【今日の1枚】Rainbow Theatre/The Armada(無敵艦隊) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Rainbow Theatre/The Armada
レインボー・シアター/無敵艦隊
1975年リリース

勇壮なホーンセクションとマーチング風ドラム、
そして溢れるメロトロンによる一大交響詩

 オーストラリアの数あるプログレッシヴロックの中でも傑出した存在と言われたレインボー・シアターのデビューアルバム。そのサウンドはサックスやトロンボーン、オーボエといった金管楽器とヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった弦楽器による勇壮で華麗なるシンフォニックロックとなっており、溢れんばかりのメロトロンとハモンドオルガン、テノール歌手によるオペラ風のヴォーカル、そしてロバート・フリップ並みのギターワークを組み入れた一大交響詩となっている。まさにマーラー、ストラヴィンスキーといった交響曲に、キング・クリムゾンのようなプログレッシヴロックを融合した唯一無二の傑作アルバムである。

 レインボー・シアターは、オーストラリアのメルボルンで、作曲家、アレンジャー、ギタリスト、メロトロン奏者であるジュリアン・ブラウニングが中心となって1973年に結成したグループである。ブラウニングは文化的な素養のある家庭で育ち、独学でギターを覚え、学校ではクラシックピアノと音楽理論を学んでいる。ロックギターはクリームのエリック・クラプトン、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ、ジミ・ヘンドリックスなどから影響を受け、その後、オーストラリアの映画やテレビ、ドキュメンタリーなどの作曲を手掛ける高名なブルース・スミートンと出会い、ジャズプレイヤーのアラン・コゴゴフスキーのアルバムに参加している。いくつかのブルース系のグループを渡り歩いた後、ファーグ・マッキノン(ベース)、グレアム・カーター(ドラムス)の2人に声をかけ、1973年にレインボー・シアターを結成する。最初はトリオ編成で演奏していたが、後にスティーヴ・ナッシュ(サックス、クラリネット、フルート)、元ロンドン・エクスプレスというグループにいたマーティ・ローズ(ヴォーカル)が加入し、5人編成で地元のメルボルンでギグを行っている。ブラウニングはグループ結成時に英国のキング・クリムゾンのデビューアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』を聴いてかなり衝撃を受けたらしく、さらにマーラーやストラヴィンスキーのようなクラシック音楽とロバート・フリップやジョン・マクラフリンのような冒険的なギターを好むようになったという。彼は自分が思い描いたユニークな音楽を創造しようと決め、ホーンセクションを強化するためにフランク・グラハム(トランペット)、ドン・サンティン(トロンボーン)、そして音に深みを持たせるためにマシュー・コウゼンズ(キーボード)を加入させている。また、これまでヴォーカリストだったマーティ・ローズからテナー歌手のキース・ホーバン(リードヴォーカル)に交代している。こうしてラインナップが固まり、メルボルンのクラブを中心にライヴステージにて披露。そのステージはオーストラリアで所有しているグループが少なかったハモンドオルガンやメロトロンを大々的に使用し、銅鑼を含む巨大なドラムセット、勇壮なホーンセクションに観客は度肝を抜いたという。ファーストアルバムにも収録されたいくつかの曲をステージを行うごとに話題となり、レインボー・シアターの名は次第に広まっていったと言われている。1975年になるとリハーサルやギグを行いつつ曲を完成させ、ブラウニングはポリドールを含むいくつかのレコード会社にデモテープを持参。しかし、契約までには至らず、レコード会社無しでアラン・イートン・スタジオで録音を行っている。その後、クリアー・ライト・オヴ・ジュピターというレーベルと契約を交わし、デビューアルバム『無敵艦隊』をリリースすることになる。本アルバムは1588年7月にエリザベス一世の治世にあった英国を征服すべく、スペインのフェリペ二世が100隻を誇る無敵艦隊を派遣したアルマダの海戦をテーマにしている。スペインで最高の祝福を受けた大いなる艦隊が、折からの嵐や戦術の失敗などから大敗をし、ガレオン船サン・サルバドル号など多数の船が撃沈していく勇壮と悲哀を描いた一大交響詩となっている。

