【今日の1枚】Triumvirat/Illusions On A Double Dimple | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Triumvirat/Illusions On A Double Dimple
トリアンヴィラート/二重えくぼの幻影
1974年リリース

ロマンティックな音色を湛えた
極上のコンセプトアルバム

 ドイツのEL&Pと呼ばれたキーボードトリオグループ、トリアンヴィラートのセカンドアルバム。そのアルバムはユルゲン・フリッツのピアノやハモンドオルガン、モーグシンセサイザーを駆使したクラシカルなエッセンスを散りばめたキーボードロックになっており、バッキングヴォーカルにドイツの女性歌手ウラ・ヴィースナーとハンナ・デーリッチュを迎え、160時間もの制作時間を使ってレコーディングされた一大コンセプト作となっている。このアルバムでイギリスやアメリカにも進出し、アメリカのFMチャートで2位を記録するなど、飛躍的にグループの知名度を高めた名盤でもある。

 トリアンヴィラートは1969年にドイツのケルンにて、キーボード奏者のハンス・ユルゲン・フリッツ(後にユルゲン・フリッツ)によって結成されたグループである。彼は西ドイツのケルンで生まれ、両親の勧めで12歳の頃にアコーディオンやサッカー、グループを組んではドラマーとして演奏したりしていたという。しかし、どれも才能がないことを知って辞めているが、ピアノのレッスンだけは続けて音楽学校に進学。正規の音楽理論を学んでキーボードやベースをマスターしている。フリッツは地元のグループに加入して演奏する毎日だったが、別のグループでザ・フーやザ・ビートルズといったカヴァーグループの一員として活躍していたドラマーのハンス・バテルトと出会うことになる。フリッツとバテルトは同じ音楽学校の学友である。ベースとヴォーカルを担当するディック・フランゲンバーグが加わったことを契機に、1969年にトリオ編成という新しいグループでの活動を開始する。フリッツがトリオ編成にこだわったのは、当時イギリスで席巻していた天才キーボディスト、キース・エマーソン率いるザ・ナイスの影響である。フリッツ自身もキース・エマーソンを尊敬しており、紀元前の共和制ローマの政治体制として形成された“三頭政治”にちなんで、グループ名を“トリアンヴィラート”と名づけている。

 最初の活動はザ・ナイスのカヴァー曲を中心に演奏していたが、後にフリッツが作曲、バテルトが作詞を担当したオリジナル曲を書くようになる。1971年になるとディック・フランゲンバーグが脱退し、代わりにハンス・パペ(ベース、ヴォーカル)が加入したことで、オリジナル曲を自前のテープレコーダーで録音したデモテープを制作。これがハルトムート・プリースというマネージャーの耳に止まり、彼を通じてドイツのEMIエレクトローラのプロデューサーであるラインハルト・ピエッシュに紹介され、トリアンヴィラートと契約することになる。このドイツEMIエレクトローラもプログレッシヴロックに力を入れており、イギリスEMIが立ち上げたレーベル、ハーヴェストにならって、同じハーヴェスト・レーベルを設立したばかりだったという。1972年にリリースされたデビューアルバムの『地中海物語』は、先のラインハルト・ピエッシュがプロデュースし、わずか3日で録音、3ヵ月後にリリースというスピードで行われている。そのアルバムはザ・ナイスの幻影を残しつつも、秘められた音楽の可能性を感じさせるには十分の出来栄えだったという。彼らはギグを重ねる一方、次のアルバムに向けたアイデアを練り始め、1973年6月から地元のケルンのエレクトローラ・スタジオでレコーディングを開始している。前作はデモテープを基に3日というスピードで録音されたが、今回はユルゲン・フリッツ自身がプロデュースする形で制作に臨んでいる。こうしてレコーディングが開始されたが、レコードのA面を覆う『二重えくぼの幻影』のベーシックトラックがほぼ完成した段階でベーシスト兼ヴォーカリストのハンス・パペが脱退してしまう。パペが脱退した理由は、結婚したばかりの彼の婦人が夫のツアーを嫌い、普通の定職についてほしいと希望したためである。代わって加入したのがベース兼ヴォーカル、ギターを担当するヘルムート・ケーレンである。ケーレンはフリッツの従兄弟にあたり、かつて自動車のフォード工場で働いていたが辞めて、フリッツがトリアンヴィラートでデビューするとローディとして手伝うことがあったという。少年時代ではフリッツとバンドを組んで演奏した経験もあり、自然な成り行きで正式メンバーとして迎え入れられている。録音にはザ・ケルン・オペラハウス・オーケストラやバックコーラスに女性歌手ウラ・ヴィースナーやハンナ・デーリッチュが参加し、ケーレンの加入によってアコースティック&エレクトリックギターのパートが追加されている。また、フリッツはグランドピアノやハモンドオルガンだけではなく、新たにモーグシンセサイザーを導入したことで、これまで以上に複雑な構造のサウンドとなり、レコーディングは1973年10月まで何と160時間に及んでいる。こうして1974年3月に満を持してセカンドアルバム『二重えくぼの幻影』がリリースされることになる。そのアルバムはレコードのA面B面それぞれ6つの楽章からなる組曲を配した一大コンセプトアルバムになっており、フリッツのロマンティックなキーボードプレイを中心とした極上のサウンドになっている。
 
