【今日の1枚】Shadowfax/Watercourse Way | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Shadowfax/Watercourse Way
シャドウファクス/ウォーターコース・ウェイ
1976年リリース

史上初めてリリコンという楽器をフィーチャーした
アメリカンテクニカルジャズロックの名盤

 トールキンの指輪物語に登場する魔術使いガンダルフの愛馬から名を採ったシャドウファクスのデビューアルバム。そのサウンドはマハヴィシュヌ・オーケストラやブランドXに匹敵するテクニカルなジャズロックになっており、畳みかけるようなスリリングなアンサンブルが特徴。その上でアコースティックギターやピアノ、電子楽器であるリリコンが奏でるフルートなどが絡み合うセクションでは、その後の彼らの音楽性となるニューエイジ的なアンサンブルが垣間見れる作品になっている。後にフォークやニューエイジミュージックの名門ウインダム・ヒルレーベルの看板アーティストとなるアメリカンジャズロックの名盤である。

 シャドウファクスは、1972年にアメリカのイリノイ州シカゴの農場でサックス&フルート奏者のチャック・グリーンバーグとギタリストのG・E・スティンソン、ベーシスト兼ヴォーカリストのフィル・マッジーニの3人が中心となって結成されたグループである。最初はブルースバンドとして演奏していたが、イギリスをはじめとするプログレッシヴな音楽に影響を受け、ワールドミュージックやフォーク、ジャズ、さらには室内楽の要素が混ざったスタイルに移行している。この移行時期にグリーンバーグとマッジーニは、グループ名を彼らが好んでいたJ・R・R・トールキンの『指輪物語』に登場する魔法使いガンダルフの愛馬シャドウファクスから採用したという。トリオで演奏していた彼らは、主に力強いギターのエッジを利かせた明確なロックスタイルだったが、サウンドの幅を広げるために1973年にダブ・マルチュニク(キーボード)、1974年にはスチュワート・ネヴィット(ドラムス、パーカッション)を加えている。当時の同郷であるイリノイ州シカゴではブラスセクションを大々的に使用し、ウォルター・パラゼイダーやロバート・ラム、テリー・キャスらによって結成したロックグループ、シカゴが人気を占めており、シャドウファクスは彼らとは違うスタイルでよりテクニカルなジャズロックを目指したという。5人のメンバーは地元のシカゴでライヴを行いつつリハーサルを重ね、1975年にはアルバム用のレコーディングを開始している。主にドイツのベラフォンレーベルやバチルスレコードのアメリカ盤などを手掛けていたパスポートレコードと1976年に契約し、デビューアルバム『ウォーターコース・ウェイ』をリリースする。そのアルバムはまさにマハヴィシュヌ・オーケストラのギタリスト、ジョン・マクラフリンを彷彿するギターやリリカルなピアノとキーボード、そして畳みかけるようなドラミングなどが一体となった技巧派ジャズロックの傑作となっている。また、管楽器を模した電子楽器の一種であるリリコンを史上初めてフィーチャーしたアルバムでもある。

★曲目★
01.The Shape Of A Word(ザ・シェイプ・オブ・ア・ワード)
02.Linear Dance(リニア・ダンス)
03.Petite Aubade(プティ・オーヴァーデュ)
04.Book Of Hours(ブック・オヴ・アワーズ)
05.The Watercourse Way(ザ・ウォーターコース・ウェイ)
06.A Song For My Brother(ア・ソング・フォー・マイ・ブラザー)
★ボーナストラック★
07.Woman Most Precious(ウーマン・モスト・プレシャス)
08.Linear Dance~Different Version~(リニア・ダンス~ディファレント・ヴァージョン~)