★曲目★
01.The Darkness Motive(ザ・ダークネス・モーティヴ)
 a.Flourish(装飾楽句)
 b.Overture(序曲)
 c.First Theme(第一の主題)
 d.Second Theme(第二の主題)
02.Song(歌)
03.Petworth House(ペットワース・ハウス)
04.Song~Shall…~(歌)
05.The Armada(無敵艦隊)
 a.Scene At Sea(海の情景)
 b.Dominion(領土)
 c.Centuries Deep(センチュリーズ・ディープ)
 d.Bolero(ボレロ)
 e.Last Picture(遺影)
★ボーナストラック★
05.Icarus~From Symphony No.8~(イカルス~交響曲第8番~)
 a.Icarus And Daedalus(イカルスとダイダロス)
 b.Asension(昇天)
 c.Labyrinth Gothica(ゴシカの迷宮)
 d.Icarian Sea(イーカリアーの海)

 アルバムの1曲目の『ザ・ダークネス・モーティヴ』は、4章からなる構成の楽曲となっている。勇壮なファンファーレからユーモラスなブラスを経て、『序章』では疾走感あふれるリズムとブラスセクションとテクニカルなオルガンワークが奏でられ、キング・クリムゾンを彷彿とさせるアンサンブルが披露される。『第一の主題』ではクラシカルなヴォーカルとオルガンによるパート、そしてブラスによるパートによる楽曲になり、後半ではバックには重厚なメロトロン響き渡ったジャズロックになっていく。『第二の主題』ではこの溢れるようなメロトロンと朗々たるヴォーカルを中心に流れていき、抒情的なオーボエやトランペットが悲し気にフェードアウトしている。2曲目の『歌』は1分余りのピアノのによる弾き語りのようなトラックになっており、3曲目の『ペットワース・ハウス』は、南イングランドのウェストサセックスの小さな町、ペットワースにある旧ノーサンバランド伯爵家(現・公爵家)の私邸「ペットワース・ハウス」のこと。この私邸に滞在していた19世紀を代表する風景画家、J・M・W・ターナーにインスパイアされた楽曲になっており、オルガンとメロトロンをバックにソプラノ歌手や合唱団が加わったクラシカル要素とサックスによるジャズ要素が融合した個性的な内容になっている。テノールによるピアノの弾き語りの『歌』を挟んで、4曲目のテーマである『無敵艦隊』が始まる。この曲は5章からなるレコードでいうB面すべてを使った15分強の大作となっており、まさに開戦間近の静けさをイメージしたメロトロンとストリングスのソロが奏でられ、キング・クリムゾンの『リザード』を彷彿とさせるボレロのリズムが加わりながらスピードが増していく。そしてトランペットの響きと共に『領土』が始まり、テノール歌手のキース・ホーバンのオペラチックなヴォーカルを中心としたクラシックロックとなる。バックではソプラノ歌手と合唱団、そしてホーンセクションを加えたテクニカルなアンサンブルが披露され、銅鑼の響きと共に曲調が変わり、『センチュリー・ディープ』では悲哀に似たピアノソロとテノールのヴォイスが海の藻屑として消えていく艦隊の姿を描いている。そして静かな『ボレロ』のリズムと共にメロトロン、そしてサックスによる無敵艦隊の敗戦の光景が奏でられ、ソプラノの声の響きと悲し気なサックスの音色がまるで鎮魂歌のようである。最後の『遺影』ではブラスセクションを交えたジャジーなアンサンブルが展開され、混声合唱団と共に静かにクライマックスを迎えている。ボーナストラックの『イカルス~交響楽団第8番~』は、ジュリアン・ブラウニングが1996年のメルボルン・グラマー・シンフォニー・オーケストラのために描いた4楽章からなる交響曲。ブラウニングのクラシックに通じた作曲能力の高さがうかがえると共に、彼がかつて影響されたというオーストリアの作曲家グスタフ・マーラー的な曲想が感じられる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、クラシック特有のダイナミックさの中にジャズ特有のテクニカルなスピード感と緊張感、そしてオペラ風のテノールと混声合唱団による荘厳さが加わった独創性の高いシンフォニックロックを確立させている。洪水とも言うべきメロトロンが効果的に活用され、ジャズ要素が勇壮で華々しさを表現し、クラシック要素が悲哀と厳かさを表現している一方、ギターやオルガン、リズムセクションがロックらしいノリを作り上げているところが唯一無二のサウンドと言われる所以だと思われる。

