【今日の1枚】Barclay James Harvest/Once Again | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Barclay James Harvest/Once Again
バークレイ・ジェームス・ハーヴェスト/ワンス・アゲイン
1971年リリース

牧歌的なメロディをオーケストラアレンジで
包んだ極上のシンフォニックアルバム

 英国きっての抒情派シンフォニックロックグループの代表格、バークレイ・ジェームス・ハーヴェストのセカンドアルバム。デビュー作同様にロバート・ジョン・ゴドフリー指揮のオーケストラが加わっており、気品あるメロトロンや抒情的なギターなど、英国らしい牧歌的なフレーズと合わさった秀逸なメロディが特徴の作品となっている。本アルバムでグループの知名度は一気に高まり、後に英国のみならずヨーロッパや日本でも愛され続けることになる初期の傑作でもある。

 バークレイ・ジェームス・ハーヴェストは、1966年9月にイギリスのオールダムで結成されたグループである。メンバーはジョン・リーズ(ヴォーカル、ギター)、レス・ホルロイド(ベース、ヴォーカル)、スチュアート・ウーリー・ウォルステンホルム(キーボード、ヴォーカル)、メル・プリッチャードの4人であり、地元のクラブでザ・ビートルズのコピーやR&Bを中心に演奏していたという。しかし、当時はバーミンガムでムーディー・ブルースが華々しくデビューし、シンセサイザーやメロトロンをいち早く使用していることに衝撃を受け、彼らはクラシックを取り入れたロックが出来ないか思案し始めている。後の1968年初頭には英国のEMI傘下のパーロフォン・レーベルとシングル契約を結び、『Early Morning/Mr. Sunshine(早朝/ミスター・サンシャイン)をリリースし、『Early Morning』ではメロトロンを使用した美しい曲が話題を呼んだという。その後、もっと自分たちの理想の音楽を実現するために、より斬新的に傾斜した同じEMI傘下のハーヴェスト・レーベルに移籍している。彼らはアルバム制作でも、先の1967年にリリースしたムーディー・ブルースのオーケストラとの競演で新しいロックのスタイルを築き上げたアルバム『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』を参考にしている。この時、王立音楽アカデミー出身でコンサート・ピアニストのマルコム・ビンズに師事していたロバート・ジョン・ゴドフリーと出会い、彼の元でオーケストラとロックの融合を試みていたという。メンバーはゴドフリーをグループの嘱託ミュージックディレクターとして共に作曲や録音を行い、1970年にデビューアルバム『バークレイ・ジェームス・ハーヴェスト』をリリースすることになる。そのアルバムはゴドフリー指揮のバークレイ・ジェームス・ハーベスト・オーケストラをバックに、サイケデリックな香りを残しつつ、フォークとロック、そしてクラシックの要素を融合させた画期的なアルバムとなっている。売り上げには結びつかなかったが、メンバーは手応えを感じて、前作と同じようにオーケストラをバックにレコーディングされたのが本アルバムの『ワンス・アゲイン』である。その作品は“もう一度”というタイトル通り、前作の流れを踏襲しつつ、より英国らしい牧歌性と豊かな詩情を交え、『シー・セッド』、『ギャラドリール』、『モッキン・バード』という名曲を生み出したバークレイ・ジェームス・ハーヴェストの初期の傑作となっている。また、ゲストには後にロンドン・セッション・オーケストラやペンギン・カフェ・オーケストラのリーダーとなるヴァイオリン奏者のギャビン・ライトが参加している。

★曲目★ 
01.She Said(シー・セッド)
02.Happy Old World(古くも楽しきこの世界)
03.Song For Dying(屍の讃歌)
04.Galadriel(ギャラドリール)
05.Mocking Bird(モッキン・バード)
06.Vanessa Simmons(ヴァネッサ・シモンズ)
07.Ball And Chain(ボール・アンド・チェイン)
08.Lady Loves(レディ・ラヴズ)
★ボーナストラック★※2008年リマスター盤より
09.Introduction - White Sails(イントロダクション -ホワイト・セイルズ)
10.Too Much On Your Plate(トゥー・マッチ・オン・ユア・プレート)
11.Happy Old World ~Quadrophonic Mix~(ハッピー・オールド・ワールド~4チャンネル・ミックス~)
12.Vanessa Simmons~Quadrophonic Mix~(ヴァネッサ・シモンズ~4チャンネル・ミックス~)
13.Ball And Chain~Quadrophonic Mix~(ボール・アンド・チェイン~4チャンネル・ミックス~)

