【今日の1枚】Atoll/Tertio(アトール/サード・アルバム) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Atoll/Tertio
アトール/サード・アルバム
1977年リリース

構築美とコーラスワークでより華やかな
音像となったシンフォニックロックの名盤

 前作のアルバム『組曲「夢魔」』で、フレンチ・プログレッシヴロックグループの代表格となったアトールのサードアルバム。そのアルバムは技巧を武器にした構築的な楽曲アレンジや美しいコーラスワーク、そしてストリングスシンセサイザーを効果的に使用した彼らの作品の中でも最もシンフォニック性の高いサウンドになっている。また、ジャズロック的なアプローチもあり、その華やかな音像は、前作『組曲「夢魔」』とはまた違ったシンフォニックロックの名盤とされている。

 アトールはヴォーカル兼パーカッショニストのアンドレ・バルゼを中心に、フランス北東部の都市メッスで1972年に結成されたグループである。当初は12弦ギターを含むツインギター&コーラスを中心とした音楽を演奏しており、まるでアメリカの西海岸のサウンドに似ていたと言われている。後にメンバーチェンジを繰り返しながら、パリのライヴシーンで頭角を現し始めるが、彼らの音楽性を変えるきっかけとなったのがアンジュである。アンジュはアトールに先駆けること1971年にデビューしており、その英国のジェネシスに影響を受けたと思われるクリスチャン・デカンの演劇風パフォーマンスと物語を聞かせるようなナレーションが話題を呼び、フランスの頂点に登りつめたプログレッシヴロックグループである。アンジュはフランスの若手ロックグループを前座に起用した国内ツアーを何度も行っており、アトールが起用されたのが1974年のツアーである。この時のメンバーはアンドレ・バルゼ以外に、ジャン=リュック・ティヨ(ベース、アコースティックギター)、アラン・ゴッツォ(ドラムス)、ミッシェル・タイレ(キーボード)、リュック・セラ(ギター、シンセサイザー)である。アトールはアンジュのドメスティック・ツアーで前座を見事に務め、その年にユーロディスクと契約してデビューアルバム『ミュージシャン・マジシャン』をリリースする。そのサウンドはフルートやギター、キーボードを中心に宙に浮遊するような感覚を覚える独特のサウンドとなっており、確かな演奏テクニックをバックにした独自性のあるスタイルを確立している。そして彼らの音楽性がさらに注目されたのが、脱退したリュック・セラの代わりに加入した名ギタリストのクリスチャン・ベヤ、ゲストにヴァイオリン奏者のリシャール・オベールが参加した1975年のセカンドアルバム『組曲「夢魔」』だろう。高次元の技巧と音楽的センスが集約されたそのアルバムは、フレンチ・プログレッシヴロックの名盤として語り継がれることになる。しかし、アルバムは売れたにも関わらず、グループは経済的に困窮していたらしく、ポップ歌手のバックバンドを中心とした業界の仕事をしていたという。これは仕事を取ってこないマネージャーの問題が大きく、ライヴブッキングも自分たちで交渉して進めていたという。そんな状況の中で次のアルバムレコーディングが出来たのが2年後の1977年である。レコーディングにはゲストにバックヴォーカリストとしてリザ・デラックスとステラ・ヴァンデが参加。メンバー全員が曲作りを行い、同年に『サードアルバム』がリリースされることになる。そのアルバムは前作にも劣らない演奏テクニックを駆使した構築性とアレンジ、女性ヴォーカルを擁したコーラスワーク、そしてストリングシンセサイザーを効果的に使用したグループの数ある作品の中でも最もシンフォニック性の高いサウンドになっている。

★曲目★
01.Paris C'est Fini(零落したパリ)
02.Les Dieux Même(神々)
03.Gae Lowe ~Le Duel~(ガエ・ロウ~決闘~)
04.Le Cerf Volant(凧)
05.Tunnel Part 1(トンネル パート1)
06.Tunnel Part 2(トンネル パート2)

