【今日の1枚】Mandaraband/The Eye Of Wendor: Prophecies | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Mandaraband/The Eye Of Wendor: Prophecies
マンダラバンド/魔石ウェンダーの伝説
1978年リリース

J.R.R.トールキンの『指輪物語』の世界を
一大絵巻の如く描いたシンフォニックアルバム

 中国のチベット侵攻によるチベット文化の危機を憂いて、デヴィッド・ロールを中心に結成されたマンダラバンドのセカンドアルバム。壮大なシンフォニックロックとなったデビュー作『曼荼羅組曲』に続く本アルバムは、トールキンの『指輪物語』をモチーフにした一大ファンタジー作品となっている。エリック・スチュワートを含む10㏄のメンバー4人やウーリー・ウルステンホルムを含むバークレイ・ジェームズ・ハーヴェストのメンバー3人、ムーディー・ブルースのジャスティン・ヘイワードなど多数のミュージシャンが参加しており、前作にも劣らないシンフォニックロックの名盤として語り継がれている。

 マンダラバンドはグループの頭脳と言われるデヴィッド・ロールを中心に1973年に結成されたグループである。彼は1950年9月12日にイギリスのマンチェスターに生まれ、少年時代に家族と共にエジプト旅行をしている。この経験からロールはエジプトの歴史に興味を持ち、考古学の道に進もうとしたが、1960年代のビートミュージックのブームによってロックに目覚めている。1967年にはザ・サイン・オブ・ライフというグループを結成し、その後、古代エジプトの象形文字ヒエログリフで「人生」を意味するANKHという名に変えて活動をしている。グループは地元のマンチェスターにあるストロベリースタジオで、後に10㏄に加入するエリック・スチュワートをエンジニアとして迎えてデモテープを録音。一度はレーベルのヴァーティゴにデモテープが認められて、トミー・ヴァンスをプロデューサーに迎えてアルバムを制作したが、結局ボツにされたことでANKHはあえなく解散することになる。ロールはその後にマンチェスター・カレッジ・オブ・アートで写真を学び、カメラマンとして活動。英グループのザ・ムーディー・ブルースのオフィシャルカメラマンとしてツアーに同行し、1970年のアルバム『クエスチョン・オブ・バランス』のインナージャケットのコラージュ写真を撮影している。ツアー後はストロベリースタジオをヒントに自身のスタジオであるキャメルスタジオを設立。ロールはチーフエンジニアとなり、セッションミュージシャンにヴィック・エマーソン(キーボード)、トニー・クレスウェル(ドラム)をレギュラーメンバーとして迎えている。多くのミュージシャンやアーティストとの交流を深めていったロールは、今後もエンジニア兼プロデューサーとして、スタジオを切り盛りするアーティストとして生きていくつもりだったという。

 しかし、1973年の冬に中国がチベットに侵攻したというニュースを聞いて、歴史に造詣のあったロールはチベットの文化の危機を抱き、プロテスト的な意味を込めた楽曲の構想を練り始める。こうして生まれたのが壮大なシンフォニック曲『曼荼羅組曲』である。この曲を具現化するために、ロールはスタジオミュージシャンであるヴィック・エマーソン(キーボード)、トニー・クレスウェル(ドラム)の他に、キャメルスタジオにデモ録音をしに来ていたフレンズというグループのアシュリー・マルフォード(ギター、ヴォーカル)とジョン・ステムプソン(ベース)を誘い、さらに彼らの旧友であるデヴィッド・デュラント(ヴォーカル)をオーディションで参加させている。ロールはグループ名をマンダラバンドと名付け、地元のマンチェスターで積極的にライヴを行って腕を磨いたという。また、スタジオで何度もリハーサルを行ってデモテープを作成し、ロールの売り込みの結果、クリサリスレコーズとの契約に成功している。ジョン・アルコックのプロデュースのもと、ロンドンのウェセックス・スタジオでアルバムレコーディングが行われ、1975年10月に『曼荼羅組曲』がリリースされることになる。そのチベットの民族音楽を加味した壮大なシンフォニックロックは、ロールの壮絶ともいえる歌詞も相まって多くのプログレファンの支持を得たという。リリース後にはヴォーカルのデヴィッド・デュラントが脱退し、代わりにジャイロというグループからポール・ヤング(ヴォーカル)とイアン・ウィルソン(ギター、ヴォーカル)が加入する。ポール・ヤングは後にマイク&ザ・メカニックスに加入するミュージシャンである。グループは単独で活動をすることが増えたことでロールは再度エンジニアに戻り、残ったメンバーはサッド・カフェというグループに改名。RCAレコーズとも契約してアルバムデビューを飾っている。一方のロールはスタジオエンジニアとして、バークレイ・ジェームズ・ハーヴェストやシン・リジィといった多くのグループを手掛け、後に新たに設立されたインディゴスタジオのチーフエンジニアも担うようになっている。そうする内にクリサリスレコーズからマンダラバンドの2作目の打診が入る。すでに元メンバーはサッド・カフェとして活躍しており、ロールは彼らを戻すことなくプロジェクトグループ的な発想でメンバーを集めることにしている。メンバーには10㏄からはエリック・スチュワート(ヴォーカル)、グレアム・グールドマン(ギター)、ロル・クレーム(ヴォーカル)、ケヴィン・ゴドリー(ヴォーカル)、バークレイ・ジェームズ・ハーヴェストからはウーリー・ウルステンホルム(キーボード)、ジョン・リーズ(ギター)、レス・ホルロイド(ドラムス)、ムーディー・ブルースのジャスティン・ヘイワード(ヴォーカル)、元ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのノエル・レディング、元ツンドラのキム・ターナー、さらにリッチー・クローズ(キーボード)、マディー・プライアー(ヴォーカル)という豪華なメンバーが参加し、また、管弦楽やオーケストラ、合唱団を導入している。こうしてロールは2年半をかけてトールキンの『指輪物語』の三部作の構想を立ち上げ、その第一部となるアルバムをストロベリースタジオの空き時間を利用してレコーディングを開始。ロール自身もキーボードで参加した一大ファンタジー作『魔石ウェンダーの伝説』が1978年にリリースされることになる。
 