 アルバムの1曲目の『シー・セッド』は、ジョン・リーズが作曲した8分を越える楽曲。冒頭からメロトロンをバックに特徴的なギターサウンドが大きくフィーチャーされており、リズムセクションはドラマーを通して叫びの感情を表し、途中にフルートの美しいパッセージが入るエモーショナルなラヴソングとなっている。初期のバークレイ・ジェームス・ハーヴェストを表すような狂おしいほど美しい名曲である。2曲目の『古くも楽しきこの世界』は、静かなベース音からバックに軽いメロトロンが入った素晴らしいヴァースで始まり、憂鬱さを打ち破るようなキャッチーなコーラスが特徴の楽曲。最後は夢心地なピアノとオルガンに包まれながらフェードアウトしていく。3曲目の『屍の讃歌』は、牧歌的なピアノ主導のリフレインとかなりエモーショナルなギターが伴うダイナミックな楽曲。ザ・ビートルズに刺激されたかのような反戦歌になっているが、最後のほうでキング・クリムゾンを思わせるフレーズがある。4曲目の『ギャラドリール』は、ジョン・リーズがジョン・レノンのエピフォン・カジノ・ギターを使用して演奏したという美しい楽曲。そのギターとバックのメロトロンが見事に調和した名曲になっている。5曲目の『モッキン・バード』は、作曲したジョン・リーズとこの世とは思えないゴドフリーの効果的なオーケストレーションがもたらしたプログレッシヴロック不朽の名曲。大げさになりがちなオーケストラの楽曲が、リスナーの下に静かに降りてきて穏やかさを取り戻すゴドフリーのオーケストラアレンジの妙が素晴らしい。6曲目の『ヴァネッサ・シモンズ』は、アコースティックギターをメインにしたフォーキーな楽曲。彼らの得意とする内容だが、ジョン・リーズがいかにしてフォークの境界を越えてきたかを示すクラシカルさが全体に漂っている。7曲目の『ポール・アンド・チェイン』は、キーボードとアグレッシヴなギターを中心としたハードロックタイプの楽曲。こちらはどちらかというと彼らが苦手とするジャンルだが、ウォルステンホルムの一見洗練されたヴォーカルがどこか官能的ですらある。8曲目の『レディ・ラヴズ』は、泣きのギターとピアノを中心とした牧歌的でロマンティックな楽曲。この曲ではエンジニアであったアラン・パーソンズによるジョー・ハープの演奏が録音されている。ボーナストラックの『イントロダクション -ホワイト・セイルズ』は、ゴドフリー主導の波の音とオーケストラを融合した美しい楽曲。『トゥー・マッチ・オン・ユア・プレート』は、キーボードレスのツインギターをメインにしたヴォーカル曲となっている。残りは1973年の4チャンネルミックスでミックスダウンされた高解像度の楽曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、メロトロンとオーケストラアレンジが全編に渡っているが、決して大仰ではなく牧歌系とでも言いたくなるような抒情性を大事にしたアルバムだと思える。ムーディー・ブルースの後追いとも言われるが、ギターのハードさやキング・クリムゾンの『エピタフ』を意識したメロトロンの使い方など、ムーディー・ブルースよりも遥かにロックっぽい仕上がりになっている。