 アルバムの1曲目の『零落したパリ』は、かつて邦題に『パリは燃えているか』と付けられていた名曲。SFの影響を受けたと思えるキャッチーなオープニングからのシンセサイザーのハーモナイズや伸びやかなギターによる独自のシンフォニックロックとなっている。堕落したパリの人々を見て悲観する歌詞を基に、アンドレ・バルゼの演劇的ともいえるヴォーカルが印象的である。2曲目の『神々』は、女性バックコーラスと幻想的なキーボードをフィーチャーしたメロディックシンフォニー。繊細で調和のとれた優しいフレーズとフュージョンを思わせる技巧的なフレーズが交互に展開され、圧倒的な後半のエモーショナルなギターソロが素晴らしい。3曲目の『ガエ・ロウ~決闘~』は、華やかなシンセサイザーとコーラスワークが活用され、コミカルな中にセンスが感じられる楽曲。複雑なフレーズとジャズロック風の即興スタイルが組み込まれており、彼らの演奏テクニックが光るナンバーである。4曲目の『凧』は、風の吹く音から始まり、これまでとは違って抒情的なヴォーカルが印象的な楽曲。1分後にはシンセサイザーやギターが加わり、美しいシンフォニックな世界へと変化していく。空に向かって夢を抱くも破れ行くセルロイドの男を凧になぞらえた歌詞が印象的だ。5曲目の『トンネル パート1』は、ジェネシスのトニー・バンクスを思わせる明朗なシンセワークが目立った楽曲。ややファンキーなギターにシアトリカルなヴォーカル、そして変拍子の中で奏でられるキーボードの音がひとつの空間を創り出している。6曲目の『トンネル パート2』は8分を越えるアルバムの中で最も長尺の曲になっており、『パート1』の流れを受けた壮大なサウンドスケープと浮遊感が感じられる楽曲。次第に緊張感と無感覚を伴っていくその演奏スタイルは、まさにアトールしか生み出せない独自性のあるプログレッシヴロックである。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作の『組曲「夢魔」』ほど複雑で冒険的ではないが、緻密性と技巧性を継承しつつ、よりメロディアスで親しみやすさを追求したシンフォニックロックになっていると思える。華麗なキーボードワークにメランコリックなギターによる明朗なサウンドに、ダークな歌詞とアンドレ・バルゼの演劇的ともいえるヴォーカルが作り出した独特の世界観は、本アルバムで確立されたと言っても良いだろう。

 アルバムは数ある音楽評論家から支持を得て商業的にも成功し、アトールはフレンチ・プログレッシヴロックの代表格となる。1979年には4枚目のアルバムとなる『ロック・パズル 」をリリースするが、この頃からフランスでもパンク/ニューウェイヴが台頭し、多くのロックグループが追いやられることになる。その影響からか1981年にフロントマンであるアンドレ・バルゼを含む主要メンバーが次々と脱退。その時にはウィッシュボーン・アッシュの『ナンバー・ザ・ブレイヴ』に参加していたジョン・ウェットンを招聘して新生アトールの始動を図っていたと言われている。しかし、ジョンはすぐにエイジアという新グループに参加することを優先してしまい、アトールは解散を余儀なくされる。その後、Atoll SUD、Nouvel Atollといった複数のアトールの分派が、復活アトールとして活動。1989年にはクリスチャン・ベヤを中心としたアトールが1989年に来日し、『アトール・ライヴ・イン・ジャパン89’』をリリースしている。クリスチャン・ベヤは定期的にアルバムを発表し、2014年に『Illian - I Hear The Earth』をリリースしている。一方、アンドレ・バルゼを中心としたアトールも2011年に『Entre L'Alpha & L'Oméga (Opus I)』のリリースを果たしており、2015年4月に開催された第2回ユーロピアン・ロック・フェスティバルで強烈とも言えるトリを飾ったことは記憶に新しい。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は前作の構築性と技巧性を引き継ぎ、よりメロディアスなシンフォニックロックに進化したアトールの『サード・アルバム』を紹介しました。アトールは本レビューで『組曲「夢魔」』に続いて2作目の紹介となります。前作はヴァイオリン奏者のリシャール・オベールがゲストとして参加して、その技巧を凝らしたシンフォニックロックは内外で高く評価されました。過去には日本のキングレコードによる「ユーロピアン・ロック・コレクション」のパートⅡの目玉が、アトールの『組曲「夢魔」』だったそうです。そのパートⅡのコレクションには他にもイ・プーやアレア、バンコといった層々たるグループの作品が紹介されたそうですが、アトールが圧倒的に売れたと聞きます。私は1993年にリリースされた同コレクションシリーズのCD盤で手に入れました。『サード・アルバム』は、2002年にリイシューされた紙ジャケで初めて聴いて、確かに『組曲「夢魔」』はプログレッシヴロックとして高い位置にありましたが、個人的にこっちの方が非常に親しみやすく感じました。リズミカルなドラミングに存在感のあるベース、エモーショナルなギター、多彩なキーボードをうまく配置して、緊張感と無感覚を伴ったパフォーマンスに一体感があります。とにかくメロディに暗さはほとんどなく、比較的明朗さがあってキャッチーなところが好印象です。本アルバムでアトールの人気を決定付けたというのも何となく分かる気がします。

 さて、本アルバムにはバックヴォーカリストにリザ・デラックス・ボワとステラ・ヴァンデが参加しています。ステラ・ヴァンデといえば、マグマのフロントマンであるクリスチャン・ヴァンデの元妻です。2曲目のスキャットなどで聴くことができますが、どことなくマグマの世界観を覗かせている気がするのは私だけでしょうか。また、結成時にアメリカのウエストコースト・サウンドを目指していたというコーラスワークもなかなかです。それでもアンジュのクリスチャン・デカンに寄せた、アンドレ・バルゼのシアトリカル系のヴォーカルが、歌詞とともに独自の世界観を創り出しているのは間違いないです。

 本アルバムは前作からより緻密なアレンジによる華やかな音像となったフレンチプログレッシヴロックの傑作の1枚です。ストリングスシンセサイザーによるシンフォニックな彩りで聴かせる明朗なサウンドは、冒険的な『組曲「夢魔」』とはまた違った斬新さがあります。

それではまたっ!