【今日の1枚】Pink Floyd/Meddle(ピンク・フロイド/おせっかい) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Pink Floyd/Meddle
ピンク・フロイド/おせっかい
1971年リリース

人の感覚を刺激し、想像力を掻き立てる
中期ピンク・フロイドが残した幻想的な1枚

 前作『原子心母』で全英1位を獲得し、プログレッシヴロックグループたるピンク・フロイドがアーティストとしてさらに飛躍を遂げることになる6枚目のスタジオアルバム。ジャケットの青みがかった耳を覆う波紋に象徴されるように、たゆたう淡い水が全体を覆ったイメージになっており、人の持つ感覚を刺激するような唯一無二の完成度を誇ったアルバムになっている。ピンク・フロイドの代表曲となる『エコーズ』をはじめ、シド・バレット脱退後、本作で初めてグループのみの手によるオリジナル曲を作り上げており、次作のロック史に残る名盤『狂気』につながる傑作でもある。

 1967年に『夜明けの口笛吹き』でデビューしたピンク・フロイドは、実質、ギタリスト兼ヴォーカル、作曲を行うシド・バレットのワンマンバンドだったと言っても過言ではないだろう。アルバム収録曲の11曲中8曲をシド・バレットが作成しており、童話をもとにした幻想的・抽象的な歌詞とトリップ感の漂うサウンドが見事に合致した、当時のサイケデリックロック全盛時代を象徴する作品となっている。また、ステージではアドリブを擁した即興演奏やリキッドライトという舞台照明を活用したことで注目され、ピンク・フロイドを一躍人気グループに押し上げている。かつて自分たちの音楽性に行き詰まりを感じていたロジャー・ウォーターズ、リチャード・ライト、ニック・メイスンの3人だったが、カリスマ性のあるシド・バレットが加入したことでサイケデリックロックグループ、ピンク・フロイドを創り上げていたのだろう。彼らはシド・バレットの感性に委ねていたと言っても良い。しかし、そんなグループにとって重要な存在であったシドだったが、アルバム制作時から過度のLSD摂取によって奇行が目立ち始める。グループの活動に支障が目立ち始めたため、1968年にシド・バレットの役割を補う形でデヴィッド・ギルモアが加入している。ギルモア加入後も5人で活動し、グループはシド・バレットをライヴを休ませては曲作りに専念させるなど様々な方法で彼を支えたが、それすら不可能となるほど重症となり、結局シド・バレットは1968年3月にグループを脱退することになる。サイケデリックロックであったピンク・フロイドの終焉である。

 4人となった彼らは方針を転換して、より独創性の高い音楽を目指すようになる。1968年のセカンドアルバム『神秘』は約12分に及ぶインストゥルメンタル曲を収録し、1969年にリリースされたサードアルバム『モア』は、同年に公開されたバルベ・シュローダー監督の映画『モア』のサウンドトラックとして制作されている。同年に発表された4枚目のアルバム『ウマグマ』は、この年に精力的にライヴ活動を繰り広げていたことで、ライヴとスタジオの両レコーディングで構成された2枚組となっている。この頃からピンク・フロイドが高次元のライヴパフォーマンスを行うグループとして認知されるようになる。また、この1969年にはミケランジェロ・アントニオーニ監督の映画『砂丘』の音楽も手がけている。先鋭的な音楽だけではなく、映画のサウンドトラックを手掛け、高いライヴパフォーマンスで一躍有名になっていたピンク・フロイドが満を持して1970年に発表したのが、5枚目となる本アルバム『原子心母』である。アビー・ロード・スタジオ専属のエンジニア、アラン・パーソンズとピーター・ブラウンが曲を組み立てたタイトル曲の『原子心母』は、当時アナログA面を覆い尽くす23分を越える大作になっており、ピンク・フロイドを語る上で欠かせない傑作アルバムとなっている。全英アルバムチャートで1位を獲得し、批評家筋からも絶賛されたことで音楽的・商業的に成功を収めた彼らは、英国だけではなく全世界にプログレッシヴロックの代表グループとして認知されるようになる。そんな中でリリースされたのが、1971年のアルバム『おせっかい』である。このアルバムはシド・バレット脱退後、初めてグループのみの手で作り上げたオリジナルとなっており、ピンク・フロイドがアーティストとして一大飛躍を遂げた傑作となっている。
 
