【今日の1枚】Carmen/Fandangos In Space(カルメン/宇宙の血と砂) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Carmen/Fandangos In Space
カルメン/宇宙の血と砂
1973年リリース

フラメンコをロックスタイルに持ち込んだ
凄まじい躍動感のデビューアルバム

 スペインのアンダルシアを中心に伝わるフラメンコをロックスタイルに持ち込んだプログレッシヴロックグループ、カルメンの衝撃のデビューアルバム。そのサウンドは躍動感あふれるリズムにスリリングなスパニッシュギター、重音のベース、手拍子やカスタネットなどを用いた、強烈とも言えるフラメンコ・プログレッシヴロックとなっている。そのあまりにも個性的なサウンドはヨーロッパで高く評価され、後にローリング・ストーン誌の「史上最も偉大なプログレッシヴロックアルバム50枚」のリストで46位にランクされた傑作アルバムでもある。

 カルメンはメキシコ系アメリカ人のデヴィッド・クラーク・アレン(ギター)と妹のアンジェラ(ヴォーカル、キーボード)を中心に1970年に結成されたグループである。デヴィッドは1951年に生まれており、幼少の頃に両親や妹と共にヨーロッパを旅行した後、アメリカのカリフォルニア州にあるハリウッドに住居を構えている。この時、稼ぎとして両親が開いていたのがフラメンコのダンスクラブである。こうした環境からデヴィッドは早くからクラシックフラメンコのギターを学んでおり、10歳の頃からクラブでも演奏していたという。これを機に15歳の時にジ・オフ・ビーツという自身のグループを結成し、1966年にデビューシングル『ユー・テル・ミー/マリー』をリリースしている。その後、アメリカの大女優メイ・ウェストの2枚のガレージアルバムのバックバンドを務め、16歳の時には妹のアンジェラをフィーチャーしたグループ、サムバディズ・チルドレンで3枚のシングルをレコーディングしている。18歳になるとザ・マリアンヌというグループを結成し、ベル・レコードとEMIリーガル・ゾノフォンから8枚のシングルを残している。さらにデヴィッドはデニス・トレロトラやブレイブ・バターというグループも結成し、2枚のシングルを録音、プロデュースする活躍をしていたという。これまでビート、サイケデリックといった音楽を中心に演奏していたが、本格的なフラメンコのスタイルとロックを融合した音楽を作りたいと考え、1970年に妹のアンジェラを誘って結成したのがカルメンである。

 デヴィッドとアンジェラの兄妹はメンバー集めを行い、元ザ・ゴッズやトー・ファットに在籍していたイギリス人のブライアン・グラスコック(ドラムス)をはじめとした7人編成で活動を開始している。しかし、数か月後に5人編成となり、その時のメンバーはデヴィッドとアンジェラの兄妹、そしてブライアン以外に、ブライアンの実弟であるジョン・グラスコック(ベース)、そしてスペインのダンサーチームにいたロベルト・アマラル(ヴォーカル)である。すぐにレコード契約を結ぼうとしたが、興味のあるアメリカのレーベルが見つからなかったため、1973年1月に5人のメンバーと共にロンドンに渡英し、ロンドンのクラブハウスを中心にライヴを行っている。彼らは当時のロックスター数名と親交を深め、その中にはデヴィッド・ボウイやマーク・ボラン、ブライアン・フェリーなどがいたという。グループ名でも表れているように、フラメンコのフレーズやメロディを取り入れた楽曲だけではなく、妹のアンジェラをはじめとしたエキゾチックな衣装とフラメンコのステップを披露したステージが評判となったという。しかし、ドラマーのブライアンは後にロサンゼルス結成されるロックグループ、キャプテン・ビヨンドに加入するために脱退。代わりに元クリスティというイギリスのロックグループに在籍していたポール・フェントンが加入する。この時、クリスティを担当していたマネージャーのブライアン・ロングレイも引き抜いている。デヴィッドはかつてザ・マリアンヌというグループでシングルをリリースしたことのあるイギリスに拠点を置くレーベル会社、リーガル・ゾノフォンに接近し、アルバム制作の契約を結んでいる。レコーディングには知己となったT.Rexやデヴィッド・ボウイの作品で知られるトニー・ヴィスコンティをプロデューサーに迎え、1973年にデビューアルバム『宇宙の血と砂』をリリースする。そのアルバムは手拍子、靴鳴らし、カスタネットの音とシンセサイザーやスパニッシュギターによる躍動感あふれる刺激的なサウンドになっており、1970年代の数ある作品の中でフラメンコロックという唯一無二のジャンルを確立した傑作となっている。

