【今日の1枚】P.L.J Band/Armageddon(アルマゲドン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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P.L.J Band/Armageddon
P.L.Jバンド/アルマゲドン
1982年リリース

呪術性の強い独特の旋律を持った
エキゾチックなシンフォニックロック

 旧約聖書中の三大預言書の1つ、エゼキエルが予言した世界最終戦争(アルマゲドン)をモチーフにした、ギリシャを代表するプログレッシヴロックグループ、P.L.Jバンドのデビュー作。そのアルバムはブルージーなギターやアコースティックギターによるバッキングに、呪術に近いヴォイス、スペイシーなキーボードといった独特の浮遊感を持ったエキゾチックなシンフォニックサウンドとなっている。当時、本アルバムは教会が冒涜的な歌詞が含まれているという理由から没収され、市場には1,000枚にも満たない曰くつきの作品とされた幻の1枚でもある。

 P.L.Jバンドはギリシャのアテネで1976年に結成したグループである。当時のメンバーはパヴロス・キクリリス(ギター)、ラヴレンティス・マハイリツァス(ヴォーカル、ギター、キーボード)、ディミトリス・ヴァサラキス(ベース)の3人が中心であり、パヴロスの「P」、ラヴレンティスの「L」、ジミーというニックネームだったディミトリスの「J」に由来するP.L.Jバンドとしている。活動は地元であるアテネを中心にライヴを行い、1978年に英語歌詞による4トラック入りシングル『Gasper』を自主制作し、1,000枚ほどプレスしてライヴ上で販売をしている。しかし、そのシングルは誰も興味を示す者はなく、全くと言っていいほど売れなかったと言われている。彼らはこのことに愕然するどころか、さらに芸術性と創造力を高めた自分たちの音楽を広く推し進めようと奮起したと言われている。そのために新たなギタリストが必要だったためオーディションを行ったところ、そこにジョン・マクラフリンのレコードとギターを持った青年が現れたという。その人物こそがアントニス・ミツェロスであり、彼は何とレコードに合わせて正確に超絶技巧のギターをコピーして見せて、メンバーを驚かせたと言われている。メンバーはアントニスを正式に迎い入れ、さらにドラムスにトリス・カマツォラスを加入させ、5人編成で本アルバムのテーマである「世界の終わり(アルマゲドン)」に着手することになる。作曲を終えてスタジオ入りするが、予算の関係で8時間ほどしか使用できなかったため、録音方法はスタジオライヴとなったという。完成したデモテープを片手に海外での成功を夢見た彼らは、フランスのパリにあるポリドールに訪れている。しかし、関心を寄せたものの契約には至らず、さらにアメリカにも渡ってアプローチするもかなわず、失意のうちにギリシャに帰還している。その後、メンバーはデビューを諦めかけていたところ、1982年にギリシャにあるポリグラムにフランスからコンタクトがあり、プロデューサーのジアニス・ペトリデスにP.L.Jバンドが紹介される。これが契機となって動き始め、ジアニスの尽力もあってヴァーティゴレーベルと契約することに成功している。彼らはデモテープをレーベルにそのまま渡し、アリストメニス・ツォラキスの手によるテーマに沿ったカヴァーデザインが起用され、同年の1982年にデビューアルバム『アルマゲドン』がリリースされる。そのアルバムは2本のギターによる旋律をバックに、浮遊感のあるキーボード、朗読に近いヴォイスといった呪術性の強いエキゾチックなシンフォニックとなっており、エゼキエルが予言した世界最終戦争、すなわち終末論が漂った歌詞が劇的なアルバムとなっている。

★曲目★ 
01.Intro(イントロ)
02.I See People(アイ・シー・ピープル)
03.Ezekiel(エゼキエル)
04.Woe !(オイ)
05.Armageddon I(アルマゲドンⅠ)
06.Armageddon II(アルマゲドンⅡ)
07.Isolation(The Void)(孤立)
08.Hymn(Theme)(聖歌)
09.Starwish(スターウィッシュ)

