【今日の1枚】Albatross/Albatross(アルバトロス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Albatross/Albatross
アルバトロス/アルバトロス
1976年リリース

イエス、EL&Pのサウンドを拡大解釈した
シンフォニックロックの隠れた名盤

 プレスされたレコードがたった1,000枚という自主制作盤でリリースされたアメリカのプログレッシヴロックグループ、アルバトロスの唯一のアルバム。そのアルバムはイエスの『危機』や『海洋地形学の物』に程近い楽曲をはじめ、キース・エマーソンやリック・ウェイクマンばりのピアノやメロトロン、ハモンドオルガンをふんだんに使用した極上のシンフォニックロックとなっている。廃盤となって眠っていた本アルバムは、1992年に一度レコードが再プレスされるもののCD化は無く、最終的に日本で自作CDやCDRを販売するタチカレコードが、2004年にCDRとしてリリースした隠れた名盤でもある。

 アルバトロスはアメリカのイリノイ州の北にある街ロックフォードで、1974年に結成されたグループである。メンバーは大学でクラシックを学び、修士号を得ているマーク・ダールグレン(キーボード、ギター)を中心に、ポール・ロー(リードギター)、ジョー・グアリーノ(ベース)、ダナ・ウィリアムズ(ドラムス、パーカッション)、マイク・ノバック(ヴォーカル)の5人組となっている。彼らを結びつけたのは英国のイエスやジェネシス、キング・クリムゾン、ジェントル・ジャイアントといったプログレッシヴロックやアメリカのディキシー・ドレッグスといったグループの大ファンだったこともあり、その音楽性をアメリカに根付かせようとしたのが結成のきっかけである。彼らは翼と風を巧みに利用することで長距離を容易に飛ぶ鳥のアホウドリにちなんで、英国から遠いアメリカの地で新境地を開拓するべく、グループ名をアルバトロスとしている。アルバトロスとして活動を開始した彼らは、70マイル離れた大都市のシカゴを拠点とせず、地元のロックフォードを中心にライヴ活動を行ったという。ライヴは英国のイエスを中心としたカヴァー曲が多かったが、マーク・ダールグレンが作曲を行い、マイク・ノバックが作詞を担当してオリジナル曲を書き溜めていったという。イエスフォロワーから一定の評価を得た彼らは、スタジオレコーディングをするために、1975年にロックフォードで最新の設備を投入したオーディオ・トラック・レコーディング・スタジオにアルバトロスが最初のアーティストとして迎え入れられている。そのレコーディング・スタジオを見た彼らは、当時最高級だった18の入出力のあるAuditronics Son of Thirty-Six Grand ConsoleやMCIの16トラック2のアナログレコーダーをはじめ、スカリー、レヴォックスの2トラック、Dolby Aのノイズリダクションといった機材や日本のナカミチのカセットレコーダー、ソニーのマイクやパイオニアのヘッドフォンが置いてあったという。彼らは約1ヵ月ほどかけてレコーディングを行い、その間にジャケットアートは地元のアーティストを雇って描かせている。彼らはマスターテープを持って複数のレコード会社に送り付けたが良い返事はもらえず、最終的にインディペンデントレーベルのAnvil Recordsを設立。プレス工場で約1,000枚ほど制作し、ロックフォードを中心としたエリアと取り扱ってくれるローカルレコード店のみで販売されたアルバムが本作である。最新機材で録音されたそのアルバムは、グランドピアノやメロトロン、ハモンドオルガンを駆使し、壮大で荘厳なシンフォニックロックとなっており、何よりもアメリカらしい大胆なアレンジが施された逸品となっている。

★曲目★
01.Four Horsemen of the Apocalypse(ヨハネの黙示録の四騎士)
02.Mr. Natural(ミスター・ナチュラル)
03.Devil's Strumpet(悪魔のトランペット)
04.Cannot Be Found(見つからない)
05.Humpback Whales(ザトウクジラ)

 アルバムの1曲目の『ヨハネの黙示録の四騎士』は14分を越える大曲になっており、キリストが解く七つの封印の内、始めの四つの封印が解かれた時に現れ、剣と飢饉と病・獣により、地上の人間を殺す権威を与えられた四騎士を描いた楽曲。大げさとも思えるハモンドオルガンによるオープニングから、エレクトリック音からオルガンとギター、うねるベースをバックとしたヴォーカルパートが始まる。途中からイエスを思わせるなだらかな楽曲を挟むが、全体的にノリの良いリズムのアンサンブルである。6分30秒あたりから曲調が変わり、ギターとキーボードを中心としたヴォーカルからスペイシーなエフェクトを交えた伸びやかなギターソロに展開する。10分過ぎにはピアノをバックにしたヴォーカル曲となり、最後はオープニングと同じように力強いハモンドオルガンで幕を閉じている。2曲目の『ミスター・ナチュラル』は、非常に奇妙なエフェクトヴォーカルと観客の歓声から始まるライヴパフォーマンスから、独特なキーボードのメロディを中心としたアップテンポな曲。まるでブロードウェイのミュージカルのために描かれた曲のようで、彼はマスクを着用して女の子を怖がらせ、とんでもない行動をするという歌詞になぞらえ、ライヴでは観客が首を横に振るノーのパフォーマンスがある。3曲目の『悪魔のトランペット』は、地元の教会で録音された本物のパイプオルガンのイントロから始まり、2分過ぎには突然に曲調が変化し、複数のキーボードによる速いテンポのアンサンブルとなる曲。絶え間ないタイトでトリッキーな演奏が続き、7分過ぎにはイエスの『危機』のナンバーである『I Get Up I Get Down』を彷彿とさせるパイプオルガンがある。4曲目の『見つからない』は、マーク・ダールグレンの流麗なピアノを中心としたメランコリックなバラード曲になっており、マーク・ダールグレンのクラシックに精通した華麗なピアノとマイク・ノバックのヴォーカルが堪能できる楽曲である。5曲目の『ザトウクジラ』は、クジラの鳴き声と思わせるエフェクトとチューブラーベルとトライアングルのイントロから、エマーソン・レイク&パーマーを彷彿とさせるハモンドオルガン、モーグ、メロトロンのフィルプレイを中心とした楽曲。遊び心のある気まぐれなブレイクがあるなど、なかなか楽しませてくれる逸品である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、イエスの『危機』や『海洋地形学の物語』のフレーズを取り入れた楽曲があり、かなりイエスから影響を受けたグループであると思われる。しかし、アルバムの楽曲はカラフルな楽器による多様なサウンドになっており、アメリカらしい明朗さも相まって非常に楽しく聴きやすいものになっている。アップテンポのアレンジが頻繁にあることを考えると、この時代のアメリカのグループにしてはかなり挑戦的でエネルギッシュである。