 アルバムの1曲目の『ザ・シェイプ・オブ・ア・ワード』は、マハヴィシュヌ・オーケストラやリターン・トゥ・フォーエバーから影響されたと思えるG・E・スティンソンのテクニカルなギターと、ジャズ的な要素の強いダブ・マルチュニクのアコースティックピアノが良いアクセントとなったアンサンブル。手数の多いドラミングに支えられつつもインタープレイ色のある演奏はスリリングである一方、アメリカらしい陽気さが底辺に感じられるのが特徴である。中間部のチェンバリン・ストリングスを含んだキーボードも聴き応えがあり、畳みかける演奏の中でも彼らのアレンジ力が光った逸品である。2曲目の『リニア・ダンス』は、アルバムで唯一のヴォーカルの入ったナンバーであり、冒頭からユニゾンによる反復を重視し、ギターとシンセサイザーを中心に畳みかけるようなサウンドになっている。ヴォーカルはフィル・マッジーニの語り掛けるようなスタイルであり、一風変わった奇妙な雰囲気を作り出しているが、バックの演奏はハイテンションである。曲の最後にはベースクラリネットとストリングスが加わり、力強いドラミングと共にフェードアウトしていく。3曲目の『プティ・オーヴァーデュ』は、美しいアコースティックピアノによるソロに導かれ、チャック・グリーンバーグによるリリコンのフルートとアコースティックギターが加わったシンフォニック要素の強い楽曲。アルバムでは一服の清涼剤となっているが、このような美しいサウンドが後のニューエイジでの活躍に繋がっていく彼らのセンスになっている。4曲目の『ブック・オヴ・アワーズ』は、ニューエイジ風のオープニングから、ギターカッティングやシンセサイザーソロによるテクニカルなジャズロックになっていく楽曲。中間のスロー部では流麗なアコースティックピアノと共にシタールを使用しており、エキゾチックな雰囲気を作り上げている。5曲目の『ザ・ウォーターコース・ウェイ』は、アコースティックギターとウッドベース、ピアノ、フルート、タブラといった楽器で構成された異国情緒のあるアンサンブルが特徴の楽曲。繊細でテクニカルな演奏でありながらメロディは美しく、フルートとアコースティックギターによる調和性は心が洗われるようである。6曲目の『ア・ソング・フォー・マイ・ブラザー』は9分以上の大作になっており、マハヴィシュヌ・オーケストラのサウンドにシンフォニック的な要素を組み合わせた本アルバムの中で最も抒情性のあるサウンドになっている。アコースティックピアノに乗せた泣きのギターソロが披露され、6分過ぎからピアノソロのバックで響き渡るストリングスやチェンバロは幻想的ですらある。ボーナストラックの『ウーマン・モスト・プレシャス』は、ピアノとフルートを中心としたニューエイジ色のあるシンフォニック曲。ギターやリズムが入ると一気に高レベルのフュージョンサウンドになっていく。『リニア・ダンス~ディファレント・ヴァージョン~』は、『リニア・ダンス』のデモヴァージョンである。こうしてアルバムを聴いてみると、手数の多いドラミングだけではなくソロにアルペジオにジョン・マクラフリン張りのギターが引っ張る形で、清涼感のあるアコースティックピアノが良いアクセントとなったサウンドが素晴らしいアルバムである。管楽器を模した電子楽器の一種であるリリコンを一部に使用しているが、ベースクラリネットやフルートといった管楽器や12弦ギター、タブラ、シタールといった多彩な楽器が効果的である。大胆な展開よりもアンサンブルや楽器による調和を重視しているあたりに、後の癒しやポジティヴな感情を与えるニューエイジミュージックの中心的な存在となっていく彼らのアレンジセンスが光っているように思える。

 アルバムはすぐに反響があったわけではないが、後に一部のカルト的なファンベースを獲得することになる。当時から管楽器を模した電子楽器の一種であるリリコンを史上初めてアルバムにフィーチャーしたことで、一部のミュージシャンから注目を浴びていたという。そのユニークなサウンドに最も興味を持ったのが、後にニューエイジミュージックで広く認知されるレーベルのウインダム・ヒルの創設者、ウイリアム・アッカーマンである。シャドウファクスは同レーベルの最初のグループとなり、多くのファンにアピールされるようになる。彼らのジャズベースからなるクラシック、フォーク、ワールドワイド的なサウンドが広く認知され、当初はワールドビートと呼ばれていたという。シャドウファクスの最初の成功は、1982年にリリースした『シャドウファクス』であり、ビルボードのジャズチャートの上位にランクインしている。メンバーは脱退したキーボーディストのダブ・マルチュニクの代わりにG・E・スティンソンがピアノを弾くなどをし、カーネギーホールでフォローアップツアーを行い、ジョン・F・ケネディセンターやレッド・ロックスといった会場でヘッドライナーを務め、モントルージャズフェスティバルにも出演している。そしてメンバーの中心的人物だったチャック・グリーンバーグは、グループに印税を払っていなかったパスポートレーベルからマスターを含む一切の楽曲の権利を買い取り、本アルバム『ウォーターコース・ウェイ』のリニューアル、再録盤をウインダム・ヒルレーベルからリリースすることになる。このアルバムにはジャミル・シマジンスキー(ヴァイオリン)とジャレド・スチュワート(キーボード)を正式メンバーとして加えている。1983年には『シャドウダンス』、1984年にはヘヴィーなサウンドとなった『ドリームス・オブ・チルドレン』、1986年にはニューエイジ寄りになった『トゥー・ファー・トゥ・ウィスパー』といったアルバムをコンスタントにリリース。そして1988年にグループはキャピタル・レコーズに移籍し、アルバム『フォークソングス・フォー・ア・ニュークリア・ヴィレッジ』でグラミー賞を獲得している。その後もメンバーチェンジを繰り返しながらアルバムをリリースし続けたが、1995年の初のライヴ盤『シャドウファックス・ライヴ』をリリース後の9月に、カリフォルニア州沖にあるサンタクルーズ島でバケーション中だったチャック・グリーンバーグが心臓麻痺で急逝。リーダーでありリリコンによるサウンドの核であったグリーンバーグを失ったことで、グループは同年に解散を余儀なくされている。その後のメンバーはセッションミュージシャンとなって活動を続けることになったが、ドラマーのスチュワート・ネヴィットは、自身のソロプロジェクトの一環としてシャドウファックスの拡大版ともいえるザ・マリオン・カインドを主宰することになる。シャドウファクスのサウンドを継承しようとしたネヴィットだったが、2008年に糖尿病と心臓病の合併症により亡くなっている。なお、チャック・グリーンバーグの妻だったジョイが、シャドウファクスの歴史を綴った「ア・ポーズ・イン・ア・レイン」を2006年に出版している。