★曲目★ 
01.Bulerias(ブレーリアス)
 a.Cante ~Song~(華麗なる序章)
 b.Baile ~Dance~(狂乱の舞い)
 c.Reprise(妖気の調べ)
02.Bullfight(鮮血は闘牛士の胸に)
03.Stepping Stone(ステッピング・ストーン)
04.Sailor Song(船乗りの末期)
05.Lonely House(孤独な館)
06.Por Tarantos(タラントスにて)
07.Looking Outside ~My Window~(魂の叫び)
 a.Theme(テーマ)
 b.Zorongo(ゾロンゴ)
 c.Finale(フィナーレ)
08.Tales Of Spain(スペインの伝説)
09.Retirando(鮮血の薔薇)
10.Fandangos In Space(宇宙の血と砂)
11.Reprise Finale(終幕)

 アルバムの1曲目の『ブレーリアス』は3章からなる曲となっており、彼らが創造するフラメンコロックが凝縮された楽曲。最初の『華麗なる序章』は、強力なリズムと激しいギター、手拍子による起伏に富んだ内容になっており、ヒスパニック系である彼らの側面が伝わる内容になっている。また、デヴィッドによるジプシーの男女の恋愛観を綴ったスペイン語の歌詞をリズミカルに歌っており、後半にはフラメンコのリズムとの整合性のとれたハードなギターソロを披露している。将来のジェスロ・タルのメンバーとなるジョン・グラスコックのベースワークが素晴らしい。『狂乱の舞い』は手拍子や靴の音による激しいダンスシーンとなっており、それを讃える声も収録されていて臨場感がすごい。そして最後にはあおるような高速ギターによって収束させている。『妖気の調べ』は曲調が変わり、アコースティックギターによるフォーク調の楽曲となって終えている。リマスター盤は最後に再び冒頭のリズミカルなロックとなって終えている。2曲目の『鮮血は闘牛士の胸に』は、伝統的なスペイン民謡のテーマを模したカスタネットの響き、スパニッシュとエレクトリックギターをうまく使い分けた変拍子のあるフラメンコプログレッシヴロック。勇敢な闘牛士の喝采をテーマにした内容になっており、デヴィッドの情熱的なヴォーカルが冴え渡っている。3曲目の『ステッピング・ストーン』は、ミステリアスなギターフレーズとリズムからなるヴォーカル曲。バックに妹のアンジェラが奏でるメロトロンと、煌びやかなビブラフォンの音色が曲に浮遊感を与えている。4曲目の『船乗りの末期』は、カモメの鳴き声と風が海を表したオープニングからなだらかなクラシックギターを中心としたヴォーカル曲。スペイン沖の島に難破した船乗りを歌詞にしており、静と動のあるリズムと強弱のあるコーラスが印象的な楽曲である。5曲目の『孤独な館』は、デヴィッドの廃屋の比喩に基づいて構築されたフォーク調のバラード曲であり、アンジェラの美しいヴォーカルがフィーチャーされた感情的な深みのある楽曲。マドリードの丘の上に建つ館をモチーフにしており、逃げ出した彼女のいない館で孤独に過ごす男を描いている。6曲目の『タラントスにて』は、デヴィッドのスパニッシュギターによるソロ曲。彼のギターの腕前がすでに達人レベルであることが分かる1曲である。7曲目の『魂の叫び』は3章からなっており、1曲目と同じような構成となった楽曲。最初の『テーマ』は、デヴィッドとアンジェラ兄妹の力強いヴォーカルと、カスタネットを使ったフラメンコ調のリズムが強調されている。『ゾロンゴ』は曲調が変わり、クラシックギターとベースの美しい調べとなる。『フィナーレ』では掛け声と共に手拍子とドラミングによる激しいサウンドとなり、最後はギターとメロトロンによって盛り上がって終えている。8曲目の『スペインの伝説』は、美しいギターによるアンサンブルとなったコーラス曲。太陽の国スペインを讃えた歌詞となっており、後半にはアンジェラやロベルトを交えたヴォーカルを加え、緩急をつけたダイナミックな内容になっている。最後にはメロトロンとビブラフォンの美しいサウンドで終えている。9曲目の50秒弱のコーラス曲である『鮮血の薔薇』を挟んで、10曲目のタイトル曲である『宇宙の血と砂』に移行する。ヴォーカルに合わせたリズムによるスペイシーなファンダンゴであり、中盤の独特なリズムから繰り出されるギターリフとカスタネットが特徴的である。男女のリズミカルさと荘厳さのあるコーラスを経て、狂うようなリズム上で激しいギターが掻き鳴らされ、冒頭の曲のテーマに戻って終えている。11曲目の『終幕』は余韻を残すような美しいギターの調べで静かにフェードアウトしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、メンバー全員の演奏テクニックは申し分なく、それぞれの才能を示した変幻自在な楽曲になっている。刺激的な楽曲の中にも華があり、フラメンコロックという目新しいスタイルだけではない音楽的にも深みのある完成度の高い作品になっている。

