【今日の1枚】Refugee/Refugee(レフュジー) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Refugee/Refugee
レフュジー/レフュジー
1974年リリース

マルチキーボーディストであるモラーツの
作曲能力が冴えた華麗なるシンフォニックロック

 元ザ・ナイスのリー・ジャクソンとブライアン・デヴィソン、そして元メインホースのパトリック・モラーツによるキーボードトリオが、1974年にリリースした唯一のアルバム。華麗なるモラーツのキーボードを中心に、ザ・ナイスをアップデートしたかのようなスリリングで躍動感のある演奏となっており、本格的とも言えるプログレッシヴな作品となっている。本アルバムで圧倒的なパフォーマンスを披露したパトリック・モラーツは、後にイエスのマネージャーであるブライアン・レーンの目に留まることになり、脱退したリック・ウェイクマンの代わりにイエスに加入することになった名盤である。

 レフュジーはキース・エマーソン率いるザ・ナイスのメンバーだったリー・ジャクソン(ベース、ギター、ヴォーカル)、ブライアン・デヴィソン(ドラムス)、そして元メインホースというグループでデビューしたパトリック・モラーツ(キーボード)の3人によって、1973年に結成したグループである。ザ・ナイスはキーボーディストであったキース・エマーソンが、エマーソン・レイク&パーマーを結成したために1970年に解散。解散後のリー・ジャクソンは、チャーリー・ハーコート(ギター)ら3人を採用してジャクソン・ハイツを結成して4枚のアルバムを残している。しかし、1973年にはキーボーディストとギタリストとを失って活動不能状態だったという。一方のブライアン・デヴィソンはグラハム・ベル(ヴォーカル)、アラン・カートライト(ベース、ギター)ら4人のメンバーを集めてエヴリ・ウィッチ・ウェイを結成。1970年にデビューアルバム『ブライアン・デヴィソンズ・エヴリ・ウィッチ・ウェイ』をリリースするもメンバー同士の対立もあって1971年に解散している。別々のグループで活動していたジャクソンとデヴィソンズだったが、それぞれ自身で結成したグループがままならなくなったこともあり、ザ・ナイスの再編を考えるようになったという。中でもリー・ジャクソンはキース・エマーソンの代わりになるキーボード奏者を探し、かつて彼が数年前に出会って知己を得ていた元メインホースのパトリック・モラーツに白羽の矢を立てたという。スイス人であったパトリック・モラーツは、16歳でチューリッヒ・ジャズ・フェスティヴァルでベストソリスト賞を最年少で受け、数年後にはジョン・コルトレーンの前座を務めてきた輝かしい実績を持ったキーボーディストである。彼はプロのミュージシャンになるべく、イギリスに渡って自身で作曲や録音を行うと共に親友であったジャン・リストーリ(ベース)らと共にメインホースを結成。唯一残したアルバムはモラーツの超絶技巧ともいえる鍵盤裁きに多くのリスナーが注目したが、当時イギリスでの活動に不可欠な労働許可証の発行に問題を抱えていたため、活動がなかなかできない状態に陥っていたという。そんなモラーツに対してジャクソンは自らのグループであるジャクソン・ハイツに迎え入れようとしていたが、逆にモラーツから新たなグループを作ることを提案してきたのである。その提案に承諾して元ザ・ナイスのメンバーだったブライアン・デヴィソンに声をかけ、キーボードトリオを結成したのがレフュジーである。リー・ジャクソンはモラーツから誘われた形で自らのグループを解散させたが、それだけモラーツのキーボーディストとしての才能に賭けていたということだろう。ちなみに“難民”または“亡命者”という意味を持つグループ名の由来は、レフュジーのマネージャーだったフレッド・マントの妻のゲイルによってつけられたという。

 こうしてレフュジーとして活動を開始した3人は、解散したザ・ナイスのマネージャーだったトニー・ストラットン=スミスによって設立されたカリスマレーベルと契約。数ヵ月のリハーサルを経て、1973年12月2日にロンドンのラウンドハウスでのギグでステージデビューを果たし、後に多くの大学サーキットを回っている。この時にモラーツはアルバムのテーマとなるアメリカのグランド・キャニオンの大自然を取り上げたBBCのドキュメンタリーを観て曲を書き、その構想を元にジャクソンは図書館からグランド・キャニオンの本や地図を借りて歌詞を練り上げたという。こうして1974年2月にロンドンにあるアイランドスタジオに入ってレコーディングを行い、1974年3月にリリースされたのが本アルバムである。そのアルバムは組曲となった『グランド・キャニオン』、『クレド』をはじめとする雄大なシンフォニックロックとなっており、とくにシンセサイザーやメロトロンといったマルチキーボードを巧みに操るパトリック・モラーツのスリリングな演奏を中心に、3人の躍動感のある極めて高い演奏力を誇った傑作となっている。