★曲目★ 
01.Illusions On A Double Dimple(二重えくぼの幻影)
 a.Flashback(フラッシュバック)
 b.Schooldays(スクールデイズ)
 c.Triangle(トライアングル)
 d.Illusions(イリュージョンズ)
 e.Dimplicity(ディンプリシティ)
 f.Last Dance(ラスト・ダンス)
02.Mister Ten Percent(ミスター・テン・パーセント)
 a.Maze(迷路)
 b.Dawning(夜明け)
 c.Bad Deal(悪)
 d.Roundabout(迂回)
 e.Lucky Girl(ラッキー・ガール)
 f.Million Dollars(100万ドル)
★ボーナストラック★
03.Dancer's Delight(ダンサーズ・ディライト)
04.Timothy(ティモシー)
05.Dimplicity ~Edit~(ティモシー~エディット・エディション~)
06.Million Dollars ~Edit~(100万ドル~エディット・エディション~)

 アルバムの1曲目の『二重えくぼの幻影』は、6つの楽章で構成された楽曲であり、フリッツ自身が以前から作曲していたもの。テーマは人生に賭け、敗れてしまった人々を歌ったものであり、それでも新たな道を進んでほしいと願った讃歌である。冒頭の『フラッシュバック』では、華麗なグランドピアノで幕を開け、ケーレンの優しいヴォーカルが響く。後の『スクールデイズ』ではモーグシンセサイザーを中心としたアンサンブルとなり、アコースティックギターやコーラスが加わったドラマティックな展開となる。『トライアングル』では複雑なリズム上でフリッツのピアノの鍵盤裁きと縦横無尽のモーグシンセサイザーが飛び交い、女性コーラスが彩りを与えている。演奏はまるでエマーソン・レイク&パーマーを彷彿とさせるが、アグレッシヴでありながらどこかロマンティックさのあるトリアンヴィラートならではの楽曲である。『イリュージョン』はオーケストラと女性ヴォーカルをフィーチャーしたシンフォニックな楽曲となっており、『ディンプリシティ』は、英国らしいメロディアスなオルガンロックとなっており、ケーレンのブルージーなヴォーカルが冴えた一曲である。『ラスト・ダンス』は、『トライアングル』をさらに複雑にしたアンサンブルとなっており、後半ではたたみかけるようなフリッツの華麗なキーボードプレイが堪能できる。レコードのB面を覆う2曲目の『ミスター・テン・パーセント』は、何もせずにギャラから10%を持っていかれるマネジメントの非業さをテーマにした楽曲。こちらも6つの楽章になっており、『迷路』は、スピーディなピアノの伴奏とリズムセクションによるジャズテイストの強い楽曲。6+6+4の16拍子のリフは迫るような力強さがある。『夜明け』はフリッツの典雅なピアノソロとなっており、ここでは一種の悲哀を表現している。『悪』は10%持っていかれるマネジメントに怒りに近い野卑なヴォーカルで歌った楽曲。それでもオーケストラや女性コーラス、ブラスセクションが加わっており、ダイナミックな展開のある内容に仕上げている。『迂回』はベースを強調したリズムセクションから畳みかけるような緩急自在の展開がスリリングな楽曲。キース・エマーソンを思わせるフリッツの力強いハモンドオルガンが炸裂した聴き応えのある内容になっている。『ラッキー・ガール』は、ケーレンが作曲、バテルトが作詞というコンビで作成された楽曲。アコースティックギターとムーグシンセサイザーをバックにしたヴォーカル曲となっており、ケーレンの作曲能力を誇示した1曲になっている。『100万ドル』はスリリングなハモンドオルガンを中心とした楽曲。ピアノをブリッジに最後はオーケストラとブラスセクションをバックにダイナミックに歌い上げ、アーティストの夢でもある100万ドルのギャラの世界を描いている。ボーナストラックの『ダンサーズ・ディライト』は、英国ロックを思わせるヴォーカル曲。ヘヴィなエレクトリックギターをフィーチャーしているのが印象的である。『ティモシー』はフリッツとケーレンのコンビが作曲した楽曲となっており、美しいアコースティックギターとモーグシンセサイザーをバックにしっとりと歌い上げたバラード曲。残りの2曲は別バージョンで録音した曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、2つの組曲で構成された楽曲でありながら非常にストーリー性の高く、キース・エマーソンを彷彿とさせるフリッツのキーボードプレイは卓越の域に達している。また、オーケストラやブラスセクションを加えたことでよりダイナミックな展開になっており、より洗練された次作のコンセプトアルバム『スパルタカス』と共にキーボードロックの傑作として高く評価されることになる。

