという。また、数多くのプログレッシヴロックグループのアルバムをリリースしてきたクリプトレーベルが、アルバムのプロモーションにかける予算がが無かったことも大きな要因となっている。彼らはしばらくアンジュのサポートとしてライヴや演奏を続け、1979年にシングル『Highway Over You』をリリースしている。このシングルのB面には本アルバムにある『時間』の短いヴァージョンを収録しており、彼らなりに生き残りを図っている。しかし、次のアルバム制作の機会が与えられなかったことに失望して、同年の1979年に解散することになる。解散後のメンバーはスタジオミュージシャンやコンポーザーとなり、表の舞台から身を引いているという。アルバムは当然のごとく廃盤となったが、メンバーがその後も表舞台に出ることが無かった影響で次第に忘れられていったという。しかし、プログレの愛好家からは高く評価された作品として、レコードはプレミア化したことは言うまでもない。彼らのアルバムが陽の目に当たることになるのは、28年後の2005年である。それはフランスのプログレッシヴロックの発掘に力を入れるムゼアレーベルによって初めてCD化され、多くのプログレッシヴロックファンに知れ渡ることになる。また、2017年にはムゼア及びレプリカレコードより、180g LPレコードがリイシューされている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は南フランスの出身のヘヴィプログレッシヴロックグループ、メタボリスムの唯一のアルバム『テンパス・フュージット』を紹介しました。同じクリプトレーベルに所属するアンジュやモナ・リザ、カルプ・ディアン、ワパスーといったフランス産プログレッシヴロックと肩を並べる腕前がありながら、長らくCD化が果たせなかった作品として知られています。ムゼア盤のCDのインナーでは英国のイエスやジェネシスに影響されたヘヴィシンフォニックプログレと紹介されていますが、他にもイタリアのP.F.M(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)やフルートが飛び出す点ではジェスロ・タルの要素もあります。それでもファルセットのハーモニーを奏でた1970年代初期のブリティッシュロックらしい哀愁のメロディが綴られつつ、アグレッシヴな展開のあるシンフォニックロックになっていて、結構ハードロックファンにも受け入れられやすいところがあります。この点では結成時にディープ・パープルやユーライア・ヒープに影響を受けてハードロックを演奏してきた彼らの音楽の原点があるからだろうと思っています。活動歴も長く、これだけ高い水準の演奏テクニックがあるにも関わらず、たった1枚のアルバムしか残せなかったことは不運としか言いようがありませんが、つくづく惜しいグループだな~と思います。

 さて、聴く前にどうしても線画で描かれたモノトーンのジャケットデザインから陰鬱な印象を受けますが、中身は甘いヴォーカルを湛えたシンフォニックなプログレらしい内容になっています。変調するハモンドオルガンやファズを利かせたギター、手数の多いドラミングなど緩急のあるテクニカルな要素だけではなく、ピアノやアコースティックギターによるクラシカルな要素もあります。クレジットには記載されていませんがフルート奏者による演奏もあり、英国プログレの抒情的なひねりだけではなく、イタリアンロックにある情感的でドラマティックな表現が目立ちます。さらに荘厳なスキャットによるコーラスが多用されていて、1960年代の英国ロックが感じられるのも大きなポイントです。15分を越える楽曲もあって非常に意気込みが感じられる作品ですが、様々なスタイルがごっちゃになった内容になっている気がします。これらは彼らが様々なジャンルを演奏してきた長い遍歴があるだけでななく、地中海に面した南フランス特有の自由さがあるのかも知れませんね。

 本アルバムはフランスのグループでありながら、英国のプログレやハードロック、ひいてはイタリアンロックの要素を詰め込んだ独特のシンフォニックロックです。ひねりのあるハードな展開の中でクラシカルの気品さとスキャットの荘厳さが垣間見える本作をぜひとも一度聴いてほしいです。

それではまたっ!