【今日の1枚】Isopoda/Acrostichon(イゾポダ/アクロスティコン~折句~) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Isopoda/Acrostichon
イゾポダ/アクロスティコン~折句~
1978年リリース

心の琴線にふれるナイーヴなメロディを綴った
ベルギーが誇る抒情派シンフォニックロック

 グループ名が等脚類(ワラジムシやフナムシ、ダンゴムシなどの陸上や海水に棲む甲殻類)という意味を持つイゾポダのデビューアルバム。そのサウンドはジェネシスやキャメルのようなキーボードやアコースティックギター、フルートを中心に、技巧的なアンサンブルとマイルドなヴォーカルが特徴の抒情性の高いシンフォニックロックとなっている。チェンバーロック系の多いベルギーの中で、粗削りながらも大陸独特の哀愁と大らかさのあるメロディに、現在再評価されつつある愛すべきアルバムである。

 イゾポダはベルギーのオースト=フランデレン州の東部に位置するアールストという都市で、ベーシスト兼ギタリスト、そしてヴォーカルのアーノルド・デ・シェパーとギタリストのウォルター・デ・バーランゲールによって、1974年に結成したグループである。2人は15歳の時から友人で、同郷のリズムギタリストとドラマーを加入させて、彼らがお気に入りだったディープ・パープルやユーライア・ヒープ、ブラック・サバス、ドゥービー・ブラザーズといった英米のロックアーティストのカヴァー曲を演奏するタランチュラというグループ名で活動を開始している。彼らの初のステージは、1973年のアールストの小さな村で行われたギグである。しかし、同じ年の夏にタランチュラという名の別のベルギーのグループが当時ラウンドを行っていたため、彼らはグループ名をオーキッドに変更している。しかしドラマーが脱退してしまったため、オーキッドはあえなく解散し、アーノルドとウォルターは音楽の新たな方向性を探すことになったという。その時、英国のジェネシスやキャメル、イエスの影響からプログレッシヴな音楽に興味を持ち、英国のグループが敷いた道をたどりたいということで、2人は独自の解釈で曲を書き始めている。そして1975年にウォルターはアールストでプログレッシヴグループを結成したいと考えていた2人の同級生を見つけ、マーク・ヴァン・ダー・シューレン(ドラムス)、ゲールト・アマント(キーボード)、後にダーク・デ・シェパー(ヴォーカル、パーカッション)が加入し、イゾポダという新たなグループ名で活動を開始する。特にキーボーディストのゲールト・アマントの加入はアーノルドとウォルターにとって大きく、彼自身が作成した曲のアレンジをゲールトと共同で行っている。歌詞はイギリスをはじめとする英語圏にも受け入れられるように、全編英語歌詞という力の入れようだったという。そして多くのギグをアールストで行い、ベルギーのリュック・アーディンスによって1977年に設立された新興のレコードレーベル、トゥインクルと契約することに成功し、そのレーベルの創設者であるリュックをエンジニアに迎えてレコーディングを開始。プロデュースはイゾポダとレーベルのトゥインクルが共同で行っている。数週間をかけたレコーディングは終了し、1978年にデビューアルバム『アクロスティコン~折句~』がリリースされることになる。アルバムのタイトルは、ある1つの文章や詩の中に、別の意味を持つ言葉を織り込む言葉遊びの一種である『折句(英語ではアクロスティック)』という意味を持っており、古典的なフルートやピアノ、アコースティックギターを中心に紡がれた楽曲の良さと心の琴線に触れる叙情性のあるメロディが光った逸品となっている。

★曲目★
01.Acrostichon(アクロスティコン~折句~)
02.The Muse(ザ・ミューズ)
03.Watch The Daylight Shine(ウォッチ・ザ・デイライト・シャイン)
04.Don't Do It The Easy Way(ドント・ドゥ・イット・ザ・イージー・ウェイ)
05.Considering(コンシダリング)
★ボーナストラック★
06.Male And Female(男と女)

 アルバムの1曲目の『アクロスティコン~折句~』は9分に及ぶ曲で、非常に美しい12弦のギターアンサンブルと煌びやかなキーボード、そしてイエスばりのリッケンバッカーのベースの唸りが特徴的な楽曲。大胆な曲調の変化が多く、フォーク調だがピーター・ガブリエル時代のジェネシスを彷彿とさせるダーク・デ・シェパーのヴォーカルが耳に残る。キーボードとギターを中心とした丁寧なアンサンブルに抒情性があり、その誠実な演奏に好感を持てる佳曲である。2曲目の『ザ・ミューズ』は、アコースティックギターとピアノを中心としたクラシカルなバラード曲。悩まし気なヴォーカルのバックには、美しいメロトロンとフルートが流れ、リリカルでありながらロマンティックな曲調になっている。3曲目の『ウォッチ・ザ・デイライト・シャイン』は、よりフォーク的な方向性を優先した楽曲になっており、美しく流れるアコースティックギターの調べとゲールト・アマントの幻想的なストリングス&キーボードが冴えた内容になっている。ゆったりとした曲調の中に巧みなインタープレイがあり、数あるフォーク調の曲の中でも抜群の出来栄えである。4曲目の『ドント・ドゥ・イット・ザ・イージー・ウェイ』は12分越えの大曲。初期のジェネシスやキャメルをイメージさせるようなシンフォニック要素の強い楽曲が目立つ。次々と繰り出されるアルペジオやオルガンの音色と調べは、まさにジェネシスでありキャメルである。中間部の語るようなヴォーカルの後に響く、12弦ギターと荘厳なオルガンによる独特な世界観と後半のスピーディーな展開は思った以上に劇的である。5曲目の『コンシダリング』は、本アルバムの中でもプログレッシヴ志向の楽曲。前半は柔らかなローズピアノを中心としたメロディアスなバラード調から、フルートソロを介して後半では伸びやかなギターソロとストリングスによるシンフォニック調に変化しながら盛り上がっていく。何よりも揚々と歌い上げるダーク・デ・シェパーのヴォーカルが素晴らしい。ボーナストラックの『男と女』は、流麗なピアノから始まり、ファズギターを響かせたクラシカルなアンサンブルが特徴的な楽曲。ファズが強すぎる内容になっているが、チェンバロやアコースティックギターなど多彩な楽器を使ったメロディが愛らしい。こうしてアルバムを通して聴いてみると、彼らのフォロワーであるジェネシスやキャメルから影響を受けたと思えるフレーズが多い中で、アコースティックギターやピアノといった生音とストリングスを巧みに利用したアンサンブルが特徴となっている。やや粗削りな構成でありながらも演奏力は高く、転調とともにほのかに色合いを変えていく繊細なメロディが思った以上にロマンティックである。ダイナミックさや派手さは欠けるものの、全体的に大陸独特の憂愁とおおらかさを秘めているところが、数少ないベルギーの抒情派シンフォニックロックグループである彼らが愛される所以だろう。