 アルバムはドイツでリリース後、EMIエレクトローラの輸出部門にいたアレック・ジョンソンが、系列会社だったアメリカのキャピトルレコードにサンプルレコードを送付している。これを受け取ったキャピトルのA&Rチャン・ダニエルズがトリアンヴィラートの楽曲を気に入り、アメリカでリリースすることを決定。1974年8月にキャピトルレコードからリリースすると、すぐに市場が反応してラジオで頻繁に流れることになり、FMチャートで2位にランクインする快挙を成し遂げている。これを機に9月にはフリートウッド・マックの全米ツアー42公演のオープニングアクトを務めている。続けてイギリスの本家であるハーヴェストからも1974年10月にリリースされ、当時ドイツのナイン・デイズ・ワンダーやオランダのカヤック、日本のサディスティック・ミカ・バンドなど、海外のEMI系列の作品を国内に手掛け始めていた時期と重なったことがリリースのきっかけとなったそうである。1975年にはサードアルバム『スパルタカス』が発表され、前作同様に英米でもリリースされて成功を収める。その後はグランド・ファンク・レイルロードとのヨーロッパツアーを行い、スーパートランプ、ネクター、キャラヴァンとそれぞれジョイントしたアメリカツアーも行い、グループの活動の幅を広げていったが、ツアーを終えて戻ったロサンゼルスでヘルムート・ケーレンがソロ活動をするために脱退を表明する。グループは新たなメンバーを探すためにロサンゼルスでオーディションを行い、ヴォーカル兼ギタリストとしてダグ・フィージャーを加入させている。しかし、ドイツで次作のセッション中にフィージャーは脱退。彼は後に『マイ・シャローナ』で大ヒットするナックのリーダーとなっている。グループは結成時のメンバーであったベーシストのディック・フランゲンバーグを呼び戻し、イギリスのメロディーメイカー紙で募集をかけてヴォーカリストのバリー・パーマーを加えた4人編成で、1976年に4枚目のアルバム『オールド・ラヴズ・ダイ・ハード』をリリースする。しかし、今度はドラムスのハンス・バテルトが脱退してしまい、代わりにカート・クレスが加入。新たなベーシストとしてディーター・ペテロイトを迎えて5枚目のアルバム『ポンペイ』を1977年にリリースしている。一方、トリアンヴィラートのメンバーの協力を得てソロアルバムを制作していたヘルムート・ケーレンだが、1977年5月3日に録音作業を終えて帰宅し、出来上がった音を自身のガレージの車の中で聴いていた時、排気ガスによる中毒で亡くなる悲劇が起こっている。その後、トリアンヴィラートはユルゲン・フリッツのプロジェクト的なグループとして生き残って作品を作り続けたが、1980年にリリースした『ロシアン・ルーレット』を最後に解散をしている。フリッツは1980年代にTV番組や映画の音楽を手掛ける作曲家として活躍。1989年には『神になるのは簡単ではない』のサウンドトラックを一手に引き受けている。その後、2002年にはデビュー30周年を記念した『ウェブサイト・ストーリー』をWEB限定でリリースしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はドイツのEL&Pことコンセプトアルバムに定評のあるトリアンヴィラートのセカンドアルバム『二重えくぼの幻影』を紹介しました。彼らのジャケットのトレードマークでもあるハツカネズミがかわいいですね。前回、先に『スパルタカス』を紹介していて本作で2枚目になります。エマーソン・レイク&パーマー、とりわけキース・エマーソン好きの私にとって、トリアンヴィラートは比較的に早い段階でアルバムを手に入れて聴いていたグループです。他にも多くのキーボードトリオのグループはいましたが、ここまでエマーソン・レイク&パーマーに寄せたプレイはなかなか無く、聴いていて非常に馴染むものがあります。特に本アルバムのストーリー性のある流れは『タルカス』を彷彿とさせます。ちなみにタイトルの『二重えくぼの幻影』ですが、歌詞を拝見すると人生に賭け、そして敗れてしまった人々に贈る歌であり、悲しくほろ苦い味のする物語とされています。つまり、ダブル・ディンプル=二重のくぼみとも読み取れて、人生のくぼみにはまって抜け出していく人間の苦悩と希望を表現したのだろうと思っています。また、B面の『ミスター・テン・パーセント』は、イエスのアルバム『こわれもの』に収録されている『無益の5%』やキンクスのアルバム『フェイス・トゥ・フェイス』に収録されている『デッド・エンド・ストリート』など、いわゆる業界ネタともいえるテーマを取り入れているのも面白いです。グループはアメリカに進出しようとした際に、そこでマネジメントのビジネス方法に異論を唱えたらしく、一度はドイツ人気質である完全主義とアメリカのビジネスが衝突することもあったそうです。そんな中でリリースされた本アルバムは、世界進出を夢見ながらも乗り越える壁が多いアーティストの想いを体現したアルバムだと思っています。