★曲目★
01.One Of These Days(吹けよ嵐、呼べよ嵐)
02.A Pillow Of Winds(ピロウ・オブ・ウインズ)
03.Fearless(フィアレス)
04.San Tropez(サン・トロぺ)
05.Seamus(シーマスのブルース)
06.Echoes(エコーズ)

 アルバムの1曲目の『吹けよ嵐、呼べよ嵐』は、冒頭から風の音が20数秒流れた後に、左右のチャンネルで不気味ともいえる二重のベースラインが象徴的な楽曲。ロジャー・ウォーターズの鳴らす地響きのようなベース音と、デヴィッド・ギルモアの荒れ狂うギターが嵐と風を創出し、一種の恐怖を駆り立てている。途中で聞こえる叫び声はドラマーのニック・メイスンの声で「いつの日か、お前を細切れにしてやる」と言っている。全日本プロレスにおいてアブドーラ・ザ・ブッチャー、またはザ・シークの入場テーマ曲として広く認知されており、インストゥメンタル曲ながら日本ではシングルカットされて13週に渡ってランクインするスマッシュヒットとなった異彩の曲でもある。2曲目の『ピロウ・オブ・ウインズ』は、デヴィッド・ギルモアが作曲し、ロジャー・ウォーターズが作詞したピンク・フロイドでは異例とも言える愛の歌。シタールみたいな響きを持つギルモアのアコースティックギターによるフォーキーなサウンドだが、まるで薄氷の上を歩いているような繊細さが堪らない。3曲目の『フィアレス』は、デヴィッド・ギルモアが作成した曲にロジャー・ウォーターズが詩を付けた楽曲で、ベーシストであるウォーターズはシド・バレットから学んだ上昇志向のリフを作っており、アルバム制作に関してこのリフと共にリズムギターを担当している。曲の終了間際には、リヴァプールFCのゴール裏サポーターが歌う『You'll Never Walk Alone』がサンプリングされている。4曲目の『サン・トロぺ』は、南フランスのヴァール県のコミューンでフレンチ・リビエラにあるサントロペという場所についてウォーターズ自身が作詞作曲したもの。軽快なライトのピアノとメイスンのドラムを中心としたサウンドになっており、まさに1日のバカンスを反映したようなほのぼのとした内容になっている。5曲目の『シーマスのブルース』は、メンバー全員が手掛けた曲であり、ヴォーカルはギルモア。犬の鳴き声をアコースティックブルース調にしたものであり、短い曲ながらメンバーのユーモアが詰まった1曲になっている。6曲目の『エコーズ』は、当時レコードのB面を占めた23分を越える大曲であり、ピンク・フロイドを代表する楽曲。冒頭の不安をあおるようなトーン音、揺らぎのあるギターやリズム音、エレクトリックピアノ、そしてヴォーカルがまるで水の中で音を創り出しているかのような響きを持った楽曲。鳥の嘶きのようなギルモアのギターソロからセッション風のサウンドになり、一定のリズムと相まってトリップ感が半端ない。後に楽器による鳥の鳴き声や風の音のような神秘的な世界が広がり、聴く者の想像力を掻き立てる。メンバー4人の持ち味が見事に溶け合った初期フロイドの真骨頂といもいえる名曲である。