 アルバムリリース後もグループはメルボルン周辺でギグを続けたが、一般的なパブではなく大学やコンサートサーキットが中心だったという。そのため、多くのメンバーを維持する観客の人数は見込めず、1976年前半ではメンバーの出入りが激しかったと言われている。キーボーディストのマシュー・コウゼンズやサックス、クラリネット、フルート奏者のスティーヴ・ナッシュ、トロンボーン奏者のドン・サンティンが脱退し、ヴォーカルのキース・ホーバンがオルガンの担当になっている。改めてマーティン・ウェスト(サックス、クラリネット)、イアン・レルフ(トロンボーン)、トリシア・シェヴェナン(フルート)、クリス・ストック(オーボエ)をメンバーとして加入させ、アームストロング・スタジオでギル・マシューズをエンジニアに迎えて次なるアルバムの録音を開始。そこにはカリン・マックゲチー、スティーヴン・デュラント、ニア・マレーの3人のヴァイオリニスト、ローワン・トーマス(ヴィオラ)、サラ・グレニー(チェロ)のストリングセクションがゲストとして参加している。前作よりも多くのメンバーによるレコーディングが行われ、1976年末にセカンドアルバム『ファンタジー・オブ・ホーシーズ』がリリースされる。そのアルバムは前作とは違ってキング・クリムゾンの影響は抑えられており、よりクラシカルなシンフォニックロックとしてクオリティーの高い作品となっている。しかし、アルバムはリリースされたもののプレスした枚数は少なく、一部の限られたファン以外は特に知られぬままグループのメンバーはより流動的となり、最終的に数か月後の1977年の前半に解散している。メンバーのほとんどはクラシック界やジャズ界に流れていったが、中心人物だったジュリアン・ブラウニングは作曲家兼アレンジャーとなり、後の彼の代表曲と言えるのが、ボーナストラックの1996年に披露された『イカルス~交響曲第8番~』である。



 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は数あるオーストアリアのプログレッシヴロックの中でもシンフォニックロックの名盤とされているレインボー・シアターのデビューアルバム『無敵艦隊』を紹介しました。正直言ってこのアルバムは2020年にリマスター化された紙ジャケ盤で初めて聴いたもので、セカンドアルバム『ファンタジー・オブ・ホーシーズ』といっしょに手に入れました。はっきり言って両方とも名作です。本アルバムは勇壮なホーンセクションによるジャズ要素と溢れんばかりのメロトロンによるクラシカル要素、そしてテノール歌手によるオペラ風のヴォーカルがミックスされたシンフォニックロックとなっていて、スペインの無敵艦隊が敗北するアルマダの海戦をテーマにしています。個人的にはジュリアン・ブラウニング自身でも語っているように、キング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』、『ポセイドンのめざめ』、『リザード』あたりの影響が感じられて、小気味のいいエレクトリックベースやオルガン系のキーボード、何よりもダイナミックに打ち鳴らされるスネアロールは痺れます。ギターリフもロバート・フリップが従来のブルースベースとは異なった構成とパターンに対して、さらにブラウニング自身がユニークなコードを使用しているのも魅力的だと思います。ビッグバンド的な内容になっていますが、とにかくメロトロンやハモンドオルガンがきっちり役目を果たしており、スピーディーなアンサンブルと合わせて心地よい緊張感があります。『無敵艦隊』の曲内の『ボレロ』は、何となくキング・クリムゾンの『スターレス』を彷彿していて、沈没していく艦船の光景を見るような悲壮感がたまりません。このようなアルバムが少ないプレス枚数と小さなレーベルだったために長らく廃盤になっていたというのは驚きです。

 デビューアルバムとはいえ演奏水準は極めて高く、非常にオリジナリティーのある痛快なアルバムです。キング・クリムゾンやフランク・ザッパ、エスペラントあたりが好きな人にはオススメのアルバムです。また、セカンドアルバム『ファンタジー・オブ・ホーシーズ』は、プログレ要素をきっちり抑えた傑作となっているので、どこかで紹介したいな~と思ってます。
 
それではまたっ!