★曲目★ 
01.The Eye Of Wendor(魔石ウェンダーの伝説)
02.Florian's Song(フローリアンの歌)
03.Ride To The City(ライド・トゥ・ザ・シティ)
04.Almar's Tower(アルマの塔)
05.Like The Wind(風の如く)
06.The Tempest(大嵐)
07.Dawn Of A New Day(新たなる夜明け)
08.Departure From Carthilias(カーティリアンからの脱出)
09.Elsethea(大海蛇)
10.Witch Of Waldow Wood(ウォルドー森の魔女)
11.Silesandre(シレサンダー)
12.Aenord's Lament(アーノルド王の嘆き)
13.Funeral Of The King(王の葬列)
14.Coronation Of Damien(ダミアンの戴冠式)

 アルバム1曲目の『魔石ウェンダーの伝説』は、美しい音色を湛えたオーケストラで幕を開け、後にギターを交えた荘厳なシンフォニックロックとなっていく楽曲。まさにこれから始まる『指輪物語』の世界へと導くロールらしいオープニングである。2曲目の『フローリアンの歌』は、北方の王国の森ミドヴェイルで狩猟をして生きる少年、フローリアンを物語った楽曲。ストリングスをバックに牧歌的なヴォーカルやコーラスが印象的な内容になっている。3曲目の『ライド・トゥ・ザ・シティ』は、フローリアンの小屋に長旅で訪れたアーノルド国の近衛兵を招いた際、はるか遠くの首都の様子の話を聞いて興味がわくシーンを描いた楽曲。オーケストラと管弦楽器による煌びやかな街をイメージしたようなリズミカルな曲となっている。4曲目の『アルマの塔』は、国の予言者であるアルマー・ナチョリスが住むという塔をイメージした楽曲であり、後に彼から魔石と呼ばれるヴェンダーの存在が語られることになる。風が渦巻く深淵さとコミカルとも言えるキーボードとパーカッションの音色が印象的である。5曲目の『風の如く』は、 金色の髪と角笛を腰に巻いたアーノルド王の娘ウルスラをイメージした内容で、フォークシンガーであるマディ・プライヤーの美しいヴォーカルが映えた楽曲。荘厳なオーケストラと力強いドラミングをバックに、ケルティックな雰囲気のある神々しいサウンドになっている。6曲目の『大嵐』は、かつて首都を襲った不吉な嵐のこと。全ての建物は倒壊して廃墟となり、多くの民が犠牲となったことを描いた楽曲。大嵐によって人々の悲鳴を効果音に使い、荒れたピアノ音と共に緊迫感あふれる内容になっている。7曲目の『新たなる夜明け』は、瓦礫となった首都から民と共に南方へ移り住むための旅を謳った楽曲。柔らかなオーケストラとピアノをバックに牧歌的なジャスティン・ヘイワードの優しいヴォーカルが思わず心に染み入ってしまう。8曲目の『カーティリアンからの脱出』は、民と共に首都からヴェンダーの海岸までの険しい道のりを描いた楽曲。キーボードを駆使した行進曲に近い内容になっており、時折フルートが彩りを与えている。中盤から困難な中でも進もうとする民の如く、アコースティック楽器と力強いヴォーカルと印象的である。9曲目の『大海蛇』は、ウェンダーの内海に棲むという巨大な海蛇エルシージアを描いた楽曲。ケビン・ゴドリーのヴォーカルとコーラス、ジミー・マクドネルのギター、そして力強いキーボードが映えたロック調の内容になっている。10曲目の『ウォルドー森の魔女』は、金色に輝く森に住むグレイ・エルフ、そして銀色に輝く2つの塔を描いた楽曲。ピアノとストリングスによる神秘的な音色と抒情的なケビン・ゴドリーのヴォーカルを中心とした内容となっており、雄大なイメージを作り出している。11曲目の『シレサンダー』は、美しい王女ロンディスの流した血で黒猫のシレサンダーが魔女に変化したのを描いた楽曲。ヴォーカルはポール・ヤングが務め、美しいピアノとオーケストラ、そしてギターソロがある妖しい響きのある内容になっている。12曲目の『アーノルド王の嘆き』は、デロン王子が馬から落ちて亡くなり、国の滅亡を映し出す宝石に嘆く王を描いた楽曲。冷たいピアノのソロから始まり、やがて死した王子の周囲にアーノルドが悲しみ、後半では何としても国を守ろうと立ち上がる凛々しい内容になっている。13曲目の『王の葬列』は、首都に移り住んだフローリアンが街の至る所に喪旗が掲げられていることを知り、王の死を悟ったことを描いた楽曲。力強いドラミング上で抒情的なギターとサックスが鳴り響き、美しくも儚い内容になっている。14曲目の『ダミアンの戴冠式』は、アーノルド王の後を継いだダミアンの壮麗な戴冠式を描いた楽曲。高らかなコーラスと管弦楽器による素晴らしいフィナーレになっている。

