【今日の1枚】Socrates/Phos(ソクラテス/フォス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Socrates/Phos
ソクラテス/フォス
1976年リリース

ヴァンゲリスのキーボードアレンジが利いた
エキゾチックなプログレッシヴロック

 アフロディテス・チャイルドと並んで、1970年代のギリシャを代表するプログレッシヴロックグループ、ソクラテス(正式名はソクラテス・ドランク・ザ・コニウム)の4枚目のアルバム。そのアルバムはかのヴァンゲリスが前面バックアップを得て制作されたものであり、彼らのサイケデリック性の強いブルースロックとヴァンゲリスの多彩なキーボードによるオーケストレイションが見事に融合された画期的な作品となっている。アルバム自体は国内で20万枚を越える売り上げを誇り、ソクラテスがギリシャを代表するプログレシヴロックグループの1つとなった名盤でもある。

 ソクラテス(ソクラテス・ドランク・ザ・コニウム)は、1969年にギリシャのアテネで結成されたグループである。創設メンバーであるギタリストのヤニス・スパタスとベーシスト兼ヴォーカルのアントニス・トルコジルギスは、ギリシャのアッティカ地方のピレアスで生まれ育ち、1966年にザ・パーソンズというグループを結成している。主にゾンビーズの『タイム・オブ・ザ・シーズン』のアレンジ曲をはじめとしたシングルを3枚リリースしたが、1969年に解散。メンバーだったヤニス・スパタスとアントニス・トルコジルギスは、ギターを中心としたハードロックを目指すべく、ソクラテス・ドランク・ザ・コニウムというグループを1970年に結成する。この時のメンバーはヤニス・スパタス(ギター)、アントニス・トルコジルギス(ベース)、エリアス・ブコウバラス(ドラム)のトリオである。彼らはアテネのクラブで活動を開始し、演奏スタイルはジミ・ヘンドリックスやクリームのようなブリティッシュ・ブルースロックに強い影響を受けたハードロックだったが、変拍子を用いるプログレッシヴロックの要素も併せ持っていたという。1971年にリリースされたデビューアルバム『ソクラテス・ドランク・ザ・コニウム』は、ギタリストのヤニス・スパタスのテクニカルなギターが注目されたという。1972年のセカンドアルバム『テイスト・ザ・コニウム』は、13分に及ぶローリングストーンズの『サティスファクション』を含んだ意欲的なアルバムとなっている。ライヴステージも上々で、ギリシャの他のロックグループとは一線を画したユニークなグループとして人気も次第に上昇していったという。その後、3枚目のアルバム『オン・ザ・ウイングス』を1973年にリリース。ブルースとハードロックを絶妙に融合させたヤニス・スパタスの素晴らしいギターが冴えたアルバムとなっている。しかし、ソクラテスはレコードレーベルであるポリドールとの契約が満了したことを機に、活動を休止することになる。この頃から彼らはハードロックの限界を感じ始めており、違った音楽スタイルを模索していたと思われる。彼らが注目したのは、デミル・ルソスやヴァンゲリス・パパサナショウといったギリシャを代表するアーティストが集結したグループ、アフロディテス・チャイルドの存在である。中でも1971年にリリースした『666 - アフロディテス・チャイルドの不思議な世界』は、新約聖書のヨハネの黙示録を題材とした傑作であり、そのアルバムをプロデュース兼作曲、キーボードを担当したヴァンゲリスがソロ転向しているということである。彼らは1975年にヴァンゲリスをプロデューサー兼キーボーディストとして迎えることに成功し、アルバムのレコーディングを開始。この時にドラマーがエリアス・ブコウバラスからジョージ・トランタリディスと交代している。こうしてレコードレーベルをヴァーティゴに変えて、4枚目のアルバム『フォス』が1976年にリリースされる。そのアルバムの多くは過去曲の再録となっているが、従来のハードロックテイストにヴァンゲリスの多彩なキーボードによるオーケストレイションが融合した良質のプログレッシヴロックとなっている。
 
★曲目★
01.Starvation(飢餓)
02.Queen Of The Universe(宇宙の女王)
03.Every Dream Comes To An End(夢は全て終わる)
04.The Bride(花嫁)
05.Killer(殺し屋)
06.A Day In Heaven(天国の一日)
07.Time Of Pain(痛みの時)
08.Mountains(山々)