 本アルバムは全英アルバムチャートで第3位、全米で第70位を記録。一方、日本ではオリコンチャートで9位を記録しており、前作よりも順位を上げている。商業的には前作を越えていないものの、グループにとって音楽的に飛躍するきっかけとなっている。ロジャー・ウォーターズはアルバムがアメリカでまずまずの評価を受けた一方、イギリスでの評価は芳しくなかったことに憤りとショックを受けたという。同年8月には初来日が実現し、音楽フェスティバル「箱根アフロディーテ」などでコンサートを披露し、その楽曲と高いパフォーマンスでピンク・フロイドというグループが日本でも広く認知されることになる。ツアー終了後にグループは次なるアルバムの制作に取り掛かり、それに先立ってロジャー・ウォーターズは新作のアルバムのテーマとして「人間の内面に潜む狂気」を描くことを提案する。ウォーターズは『おせっかい』のレコーディングセッションの終盤で書き下ろしたという歌詞であり、それは元メンバーであったシド・バレットについて深く触れたものだったという。このアイデアを元に組曲を作り上げ、翌年の1972年1月のコンサートから『A Piece for Assorted Lunatics』というタイトルで披露することになる。後にそれが8枚目のモンスターアルバムとなる『狂気』である。1973年3月にリリースされた『狂気』は、発売と同時にシングルヒットした『マネー』と共に初の全米1位となり、全世界で大ヒットを記録。アルバムは音楽的にも商業的にも大成功を収めることになる。その後『狂気』はビルボードのアルバムTOP100に741週間(約15年間)にわたりランクインし続けることは周知のとおりである。こうしてピンク・フロイドは一躍スターダムにのし上がることになるが、コンサートの観客数は大幅に増え、客層も変わっていったことに彼らの取り巻く状況は一変してしまい、ウォーターズとメイスンの離婚の危機や前作『狂気』の成功の重圧から、新たなアルバム作りは困難を極めることになる。これにより次なるアルバム『炎〜あなたがここにいてほしい~』がリリースするまで2年以上かかり、全米、全英ともに1位を記録したもののセールス面で伸び悩んだという。その後はピンク・フロイドが発表する大掛かりなコンセプトアルバムは、台頭するパンク/ニューウェーヴによって“オールドウェーヴ”とレッテルを貼られる批判の的となり、次第に幻想的な音創りは影を潜め、分かりやすいロックサウンドに変化していくことになる。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は『原子心母』と『狂気』という偉大なアルバムに挟まれているためか、イマイチ評価されないピンク・フロイドの6枚目のスタジオアルバム『おせっかい』を紹介しました。とはいっても、『吹けよ嵐、呼べよ嵐』や『エコーズ』というピンク・フロイドを代表する曲が収録されていて、また、人の感覚を刺激するような音が散りばめられていることから、フロイドファンの中では好きな1枚とされているようです。前回に紹介した『原子心母』でも述べましたが、私はプログレッシヴロックを聴き始めた高校生の時、世界的に評価の高いピンク・フロイドの名盤『狂気』を聴き始めたのが原因で、一時ピンク・フロイドから離れてしまった1人です。エイジアをきっかけにキング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマー、イエス、ジェネシスなど大御所を聴いていました。それぞれある程度の難解さはあっても聴き惚れていったものですが、『狂気』の楽曲にある笑い声、会話、爆発音、振り子時計、心臓の鼓動の音といった効果音や抽象的なサウンドが前衛すぎて着いていけなかったのです。その後、そっ閉じになったわけですが、2000年に入った頃でしょうか、いろんなプログレッシヴロックに触れていった中で、ロジャー・ウォーターズの『狂気』のインタビュー記事を拝見する機会がありました。実はウォーターズの哲学的な歌詞を際立たせる立体的な音作りをしていたという内容を読んで、なるほどぉ~と思って聴き直したことがあります。その後は『原子心母』を皮切りにピンク・フロイドのアルバムを聴くようになって、これまで曲中心だった私が歌詞にも着目するようになったグループでもあります。

 さて、本アルバムは『原子心母』の次に聴いた作品で、個人的にも好きなアルバムです。ジャケットはヒプノシスによる青みがかった耳を覆う波紋をイメージしていて、収録曲の『エコーズ』を象徴したものになっています。『エコーズ』という曲は、ニック・メイスンいわく、初めてシド・バレットのいないピンク・フロイドがスタートした曲だと言っています。確かに過去のサイケデリックロック時代のピンク・フロイドから歌詞と音の可能性を探ろうとするメンバー4人の持ち味が見事に溶け合った唯一無比の名曲だと思います。『吹けよ嵐、呼べよ嵐』と『エコーズ』の曲はどちらかというと恐怖と不安を駆り立てるようなイメージとなっています。その不安こそが彼らの研ぎ澄まされた感性から生まれた真骨頂ともいえます。その他の曲はメンバーたちのひと時の安らぎといったところでしょうか。この不安と安らぎの両方のある本アルバムは、次の歴史的な名盤『狂気』に向けて上昇していく彼らのひとつの実験作でもあったということです。自分も最初にこういうアルバムを聴いていれば、もっとピンク・フロイドのことを好きになっていたかも知れませんね。

それではまたっ!