 アルバムは国内の一部のプログレファンから一定の評価があり、売り上げは上々だったという。理由はベルギーにもパンク/ニューウェイヴの波が押し寄せていたが、ユニヴェル・ゼロの登場やマキャベル、フライトといったプログレッシヴロックを標榜とするグループの台頭によるところが大きい。彼らはアルバムのセールスのおかげで新たにシンセサイザーを導入し、ポップ性を強めた幅広い楽曲を目指そうとしたという。しかし、メンバーの数人が大学の試験のため、グループは数か月間活動を休止。その間にキーボード奏者のゲールト・アマントが脱退してしまう。代わりにリュック・ファンホーフェが加入し、レーベルをトゥインクルからベルギーのマーク・マリスターが運営するラークに移籍。1982年にセカンドアルバム『Taking Root』をリリースする。まさしくシンセサイザーを多用したアレンジによる明るくナチュラルなポップテイストが加味されたアルバムとなっており、キャッチーなメロディを強調した内容になっている。しかし、アルバムのレコーディング後に兵役のためにギタリストのウォルター・デ・バーランゲールが脱退してしまい、代わりにバート・ヴァン・カレンバーグを加入させてグループを存続させるが、数度のライヴを行った後に解散している。メンバーのほとんどは音楽の世界を去ってしまうが、アーノルド・デ・シェパーは、よりロックなスタイルの別のグループを結成し、クールで洗練されたメロディを作り続けたという。そして1988年に『The Muse』のカヴァーバージョンを含む別のプロジェクト名でテープをリリースし 、1992年にはリュック・ファンホーフェと一緒にイージー・ハートというグループ名でCDシングルをリリースしている。10年後の2002年にリュックをキーボードに迎えたアーノルドのソロアルバムをリリースしたことを機に、2004年にイゾポダが復活。ライヴを中心に現在でも活動を続けているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は素朴で繊細なメロディが定評のベルギーのプログレッシヴロックグループ、イゾポダのデビューアルバムを紹介しました。イゾポダってワラジムシやフナムシといった等脚類の生物の総称なんですね。どうしてこんな名前のグループ名にしたんだろうと不思議でしたが、メンバーのウォルターが百科事典でたまたま見つけた言葉で、発音がとても良かったからだそうです。もっと深い意味があったのかも~と思っていたのはちょっと考え過ぎでしたね。イゾポダの本アルバムは最近手に入れて聴いたものですが、1978年リリースの内容とは思えない1970年初期を彷彿とさせる楽曲だと思います。特にフォロワーだったというピーター・ガブリエルが在籍していた時代のジェネシスをパクリ…もとい、良く研究していて粗削りながらも独自の楽曲に昇華させていると思います。英国のプログレに憧れつつも、イタリアっぽい素朴な味わいのあるナイーヴなメロディが非常に悩ましいです。言い方を代えれば若さゆえの壊れそうなバランス感覚の中で多彩な楽器が紡がれているといった感じでしょうか。それが何となく心地よく感じてしまうから不思議な楽曲だなと今でも思っています。

 さて、楽曲を聴くと1970年代初期の古典的なシンフォニックロックグループと何ら変わらないように聴こえますが、イゾポダの目的は明らかに古いプログレッシヴロックのスピリットを取り戻して1970年代後半に馴染みのある方法で披露することだったと思います。フルートやピアノ、アコースティックギターをフィーチャーした生音とキーボードを配置した楽曲ですが、様々な要求の厳しいインタープレイを交互に行う強烈な演奏力が伴うものになっています。粗削りなのは構成力であって、メロディと演奏テクニックは決して他のグループと引けを取らない秀逸なアルバムだと思います。2回、3回聴くと彼らのスタイルや良さが理解できるはずです。

 “フランダースのジェネシス”と呼ばれ、英国のプログレッシヴロックをたどるような音楽性を目指した結果、ベルギーという国ならではのロマンティックあふれる楽曲になっています。よくよく聴いてみるとジェネシスやキャメル、イエスの他にもキング・クリムゾンやアンジュのフレーズも使われてたりしてます。
 
それではまたっ!