 

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は後にニューエイジミュージックの中心的な存在となるシャドウファクスのデビューアルバム『ウォーターコース・ウェイ』を紹介しました。このアルバムは2019年の紙ジャケで入手したものですが、1982年に再録音してリリースされたウインダム・ヒルレーベル盤が付いたダブルCDエディションになっています。オリジナル盤と比べてウインダム・ヒル盤のほうが、シンセを多用したニューエイジ的な作りになっていてかなり印象が違います。しかし、楽器を差し替えていたり、削除されたパートがあったりするので、個人的にはオリジナル盤のほうがおススメです。オリジナル盤は1976年リリースということで、ギターとアコースティックピアノを中心としたテクニカルなジャズロックのアプローチからフルートやストリングスといったクラシカルな要素を組み入れていて、プログレッシヴなサウンドが息づいているのが大きな特徴となっています。マハヴィシュヌ・オーケストラやリターン・トゥ・フォーエバーから影響されたと思える楽曲がメインですが、畳みかけるような演奏の中でアコースティックピアノとリリコンが良いアクセントとなっていて、抒情性のあるメロディも相まって聴き手を意識したバランス感覚が優れた演奏になっています。6曲目の『ア・ソング・フォー・マイ・ブラザー』なんて、シンフォニックな要素をうまく融合した幻想的なサウンドになっており、特に抒情性たっぷりのギターは聴きどころになっています。

 さて、本アルバムにはグループのリーダーであるチャック・グリーンバーグが、初めてアルバムに使用したリリコンという電子楽器があります。この楽器は1970年にアメリカで開発されたアナログシンセサイザーを用いた吹奏楽器で、電子楽器で一般的なキーボードによる演奏とは異なって、息遣いと唇の締め方による繊細な演奏ができるのが特徴です。ただし、リリコンは非常に高額でセッティングが煩雑なこともあってあまり普及しなかったそうです。元々サックス奏者だったチャック・グリーンバーグは、手軽に他のフルートやクラリネットを演奏するリリコンに着目して、これをバンド演奏の中に組み入れようと考えたのが始まりです。リリコンを多用していた当時のミュージシャンは、ジャズ・フュージョン系のサックス奏者であるトム・スコットが有名で、彼はスティーリー・ダンの曲『麗しのペグ』でも使用しています。日本では当時のTHE SQUARE(現T-SQUARE)のサックス奏者である伊東たけしが、アルバム『マジック』の『リトル・マーメイド』という曲で使用して一躍有名になります。後にウインド・シンセサイザー・ドライバーという名で浸透しますが、多くのジャズ・フュージョン系のグループで使われる楽器になっていきます。本アルバムでもそのリリコンが奏でるフルートやクラリネット、テナーサックスがフィーチャーされているとのことですが、実際に演奏する管楽器とあまり遜色無いことにびっくりします。いや、ちゃんと聴けば違いが分かるのかな~、う~ん。

それではまたっ!