 アルバムは高い評価を得たものの、オーケストラの導入や合唱団など多額の製作費が掛かってしまったことが原因で、クリサリスレコーズは三部作の完成を前に手を引いてしまっている。ロールはバークレイ・ジェームズ・ハーヴェストから脱退したキーボーディストのウーリー・ウルステンホルムと共に、テレビ音楽やCM音楽、演劇音楽などを手掛ることになる。また、ロールは少年時代から興味のあったエジプト考古学の分野にも進出し、「エデンの園」の検証やピラミッド学の研究も行っている。後に学士号を取り、多くの書籍やテレビ番組にプレゼンターとして活躍したことで、リアル・インディー・ジョーンズとの異名を与えられている。後にスペインに移住しては研究にいそしんでいたが、2000年代以降にマンダラバンドの復活を希望するファンが多くなり、ロールは2009年に31年ぶりにグループを復活させ、通算3作目となる『BC Ancestors』をリリースしている。メンバーにはロールの他に、アシュレー・マルフォード、ウーリー・ウルステンホルム、キム・ターナーといったかつてのメンバーも顔をそろえており、プログレファンを大いに喜ばせている。また、2011年には4枚目となる『AD Sangreal』をリリースするなど前向きな活動をしてきたが、レコーディング後にロールと共に活動をしてきたキーボーディストのウーリー・ウルステンホルムが、残念ながら亡くなっている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は壮大な『指輪物語』をモチーフにしたマンダラバンドのセカンドアルバム『魔石ウェンダーの伝説』を紹介しました。マンダラバンドと言えば前回にもここで紹介したチベット文化を守るために作られたデビューアルバム『曼荼羅組曲』がかなり有名ですが、こちらも全く劣らない完成度の高いシンフォニックアルバムとなっています。目を引くのがアルバムに参加した多くのミュージシャンで、10㏄やバークレイ・ジェームズ・ハーヴェスト、ムーディー・ブルース、クレイヴィー・トレインのメンバーをはじめ、ポール・ヤング、ノエル・レディング、キム・ターナー、マディ・プライヤー、スティーヴ・ブルームヘッドといった30名を越える豪華な顔ぶれになっています。オーケストラをバックに『指輪物語』のストーリーを忠実に、まるで映画のサウンドトラックとも言えないくらいの素晴らしいアルバムになっていると思います。多くのグループがこの『指輪物語』をモチーフにしたアルバムを世に出していますが、このロールが作曲、アレンジした本アルバムほど、壮大なものはありません。本アルバムは『指輪物語』の三部作のうちの第一部となっていますが、オーケストラを導入したことで製作費が多額となってしまい、残りの二部が陽の目に当たらないまま終えてしまっているのが残念で仕方がないです。

 さて、アルバムジャケットのアートは、デヴィッド・ロールがクリサリスレコーズのアート部門と協力して考え出したものです。そのアイデアは、魔法の宝石であるウェンダーの瞳自体を作成することだったらしく、ガラスの専門家に依頼して透明なクリスタルガラスで多面石を作ってもらったそうです。しかし、計画ではクリスタルの前半分だけを作り、後ろはまっすぐにしています。それはウェンダーの物語に登場する魔女シレサンダーの背中に大きな透明のシートを貼り付けることで、正面から見るとまるで石の中にシレサンダーの像が見えるようにしたかったからだそうです。そしてウェンダーの瞳を手に持ってポーズをとってもらって完成したそうです。一瞬、写真と絵の合成かな~と思ったジャケットアートが、実は本物のガラス職人によって作られたというのはびっくりです。


 本アルバムはこれぞシンフォニックロックと言わんばかりの完成度を誇るプログレッシヴロックの名盤です。ぜひ、『指輪物語』の手に汗握る冒険の世界をイメージしながら聴いてほしいです。

それではまたっ!