★曲目★
01.Papillon(パピヨン)
02.Someday(サムデイ)
03.Grand Canyon(グランド・キャニオン組曲)
 a.1st Movement The Source(ファースト・ムーブメント:ザ・ソース)
 b.2nd Movement Theme For The Canyon(セカンド・ムーブメント:キャニオンのテーマ)
 c.3rd Movement The Journey(サード・ムーブメント:ザ・ジャーニー)
 d.4th Movement Rapids(フォース・ムーブメント:ラピッズ)
 e.5th Movement The Mighty Colorado(フィフス・ムーブメント:ザ・マイティ・コロラド)
04.Gate Crasher(ゲイト・クラッシャー)
05.Ritt Mickley(リット・ミックリー)
06.Credo(組曲クレド)
 a.1st Movement. Prelude(ファースト・ムーブメント:前奏曲)
 b.2nd Movement. I Believe(セカンド・ムーブメント:アイ・ビリーヴ)
 c.3rd Movement. Theme(サード・ムーブメント:主題)
 d.4th Movement. The Lost Cause(フォース・ムーブメント:ザ・ロスト・コーズ)
 e.5th Movement. Agitato(フィフス・ムーブメント:アジテート)
 f.6th Movement. I Believe Part II(シックスス・ムーブメント:アイ・ビリーヴ パートⅡ)
 g.7th Movement. Variation(セブンス・ムーブメント:変奏曲)
 h.8th Movement. Main Theme Finale(エイス・ムーブメント:メイン・テーマ・フィナーレ)

 アルバム1曲目の『パピヨン』は、モラーツによって作曲されたクラシカルな楽曲になっており、オープニングにふさわしいモラーツの流麗で煌びやかなキーボードによるインストゥメンタル曲となっている。ブライアン・デヴィソンの力強いドラミング、うねるようなリー・ジャクソンのベースと共に緩急のあるスリリングな演奏は圧巻の一言である。2曲目の『サムディ』は、モラーツとジャクソンとの共作であり、ジャクソンの離婚をテーマにした歌詞となっている。バラード調の非常にメロディックな楽曲となっており、ジャズをベースにしたモラーツのエレクトリックピアノを中心としたキーボードが素晴らしい。3曲目の『グランド・キャニオン』は8つの楽章からなる組曲となった大曲。メロトロンをフィーチャーした幻想的なモラーツのキーボードから幕を開けた雄大なシンフォニックロックとなっており、まさに断崖絶壁の大自然を描いた楽曲となっている。この曲ではモラーツがホルンを吹いているほか、Electronic Slinkyなる手製の楽器も演奏しているという。後半になるにつれてスリリングになっていく様は、かのエマーソン・レイク&パーマーを彷彿とさせるスリリングな演奏があり、モラーツのキーボーディストとしての才能だけではなく作曲家としての能力もうかがえる逸品である。4曲目の『ゲイト・クラッシャー』は、1分余りの短い曲でモラーツの独特の音色を持つキーボードソロとなっている。5曲目の『リット・ミックリー』は、モラーツのフレンチアクセントから生まれた曲名となっており、この曲の録音中にスイス人のモラーツが“rhythmically”と言ったのを、イギリス人のデヴィソンが“Ritt Mickley”という人名と聞き間違えたことに由来している。ファンキーさありながらもクラシックの影響を受けたモラーツの複雑に構成された多彩なキーボードが冴えた内容になっている。6曲目の『組曲クレド』も8つの構成からなる楽曲となっており、モラーツの荘厳なチェンバロ風のオルガンから流麗なピアノソロ、そしてリズム隊を加えた多彩なキーボードによるジャクソンのヴォーカルへと展開する楽曲。全体的に複雑に富んでいながら精巧ともいえる多彩なキーボードが入り組んだシンフォニックロックとなっている。クラシックやジャズの影響を感じさせつつも、新たな音作りを果敢なく取り入れた他のキーボードトリオとは違った独自のスタイルを打ち出しているのが印象的である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、メインホース時代は超絶技巧ともいえるモラーツのキーボードがメインだったが、本アルバムはテーマ性を持った構成力や楽曲の配置を考慮した作曲能力を発揮した作品になっている。とくに2つの組曲は長大でありながら創造性を掻き立てる音の組み合わせが絶妙であり、その息の合った3人の躍動感のあるパフォーマンスからレフュジーがプログレッシヴロックの名盤に数えられる1枚になったのだろうと思える。