 アルバムはロックフォードと国内の主要なレコード店に並ばれ、地元のラジオ局でアルバム全体を流したりしたが結果は散々だったという。特にアメリカではディスコブームであり、プログレッシヴロックという重厚なサウンドを求めるような市場はなかったのである。彼らは衣装をジェスロ・タル風に変えてみたり、ポップな路線に移行するかどうか悩んだりしたが、アルバトロスは完全にロックフォードで影を落としていたという。一方、同じロックフォード出身のチープ・トリックが華々しくデビューし、その圧倒的なライヴパフォーマンスで一気に地元で人気となっていたことにメンバーは完全に打ちのめされ、3か月のあいだ活動が出来なかったという。後にロックフォードでのライヴを中心に活動を続けていたが、1978年の初旬に解散している。解散後、ポール・ロー、ダナ・ウィリアムズ、マイク・ノバックの3人は、ブリッツェンと呼ばれるグループを結成して音楽活動を続けており、ダナは現在インディアナポリスでカフェテリアを経営している。キーボーディストのマーク・ダールグレンはしばらく音楽活動をした後、転身してロックフォードでコミュニティの活動家となっている。ベーシストのジョー・グアリーノはスタジオミュージシャンとなり、多くのアーティストのバックを務めたという。アルバムは廃盤となったがわずか1,000枚のプレスしかない稀少さが相まって、アルバムの価値は上昇し、1980年代まで超レアアイテムとなったのは言うまでもない。そんなプログレッシヴロックが再認識され始めた1992年には、同アルバムがLPレコードで再リリースされている。CD化がなかなか進まない中、日本の自作CDやCDRを販売するタチカレコードが、2004年にCDRとして発売。また、2014年にはドイツのGreat Barrier Recordsから、念願のCD化を果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイエスに影響されつつも高いアレンジ力に驚かされるアメリカのシンフォニックロックグループ、アルバトロスの唯一のアルバムを紹介しました。私がこのアルバムと出会ったのは4、5年前の中古ショップです。輸入盤だったのでドイツ盤ですね。それよりも前にCD化が待ちきれず、日本のインディレーベルでCDRで発売されていたようで、こんなところにもまた日本の影が…(笑) いや、頭が下がる思いです。本アルバムは同じくイエスのパクリと言われたスターキャッスルのデビューアルバムとほぼ同時期にリリースされていますが、こちらはイエスのクローンと呼ばれているらしいです。イエスの『危機』のナンバーの『I Get Up I Get Down』ぽいパイプオルガンが入っていたり、イエスらしいギミック満載のアップテンポの楽曲があったりしますが、全体的に遊び心のある楽しい曲ばかりです。これは彼らがアルバム収録前に作った曲がライヴから発案したものが多く、『ミスター・ナチュラル』のコミカルな演奏もライヴ用の曲だったようです。最後の『ザトウクジラ』の曲もエマーソン・レイク&パーマーの『Are You Ready Eddy?』のようなライヴ向きの曲ですよね。そのため、スタジオでレコーディングする際、アルバム用に曲を短くカットしたり、アレンジを加えたりとかなり苦心したと言われています。最新の機材のあるスタジオに振り回された感が、ちょっとだけ楽曲の中に表れている気がします。

 さて、アルバムの方ですが、彼らのアレンジ力の賜物とも言えるのが1曲目の『ヨハネの黙示録の四騎士』と3曲目の『悪魔のトランペット』になります。イエスの影響はあるものの、やはりキーボーディストのマーク・ダールグレンあってのグループらしく、キース・エマーソンやリック・ウェイクマンを思わせる迫力のキーボードプレイが特徴です。また『ミスター・ナチュラル』は、ミュージカルっぽい演出や楽曲になっていて楽しく聴けます。とにかく曲の中で転調に次ぐ転調でアップテンポに切り替わったり、スローなバラードになったり、荘厳なハモンドオルガンが演奏されたりと思った以上にワクワクします。ただ、やっぱり、ヴォーカルがもうちょっとがんばってほしいかな~と。そういう意味では個人的に非常に惜しいアルバムです。

 アルバムはカラフルな楽器による多様なサウンドになっており、アメリカらしいアレンジが施された逸品です。ぜひ、イエスファンだけではなく、この隠れた名盤を一度聴いてみてくださいませ。

それではまたっ!