【今日の1枚】McDonald&Giles/マクドナルド&ジャイルズ | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

McDonald&Giles/McDonald&Giles
マクドナルド&ジャイルズ/マクドナルド&ジャイルズ
1970年リリース

英国らしい抒情性と緻密さが絶妙に光った
アコースティカルロックの名盤

 キング・クリムゾンのオリジナルラインナップのメンバーであるイアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズよってリリースされた唯一のアルバム。そのアルバムはフルートやサックス、木管、オルガン、ピアノ、ギターといったマルチプレイヤーぶりを発揮するイアン・マクドナルドと、軽快でありながら緻密なドラミングを披露するマイケル・ジャイルズによる幻想性を帯びた抒情味あふれるアコースティックロックとなったクリムゾンファン必聴の傑作。本アルバムには作詞にピート・シンフィールド、ベースに弟のピーター・ジャイルズ、オルガンとピアノ奏者にスティーヴ・ウィンウッドがゲストで参加している。

 1969年に衝撃とも言えるキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』のリリース後、音楽業界やメディアを通じて一気に世界的な名声を得ていた彼らは、拡大し続けるファンベースの間に渦巻いた興奮と期待は凄まじく、翌年の1970年にはほとんど休むことなく仕事に追われる日々だったという。しかし、宣伝やプロモーションが軌道に乗る一方で、グループの内情はそこまで順調ではなかったと言われている。中でもサックスやフルート、キーボード奏者であるイアン・マクドナルドとドラマーのマイケル・ジャイルズは、キング・クリムゾンが有名になればなるほどツアーバンドという非現実的な世界で孤立を深め、精神的な苦痛を増していったとされている。また、ジャイルズ兄弟はアメリカツアーでアメリカ人の音楽に対する柔軟性に触れ、自らの創作活動に迷いを感じるようになっていたという。最終的に2人はアメリカツアー終了後にグループからの脱退を決意することになり、オリジナルメンバーのキング・クリムゾンはわずかアルバム1作を発表しただけで終焉を迎えることになる。ロンドンに戻ったイアンは、ほとぼりを冷ましてから自らの音楽プロジェクトに着手し、自宅で2トラックレコーダーを使ってジャイルズとのアルバム用のアイデアを練っていたという。一方、ジャイルズ兄弟はセッションミュージシャンとして、ロバート・フリップからの要請でキング・クリムゾンのセカンドアルバム『ポセイドンのめざめ』のレコーディングに参加している。1969年当時のキング・クリムゾンは、サウンドの全体像に何かしら特別なものをもたらす音楽的民主主義の側面があったが、イアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズがグループに与えた大きさは計り知れない。同世代の中でも最高のドラマーと言われたマイケル・ジャイルズは、その優美で普遍的なスタイルを決定づけ、独特のリズミック・エッジを与えている。一方のイアン・マクドナルドも才能あるマルチプレイヤー&アレンジャーとしてだけではなく、一流のソングライティングの強みを発揮していたミュージシャンでもある。2人によるアルバムレコーディングのために、アイランドレコードの融資を引き出すのに時間はかからず、ベーシストである弟のピーター・ジャイルズとのリハーサルを経て、1970年5月にアイランド所有のベイジング・ストリート・スタジオでレコーディングを開始している。この時、同スタジオでアルバム『ジョン・バーレイコーン・マスト・ダイ』に取り組んでいたトラフィックのスティーヴ・ウィンウッドがゲストとして参加している。何週間にもわたる綿密なオーバーダビングとミキシング・セッションの後、アイランドレコードはレコーディングの時間切れを宣言。こうして1970年11月に『マクドナルド&ジャイルズ』という名を冠したアルバムがリリースされることになる。そのアルバムはザ・ビートルズからの影響が感じられるメロディと牧歌性がありつつも、緻密でテクニカルな演奏が繰り広げられた幻想的なアコースティカルロックとなっている。
 
★曲目★ 
01.Suite In C:Including Turnham Green, Here I Am And Others(組曲ハ長調)
02.Flight Of The Ibis(アイビスの飛行)
03.Is She Waiting?(イズ・シー・ウェイティング?)
04.Tomorrow's People - The Children Of Today(明日への脈動)
05.Birdman(バードマン)
 a.The Inventor's Dream ~O.U.A.T~(ジ・インヴェンターズ・ドリーム)
 b.The Workshop(ザ・ワークショップ)
 c.Wishbone Ascension(ウィッシュボーン・アセンション)
 d.Birdman Flies!(バードマン・フライズ!)
 e.Wings In The Sunset(ウイングス・イン・ザ・サンセット)
 f.Birdman - The Reflection(バードマン・ザ・リフレクション)