 アルバムはイギリスやヨーロッパで高い評価を得て、セールス的にも好調だったという。その後グループはモラーツの出身国であるスイスで演奏し、さらにエリック・クラプトンの前座としてアメリカ公演も検討。セカンドアルバムのマテリアルも準備して前途は揚々だったが、ちょうどその年の夏にメロディ・メイカー誌がイエスのリック・ウェイクマンの脱退が報じられる。その記事を見たデヴィソンは、モラーツの元を訪ねて「もしかしたら君の所にオファーがあるかもね」と冗談ぽく話し、モラーツは「そんな話があったら断るよ」とお互い笑いあっていたという。しかし、デヴィソンの予言は的中し、イエスのマネージャーだったブライアン・レーンから脱退したリック・ウェイクマンの代わりにイエスへの加入を打診されることになる。当初は断っていたモラーツだったが、最終的にイエスの加入を決めてレフュジーを脱退。それを聴いたジャクソンとデヴィソンは二度の悲劇を繰り返したことに幻滅して音楽ビジネスから離れることになる。リー・ジャクソンはアメリカで家族と共に暮らしていたが、2002年にキース・エマーソンからの要請でデヴィソンと共にザ・ナイスを再結成してコンサートを行っている。後に音楽活動を再び始めるようになったジャクソンは、英国に戻ってニューオーリンズスタイルのジャズロックバンドであるジャクソンズ・バーキング・スパイダースを結成して演奏を続けているという。ブライアン・デヴィソンも音楽ビジネスから離れていたが、先のザ・ナイスのコンサートで再度音楽活動を開始し、バイドフォード・カレッジでドラムスを教える講師となっていたが、残念ながら2008年に亡くなっている。一方のパトリック・モラーツはイエスに加入し、グループにとって最も複雑なアルバム『リレイヤー』で超絶技巧のキーボードを披露。しかし、リック・ウェイクマンがイエスに復帰したため脱退。その後はビル・ブルーフォードとのコラボやムーディー・ブルースの参加を経てソロアーティストとなって活躍している。75歳となった現在でも全てをマッキントッシュで構成したアルバムをリリースするなど新しい技術に余念がない。


 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はパトリック・モラーツの作曲能力とスリリングな演奏が冴えたキーボードトリオ、レフュジーの唯一のアルバムを紹介しました。前回にメインホースを紹介していますが、その時はモラーツの超絶技巧ともいえる流麗なキーボードを魅せつけた衝撃のアルバムでしたが、本アルバムは雄大なグランド・キャニオンの大自然をテーマにした組曲中心の楽曲になっており、彼の作曲センスの高さを思い知る内容になっています。モラーツはミニムーグやAKSシンセサイザー、ピアノ、エレクトリックピアノ、クラヴィネット、オルガン、パイプオルガン、マリンバフォン、アルプホルン、electronic slinky、メロトロン、ホルンを演奏しており、その中ですでに独自で改良したキーボードを使用しています。彼がこの頃から新しい音色を探求しており、それが異彩を放ったイエスのアルバム『リレイヤー』やソロアルバムである『ストーリー・オブ・アイ』につながっていることが分かります。結果として彼の演奏スタイルはイエスの既存の代表曲に巧くフィットしたとはいえず、最終的にイエスを追われることになります。それでもシンセサイザーをはじめとするモラーツの巧みなキーボードの鍵盤裁きは、キース・エマーソンやリック・ウェイクマンとは違った魅力があることには変わりありません。

 

 さて、本アルバムがリリースされた後、リー・ジャクソンはロンドンで未だ親交のあったキース・エマーソンと出会って、本アルバムを聴かせたそうです。するとエマーソンはその時初めてブライアン・デヴィソンがこんなに速くドラムを叩けるのかと知って驚いたそうです。パトリック・モラーツのパフォーマンスについての感想は伝わっていませんが、同じキーボーディストとして何かしら感じたことはあったかも知れません。1枚のアルバムを残して解散してしまったレフュジーですが、もし、あの時リック・ウェイクマンがイエスを脱退していなかったら、どんなグループになっていたのかと思うと少しだけ残念な気持ちになります。そういう意味ではレフュジーはメンバーにとって、プログレッシヴロックの歴史の転換点に位置したグループだったのだろうと思っています。

 流麗で華麗であり独自の演奏スタイルを続けるマルチキーボディストであるパトリック・モラーツの魅力が詰まったアルバムです。彼の創造性の高い作曲能力を発揮した作品をぜひ聴いてみてくださいな。

それではまたっ!