 本アルバムはイギリスを中心にヨーロッパで高く評価され、後にロック評論家のライアン・リードは彼らの音楽をフラメンコ・プログレッシヴロックと評したという。1973年10月にはマーキー・クラブで行われたデヴィッド・ボウイの「1980フロアーショウ」に出演。『ブレーリアス』と『鮮血は闘牛士の胸に』の曲が演奏され、フラメンコの衣装と踊りも相まって強烈な印象を残したという。この模様はアメリカのテレビ番組「ミッドナイト・スペシャル」でも放送されている。1974年になると次のアルバムの録音を開始し、コンセプト作となったセカンドアルバム『舞姫-スペインの恋物語-』を同年にリリース。その後はイギリスとアメリカのツアーを慣行し、サンタナやブルー・オイスター・カルト、エレクトリック・ライト・オーケストラのオープニングアクトを務めている。1975年には3ヵ月間のジェスロ・タルのアメリカツアーに同行し、その後アメリカに留まったメンバーと共に、マサチューセッツ州のスタジオで3枚目となるアルバムのレコーディングに取り掛かっている。しかし、これまでプロデューサーとして付き合ってくれたトニー・ヴィスコンティは関与せず、さらにレコーディング中にドラマーのポール・フェントンが落馬による怪我で離脱するという悲劇に見舞われる。1975年にサードアルバム『ジプシーの涙』がリリースされるが、その後にメンバーが相次いで離脱してしまい、グループは空中分解するような形で解散することになる。解散後、アンジェラとジョン・グラスコックはジェスロ・タルのセッションに参加。グラスコックはそのままジェスロ・タルの正式なメンバーとなって活躍することになるが、心臓病により1979年に28歳という若さで亡くなっている。ロベルトはアメリカに帰国後、南カルフォルニアで自身のスタジオを作り、プロデューサー兼ソングライターとして活躍。また、ダンサーとして振付師となり、フラメンコダンサーの第一人者となっている。ポールはセッション活動をする傍ら、T.レックスの後期のアルバムに演奏者として活躍。マーク・ボランが死去した後は第一線から退いたが、1990年代後半にミッキー・フィンズ・T.レックスのメンバーとして、1999年に来日を果たしている。一方のデヴィッドは1980年にロンドンに戻り、ジェスロ・タルのドラマーであるバリー・バーロウとアレックス・ハーヴェイのベーシストであるクリス・グレンとグループを結成。この期間中に彼は『Shame』と『Stay』の2曲を書き、1983年のアグネッタ・フェルツコグ(元アバ)のソロアルバムに提供している。その後、喉のガンの手術を経て音楽業界から身を引き、写真家として成功するが、2006年に再び音楽活動に戻ってワイド・スクリーンを結成してアルバムを発表。2011年には新たなグループ、フラメキシカーノを結成して現在に至っている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフラメンコ・プログレッシヴロックという唯一無二のジャンルを確立した、カルメンのデビューアルバム『宇宙の血と砂』を紹介しました。私はセカンドアルバムの方を先に手に入れて聴いていたんですが、リマスター化されたのを機に3枚揃えました。デビューアルバムはエンボス加工されたゲートフォールド仕様になっていて、中にはアンジェラとロベルトのバイレ(踊り)を映した豪華仕様になっています。ちなみにアメリカ盤はジャケットが違っていて、大きな一輪の薔薇の絵になっています。

 さて、本アルバムは最近になって久しぶりに聴き始めたのですが、1曲目の『ブレーリアス』は相変わらず何度聴いても惹き込まれます。まさに圧巻です。フラメンコギターを多用している訳ではないのに、フラメンコ独特のカスタネットや掛け声、手拍子が散りばめられていて、聴き手に強いインパクトを与えているのが好印象です。また、ギターのソリッドなカッティングとドラム、そしてベースのリズムがしっかり絡んでいて、ヴォーカルやコーラスが力強く感じられます。そんな中で後にジェスロ・タルに加入するジョン・グラスコックのベースがたまらないです。それぞれの楽曲のアレンジ力や演奏力の高さ、そして全体の構成と緻密に計算された面白さがあって、もうフラメンコロックという目新しさだけではない、音楽的にも完成の域に達していると思います。フラメンコテイストの薄い『ステッピング・ストーン』や『船乗りの末期』などの曲は、トニー・ヴィスコンティのプロデュースによるものでしょうか、英国らしいロックになっていて、一瞬、彼らがアメリカで結成したグループであることを忘れてしまうほどです。それでもパリージョ(カスタネット)、ハレオ(掛け声)、パルマ(手拍子)のある激しいリズム、掻き鳴らされるギターのフラメンコロックの方が、妙に琴線に鋭く触れてくる感じがします。

 本アルバムは変拍子とフラメンコ色の強いメロディやリフを駆使した躍動感あふれる作品です。強い太陽と一面のひまわり畑に青い空、闘牛そしてフラメンコといったアンダルシアの風土を歌詞に載せた個性的なサウンドをぜひ堪能してほしいです。

 ちなみにセカンドアルバムの『舞姫-スペインの恋物語-』も傑作とされていて、合わせて聴いてほしいアルバムです。冒頭の『私のセヴィーリャ』の曲の完成度は素晴らしいものがあります。また、ジョン・グラスコックのベースがさらに派手になっています。

それではまたっ!