 アルバムの1曲目の『組曲ハ長調』は、心地よいアコースティックギターの音色から始まり、サックスやストリングス、フルートといった楽器による曲中で様々なスタイルを変化させた楽曲。作曲にはザ・ビートルズの『アビー・ロード』の影響があったとイアンは語っているが、ジャジーな雰囲気とリズムのつながりが巧妙であり、空気のような軽快さと若々しい幸福感に満ちたメドレー形式になっている。ジャイルズ兄弟の軽妙なリズムセクションと合わせた『Turnham Green』でのスティーヴ・ウィンウッドが弾いているオルガンが少しアヴァンギャルド風になっているのが印象的である。2曲目の『アイビスの飛行』は、キング・クリムゾンのアルバム『ポセイドンのめざめ』に収録している『ケイデンスとカスケード』の原曲であり、脱退後に友人のB.P.ファロンの新しい言葉とと共に再構築したもの。優しいヴォーカルと合わせた数本のギターと木管の音色が素晴らしく、木漏れ日のような穏やかな気持ちにさせてくれる。3曲目の『イズ・シー・ウェイティング?』は、キング・クリムゾンのアメリカツアー中に書かれたメロウなフォークソング。2本のアコースティックギターとリリカルなピアノをバックに、彼女を想う切々とした気持ちをマイナー調で綴った内容になっている。4曲目の『明日への脈動』は、ジャイルズ・ジャイルズ&フリップ時代に書かれた子供たちからインスピレーションを受けたという曲。特にザ・ビートルズのジョン・レノンから影響を受けたというむき出しの声とソロドラム、そして南米風のアップテンポなロックビートがある。特にトロンボーンのセクションはエネルギーに満ちており、静寂な部分にメロディアスなフルートが奏でられるという、まさに子供たちを歌った無邪気さが演出されたカーニバル風の内容になっている。5曲目の『バードマン』は、レコードのB面を使用し、鳥となった主人公の体験を6つの楽章によって構成された組曲。アカペラから幻想的な雰囲気に包まれた音、そしてアコースティックギターによるクラウトロック寄りのサウンドに変化した一風変わった曲になる。その後はリズムセクションが加わり、本アルバムの主題とも言える様々な音楽ジャンルがパートを埋め尽くしており、サックスをメインとしたジャジーなパート、壮大な管楽器によるオーケストラルなパート、フルートとピアノによる抒情的なパートなど、激しさと穏やかさが組み込まれた当時の音楽を垣根を越えたサウンドになっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、キング・クリムゾンにあるような暗さはほとんどなく、英国らしい抒情性と牧歌性がありながらも明るくエネルギーに満ちたアルバムになっていると思える。イアンが求めていた優しい世界を描いた作品になっており、それも呼応するかのような緻密なマイケル・ジャイルズのドラミングやプログレッシヴにラインを刻むピーター・ジャイルズのベースが素晴らしい。

 マクドナルド&ジャイルズはキング・クリムゾンのファンの間では人気であり続けていたが、一般層に広がることはなく商業的な成功は得られなかったと言われている。そのため、この2人がセカンドアルバムをレコーディングすることはなかったという。アルバム完成後はそれぞれの道に進むことになり、イアン・マクドナルドはアメリカに渡り、プロデュース業に専念。一方のジャイルズ兄弟はセッションミュージシャンとして活動することになる。それでも本アルバムは多くのファンやクリムゾン崇拝者によって支持され続けることになる。その後、本アルバムはレコードからCD化されることになるが、最初のCD化は1989年に日本で発売されたという。ただし、オリジナル・マスターの所在が不明だったため、数世代後のテープを盤起こししたものからマスタリングされている。ジャケットはアトランティックレコード系列の北米盤を採用している。1997年の3月に、クリムゾンのオリジナルラインナップが『エピタフ』ボックスセットのために再結成された時、ファンからマイケルとイアンに対して、いつ2人のアルバムがきちんと再リリースされるのかと訊かれ、2001年12月にマスタリング作業を監視、監修するためにロンドンで合流している。そして、より改善された音質によるリマスター盤を2002年にリリース。そこにはロゴが北米盤の紫色ではなく、英国盤の緑色が再現されている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はキング・クリムゾンのオリジナルメンバーであったイアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズによる唯一のアルバムを紹介しました。クリムゾンファンの中では本アルバムに対する評価は高く、クリムゾンで聴けた優しい世界だけを抜き出したアルバムだと言っても過言ではなく、ハード路線を走った本家のクリムゾンのもう1つの側面を前面に出した作品だと思います。ロバート・フリップがクリムゾン路線を守ろうとした反面、2人は自分たちの音楽を目指そうとしたとも言えますね。キング・クリムゾンで一旗揚げたメンバーがこぞってグループから離れて、渡り鳥的な気質で更なる成功を掴みに行こうとする思惑が、最後の曲の『バードマン』に表れている気がします。また、アルバムにはマイケルの弟であるピーター・ジャイルズのベースが素晴らしく、さらにスティーヴ・ウインウッドのオルガンやピアノの演奏が曲に華を添えていて、クリムゾンを継承しつつも英国的な抒情性や牧歌性にあふれた内容になっています。強いて言うのであればメロトロンを使用していないというのが意外だったことでしょうか。

 

 さて、本アルバムのレコーディングについて、後にイアン・マクドナルドはキング・クリムゾン時代の方向性の不満による苦痛から解放されたかのように、非常にリラックスした状態で楽しいレコーディングだったと語っています。イアンが作曲したデモをインスピレーションに、マイケルをはじめとするメンバーがアレンジしたり、思い付きで手を加えたりしています。特に4曲目の『明日への脈動』ではカーニバル風に演出するために、各パートの楽器は即興だったと言われています。最後のパーカッションの高鳴りでエンディングを迎えると、イアンがオフマイクでOKと叫んでいたそうです。また、最後の曲の『バードマン』では、本物のオーケストラアレンジを施すためにマイク・グレイにデモテープを渡して考えさせ、感触を確かめるためにレコーディングに最後まで付き合わせたそうです。イアンは全体的に贅沢なストリングスや管楽器を使うことで、メロトロンを使用するキング・クリムゾンとは違う印象を与えようとした感じがします。とにかく自由闊達な雰囲気で録音が行われたのだろうな~とアルバムを聴くとよく分かります。

 キング・クリムゾンでは才能あるマルチプレイヤー&アレンジャーであったイアン・マクドナルドと、同世代の中でも最高のドラマーと言われたマイケル・ジャイルズによる軽快さと若々しい空気感にあふれたサウンドになっています。クリムゾン関連のアルバムが好きな人は、この作品はぜひとも聴いてもらいたい1枚です。

それではまたっ!