 さて、実際のアルバムの方は、トリアンヴィラートお得意のコンセプトアルバムとなっていて、今回はレコードでいうA面B面にそれぞれひとつずつの組曲を配置した壮大な内容になっています。複雑な構造とストーリー展開のある構成という流れの中で、キーボーディストのユルゲン・フリッツの類まれな鍵盤プレイとオーケストラやブラスセクション、女性コーラスを加えたダイナミックさが印象的です。実際アルバムを聴いてみると、変拍子を多用したハモンドオルガンやピアノといった鍵盤の音使いなんてキース・エマーソンそのものとも言えます。ややファンキーともいえるリズムに鬼気迫るベースとモーグシンセサイザーが絡んでいく『トライアングル』や『迂回』、ヒップホップやサンプリング好きには、後半のピアノがG-Unitネタとして知られる『100万ドル』が収録されていて、思った以上に痛快な楽曲が多いのが楽しいです。それでもスリリングな中にちゃんとしたメロディが散りばめられているのはドイツ人らしいロマンティズムが背景にあるのではと考えています。英国のプログレッシヴロックを模範としていて、尚且つヴォーカルが英語歌詞なため、英国のロックと遜色ない音作りが、他のクラウトロックと一線を画しているのがトリアンヴィラートの大きな魅力となっている気がします。

そんな本アルバムはプログレッシヴロックの美味しいところを寄せ集めた非常に贅沢な作品になっています。次作の『スパルタカス』と合わせて聴くと、彼らの英国プログレッシヴロックに対する遠望が見え隠れするようでたまりません。

それではまたっ!