 アルバムは英国で高く評価され、『モッキン・バード』と『シー・セッド』がシングルカットされて話題を呼んだという。特に『モッキン・バード』はゴドフリーのオーケストラアレンジの腕前が注目され、その後のイギリス国内のツアーはゴドフリーの指導の下でフルオーケストラで行われたという。同年にリリースされたサードアルバム『アンド・アザー・ショート・ストーリーズ』は、さらに大きな成果を上げたものの、ゴドフリーがグループで最も人気のある楽曲の1つである『モッキン・バード』の作曲を巡ってメンバーと衝突し、グループを離れることになる。ゴドフリーはその後、ソロ作品『ハイペリオンの没落』をリリースし、1973年にプログレッシヴロックグループであるエニドを創設することはあまりにも有名である。ゴドフリーの代わりのオーケストラ作品の監督は、マーティン・フォードが務めるようになる。1972年に4枚目のアルバム『ベイビー・ジェイムス・ハーヴェスト』がリリースされ、この頃からツアーの多さに辟易していたという。彼らはEMIを去ってポリドールと契約し、5枚目のアルバム『宇宙の子供たち』をリリースする。このアルバムは彼らの芸術的な最高到達点だと高く評価され、ラジオキャロラインで広く流されているアルバムとなり、後にジョン・ピールの「BBCラジオ1セッション」に招待されることになる。1974年には2枚組ライヴアルバム『バークレイ・ジェームス・ハーヴェスト・ライヴ』は、英国で初めて40位というチャート入りし、彼らがいかに確固たるファン層を基盤にしているかがよく分かる。その後は1975年に名曲『Titles』を収録したアルバム『神話の中の亡霊』、1976年に英国で19位にランクインしたアルバム『妖精王』、ヨーロッパ本土におけるメインストリーム市場に参入したアルバム『ゴーン・トゥ・アース』など堅実に知名度と売上を高めていく。しかし、1978年リリースの『Ⅶ』をリリース後、サウンドのトレードマークでもあったメロトロンを演奏するスチュワート・ウォルステンホルムが脱退することになる。この後、しばらく3人で活動を続けていたが、1998年以降にバークレイ・ジェームス・ハーヴェストの名前を使った2つのグループが派生することになる。1つはジョン・リーズを中心とした“ジョン・リーズ・バークレイ・ジェームズ・ハーヴェスト”であり、もう1つが2002年にベーシストのレス・ホルロイドとドラマーのメル・プリッチャードを中心とした“バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト・フィーチャリング・レス・ホルロイド”である。ファンにとっては悲劇この上ない出来事だが、2つのグループは2010年以降も活動を続けたという。だが、悲劇は終わらず2004年初頭にメル・プリッチャードは心臓発作で亡くなり、長年鬱病で苦しんでいたというスチュワート・ウォルステンホルムも2010年12月に亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はシンフォニックプログレの中でも抒情派と呼ばれたバークレイ・ジェームス・ハーヴェストのセカンドアルバム『ワンス・アゲイン』を紹介しました。私がこのグループを聴き始めは『妖精王』、『神話の中の亡霊』、『宇宙の子供たち』といったいわゆるバークレイ・ジェームス・ハーヴェストの中期の名盤と呼ばれるアルバムからです。この後少し間が開きましたが、本アルバムを聴くきっかけはやはりロバート・ジョン・ゴドフリーがオーケストラアレンジャーとして参加していたというのが大きいです。ステンドグラス調のジャケットもノスタルジックさがあって秀逸ですよね。楽曲自体は1曲目からキング・クリムゾンの『エピタフ』を思わせるメロトロンと泣きのギターが炸裂していて、全体的にロック的なダイナミズムがきちんとあって、プログレらしい質感が伴ったなかなか素晴らしいアルバムになっています。4曲目の『モッキン・バード』はゴドフリー主導のオーケストラアレンジが効果的な楽曲になっていて、当時のフルオーケストラとロックの融合を試みた多くの楽曲の中でもトップレベルの名曲だと思います。ゴドフリーのオーケストラの中にもちゃんとロックが息づいた手法にはホントに脱帽です。ただ、この曲を巡ってメンバーとゴドフリーが揉めることになるのは非常に残念です。

 

 さて、グループ名であるバークレイ・ジェームス・ハーヴェストという名の由来ですが、国際バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト・ファンクラブによると、グループ名は特に何も意味していないそうです。グループ結成時にどんな名前にしようかと考えていた際、当時は多くの音楽グループが存在していて、すでに可能性のある名前を使い果たしていたそうです。そんな時、誰が思いついたか知りませんが、逆に使い果たした名前を組み合わせちゃおう!と提案。メンバーそれぞれに可能性のあるいろいろな名前をたくさんの紙にひとつの言葉を書き入れ、その紙を帽子の中に入れて1枚ずつ引いていったそうです。グループと共に歌っていた男の名前「ジェイムス」、農家に住んでいたことに起因する「ハーヴェスト」、金を稼ぐことを志したバークレイズ銀行から取られた「バークレイ」という3つの言葉を最終的に残したそうです。その後、これらが再配置されてバークレイ・ジェイムス・ハーヴェストという最高の名前が付けられたと言われています。

ホントかいな? でも、何かいいな~と思ってしまうところもバークレイ・ジェイムス・ハーヴェストの良さでもあります。


それではまたっ!