 アルバムの1曲目の『飢餓』は、ヤニスのブルージーなギターとヴァンゲリスのポップなキーボードに導かれるハードロック。ギターとユニゾンするヴォーカルはビブラートを利かせており、ギリシャ的なメロディが散りばめられた内容になっている。2曲目の『宇宙の女王』は、スペイシーなキーボードとブルージーなギターをベースにしたミステリアスな楽曲。奇妙とも言えるミスマッチが新たな感覚を呼び起こしたプログレッシヴなナンバーとなっている。3曲目の『夢は全て終わる』は、ソクラテスとヴァンゲリスの共作でピアノを中心に展開される美しいインストゥメンタル曲。ヴァンゲリスのシンセサイザーやピアノが全編に漂うが、ヤニスの抒情的なギターも素晴らしい。4曲目の『花嫁』は、心地よい地中海テイストのアクセントを加えたメロディが印象的な楽曲。こちらもヴォーカルとユニゾンで絡むギターが面白い。5曲目の『殺し屋』はかつてのソクラテスらしいブルースハードロック。複雑なギターアンサンブルとパワフルなヴォーカルがブリティッシュハードを思わせる。6曲目の『天国の一日』は、ギリシャの女性シンガーであるマリアンジェラが加わったバラード曲。ゆったりとした流れの中でヴォーカルを際立たせるために控え目な演奏が印象的である。7曲目の『痛みの時』は、多重録音されたギターアンサンブルが美しく、P.F.Mの『チョコレート・キングス』を思わせる楽曲。後半ではヴァンゲリスがノイズとパーカッションを加えた録音をしている。9曲目の『山々』は、7分を越すアルバムの中でも長尺となっており、ハイライト的な楽曲。最初はアコースティックギターとエレクトリックギターのユニゾンリフから始まる。後にヴァンゲリスのエレクトリックピアノ上で超絶的なヤニスのギターソロが展開される。夢想的でエキゾチックな流れの中で弾くヤニスのギターは、後にギリシャが誇る天才ギタリストの片鱗をうかがわせる素晴らしさがある。曲はそのまま夢うつつの中で静かに幕を閉じていくことになる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、従来のソクラテスのブルージーなハードロックのテイストを残しつつ、ヴァンゲリスの夢想的なキーボードがうまく嚙み合ったシンフォニック性のあるアルバムとなっている。特にヴォーカルとユニゾンするヤニスのギターは達人レベルである。行き詰まりを感じていた彼らの英国のハードロックにギリシャ特有の地中海を思わせるヴァンゲリスのツボを突いたキーボードが素晴らしい作品である。

 アルバムは『ソクラテス・ウィズ・ヴァンゲリス』という名でギリシャとアメリカでリリースされ、ギリシャ国内では20万枚を越える大ヒットとなる。このアルバムをきっかけにギリシャでは1970年代を代表するプログレッシヴロックグループとなっている。この後に新たなドラマーとしてニコス・アンティパスを迎えて再びトリオに戻り、1980年に『ウェイティング・フォー・サムシング』、1981年に『ブレイキング・トゥルース』、1983年に『プラザ』と3枚のアルバムをリリースしたが、商業的にうまくいかず解散することになる。解散後のヤニスはギタリスト兼オーケストレイション担当として、ギリシャの数多くのアーティストのアルバムに参加していくことになる。1999年にはギリシャの女性シンガーであるハリス・アレクシオが参加したソロアルバムをリリースしている。ドラマーだったジョージ・トランタリディスは1979年にフェニックスというジャズロックグループを結成して1枚のアルバムをリリースしている。また、2002年にはアントニス・トルコジルギスが新たなメンバーを揃えてソクラテスが再編。2010年までギリシャでショーを行うなど、定期的にライヴを中心に活動をしたという。なお、ギリシャの天才ギタリストと謳われたヤニス・スパタスは、2019年7月6日に心臓発作で亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1970年代のギリシャを代表するプログレッシヴロックグループ、ソクラテス・ドランク・ザ・コニウムの4枚目のアルバムを紹介しました。後にソクラテスと短くなります。ギリシャのプログレと言えばヴァンゲリスが在籍していたアフロディテス・チャイルドやアクタリス、アクシス、P.L.J.バンドといったグループがありますが、今回紹介したソクラテスはギリシャを代表する天才ギタリスト、ヤニス・スパタスが在籍していたことで有名です。当初はトリオによるハードロックスタイルでしたが、本アルバムのみヴァンゲリスがプロデュース兼キーボードとして参加しており、これまでの彼らのサウンドが大きく広がった画期的な作品となっています。このブルージーなハードロックと多彩なキーボードという奇妙なミスマッチがかえって進歩的になった稀有な作品とも言えます。私はこのアルバムでヤニス・スパタスというギタリストを知りました。ヴォーカルとユニゾンするヤニスのギターも素晴らしいですが、やはり9曲目の『山々』のギターソロは圧巻というより飲み込まれます。ぜひ、最後まで聴いてほしいです。

 

 ちなみにコニウムとはセリ科の有毒植物のひとつで、ドクニンジンと呼ばれています。ギリシャの哲学者であるソクラテスはその毒の入った盃を飲んで死んだと言われています。その出来事をそのままグループ名にしているところを鑑みると、たぶん刺激的な音楽(ロック)をやっていきたいという意味合いもあったのだろうと思います。彼らの初期の3枚のアルバムは、刺激的というほどではありませんが、非常にエキゾチックなブルースハードロックになっています。ハードロック好きな人は初期の3枚もオススメですよ。

それではまたっ!