 アルバムの1曲目の『イントロ』は、シンセサイザーとギリシャテイストのあるアコースティックギターのアルペジオをバックにしたインストゥメンタル曲になっている。後にサイケデリック性のあるリードギターがメロディアスが高らかに響き、次第に重厚なサウンドになっていっている。2曲目の『アイ・シー・ピープル』は、群衆の中で語るようなヴォーカルに導かれ、シンフォニックなシンセサイザーからギターカッティング、そして2本のギターをバックにしたエキゾチックな楽曲。人々が行き交う中、路上や市場で預言者が説いているような不思議な雰囲気が漂う。3曲目の『エゼキエル』は、旧約聖書の「エゼキエル書」を朗読した楽曲。ドラムスと不気味なエレクトリックギターをバックに、同じく語るようなヴォーカルといったヘヴィな内容になっており、人々に裁きが来て、神の手によって荒廃と破壊がこの地に降りかかるだろうと告げている。後にポストロック風のギターが響き渡り、エレクトリックギターとアコースティックギターによる重厚なサウンドになっていく。4曲目の『オイ』は、打って変わってアコースティックギターによる美しいアルペジオと優しいキーボードから始まるシンフォニック風の楽曲。そこに重苦しいヴォーカルが加わり、浮遊感のあるギターによるヘヴィな雰囲気に変化していく。5曲目の『アルマゲドンⅠ』と6曲目の『アルマゲドンⅡ』は、本作の中心的なナンバーとなっており、それぞれ7分前後の長尺の楽曲になっている。『アルマゲドンⅠ』は、水の音やドラム、シンセサイザー、そして穏やかなギターの音から始まり、ラテン語による語りが支配した楽曲。4分過ぎからより明確となったギターソロやストリングスシンセをバックにしたサウンドに変わっていき、終始、深淵さが漂った内容になっている。6曲目の『アルマゲドンⅡ』は、ベースを強調したリズムセクションとアコースティックギターをバックにした楽曲から始まり、ストリングスシンセサイザーに乗せたエレクトリックギターが飛翔するソロが展開している。このギターによるサウンドスケープは、アルバムの一番の聴きどころと言える。やがてドラマティックなヴォーカルは滅び時を伝える。7曲目の『孤立』は、ヴァンゲリスを思わせるシンセサイザーソロ。タイトルは『The Void(ヴォイド)』と表記されることもある。8曲目の『聖歌』は鐘の音から始まり、その後穏やかなギターとリズムセクションが加わった比較的明るい楽曲。『Theme(テーマ)』とも表記された本曲は美しいシンセサイザーと讃美歌が支配しており、まさに最終戦争後の世界を描いた内容ともいえる。9曲目の『スターウイッシュ』は、アコースティックギターによるフォーキーな楽曲となっており、安堵に似た非常に夢心地な雰囲気のあるサウンドになっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、エゼキエル書の予言を歌詞にした終末論をテーマにした内容だが、最後は希望を持ってアルバムを締めくくっており、コンセプトアルバムとしての価値は非常に高いものになっている。全体的に重苦しい雰囲気のある中で、とりわけアントニス・ミツェロスのサイケデリックテイストのあるギターが素晴らしく、語りに近いヴォーカルと上手く対比させているのが彼らの個性に繋がっている。

 本アルバムは正規のレコーディングは行われず、デモで録音された内容をそのまま使用され、わずか1,000枚程度のプレスだったという。しかし、アルバムが市場に出たとたん、ギリシャを中心とした教会が冒涜的な歌詞が含まれているという理由から没収されてしまうことになる。こうした理由から自分たちの名前を冠にしたグループ名を過去のものにするためにTermites(テルミテス)と改め、歌詞もギリシャ語を使用したセカンドアルバム『テルミテス』を1983年にリリースしている。このアルバムからモダンなギリシャの歌を基盤とするグループとなっていく。その後もヴァージンレコードに移籍し、P.L.Jバンド名義を含めて4枚のアルバムを残して1988年に解散している。ギタリストのパヴロス・キクリリスは、ソロに転向して1990年に1枚のアルバムをリリースし、その後作曲家として活躍。キーボード奏者兼ヴォーカリストのラヴレンティス・マハイリツァスもソロに転向して多くのアルバムを残し、ギリシャを代表するロック作曲家、作詞家、歌手、ギタリストとして著名なアーティストとなるが、2019年9月9日にギリシャのヴォロスで死去している。ギタリストのアントニス・ミツェロスは、ギリシャの偉大なるギタリスト兼作曲家となり、ソロアルバムだけではなく多くのアーティストとのコラボレーション作品を残している。グループ解散後の1991年にドイツのレーベルであるセカンド・バトルが本アルバムに関心を寄せ、アナログレコードをリイシュー。その後、CDでも発売され、非常に良いセールスだったため、アメリカでもリリースされている。この時点でポリグラムは慌ててアルバム利権を買い戻し、ワールドワイドで再発している。その後、2020年に日本でもベル・アンティークよりリマスター化され、多くのプログレファンが「曰くつき」のサウンドを耳にすることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は旧約聖書中の三大預言書の1つ、エゼキエルが予言した世界最終戦争をテーマにしつつも、その冒涜的な内容によって回収されてしまったP.L.Jバンドのデビューアルバム『アルマゲドン』を紹介しました。原盤はプレスした1,000枚のほとんどが回収されてしまったために、プログレファンにとってはコレクターアイテム化されていたようですが、ドイツのレーベルが発掘したことをきっかけにようやく市場に出回り、輸入盤のCDで聴いた人も多いのではないでしょうか。私は今回、ベル・アンティーク盤でリリースされた際に初めて聴きました。エゼキエル書をテーマにしたコンセプトアルバムは、以前に紹介したスペインのプログレッシヴロックグループ、イトイスのセカンドアルバムにも使用されていますが、こちらのP.L.Jバンドのほうは預言書の言葉をストレートに引用しています。そのため、語り口調となったラヴレンティス・マハイリツァスのヴォーカルが重苦しく、その呪術的な語りを演出するかのようなサイケデリックなギター、浮遊感のあるシンセサイザーが印象的です。とはいえ、地中海に面したギリシャテイストあふれるギターのアルペジオは美しく、ストリングシンセサイザーと合わせた飛翔するかのようなアントニス・ミツェロスのエレクトリックギターが素晴らしく、動と静のあるギターをバックにしたエキゾチックさが彼らの魅力であり個性でもあります。終末戦争後の賛美歌に近い『聖歌』を経て、最後のフォーキーな『スターウィッシュ』は、安堵に近い「希望」を歌詞に載せていて、個人的にコンセプトアルバムとしても価値は高いと思っています。

 本アルバムは後に回収されてしまい「曰くつき」の作品になってしまいますが、複数のギターを基調としたメロディをはじめ、その安定した演奏技術は折り紙付きです。ギリシャの一角を担うはずだったグループが残した渾身のアルバムを、ぜひ、この機会に聴いてみてほしいです。

それではまたっ!