【今日の1枚】Bob Downes Open Music/Electric City | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Bob Downes Open Music/Electric City
ボブ・ダウンズ・オープン・ミュージック/エレクトリック・シティ
1970年リリース

華麗なブラスセクションをフル活用した
スリリングにして痛快なジャズロック

 サックス兼フルート奏者であるボブ・ダウンズが、英ヴァーティゴレーベルに唯一残したアルバム。そのサウンドは総勢17人の英国ジャズロックシーンを彩る名プレイヤーたちが参加したビッグバンドジャズになっており、ロック的なダイナミズムにあふれるリズム上で、名プレイヤーたちによるフレーズが交差して火花散るアグレッシヴな内容となっている。1970年初頭の百花繚乱のロックシーンにおいて、ここまで派手なブラスセクションによるアヴァンギャルドな作風は異彩を放っており、数あるブリティッシュジャズロックの中でも屈指の傑作となっている。

 ボブ・ダウンズ・オープン・ミュージックの中心メンバーであるボブ・ダウンズ(ロバート・ジョージ・ダウンズ)は、イングランドのデヴォン州にある港湾都市プリマスの出身である。10代のうちにジャズ音楽に目覚めてサックスを学び、後にフルートも習得している。彼は学業を終えた後にロンドンに移り、セントマーティンズレーンのガリックヤードにあるオールドプレイスとリトルシアタークラブで定期的に演奏していたジャズピアニスト、マイク・ウェストブルックと出会っている。マイク・ウェストブルックは英国ジャズの発展に尽くした中心的人物であり、ダウンズはウエストブルックと共にセッションミュージシャンとして活動をすることになる。ロニー・スコットのジャズクラブで様々なジャズミュージシャンと共演し、クリス・マクレガーやジョン・バリーといったミュージシャンとも共演。後に1968年にウエストブルックはマイク・ウェストブルック・コンサート・バンドを結成し、マルコム・グリフィスやアラン・ジャクソン、ハリー・ミラー、マイク・オズボーン、ジョン・サーマンらと共に、モントルーフェスティバルで国際デビューを果たすことになる。一方、ボブ・ダウンズはジャズをプレイする傍ら、1960年代から勃興していたロックやブルースに興味を持ち、自身のグループを作ることを模索していたという。ダウンズはダイナミックなブリティッシュジャズとロックの融合を試み、自由で開放感のある音を生み出す考えから、1968年にオープンミュージックを結成。発表当時のメンバーはボブ・ダウンズ(サックス、フルート)、クリス・スペッディング(ギター)、ハリー・ミラー(コントラバス)、デニス・スミス(ドラムス)、ジョン・スティーヴンス(ドラムス)という編成で、1969年にフィリップス・レコードよりファーストアルバムである『オープン・ミュージック』をリリース。事実上、ボブ・ダウンズのソロ作第一弾であり、繊細なフルートの音色を中心としたクラシックの調和感を否定するような現代音楽らしい即興タイプのインストゥメンタル作品となっている。1960年代後半から1970年代にかけて英国でジャズが流行したことで、ジャズミュージシャンがロックの世界にも引く手あまたとなり、ボブ・ダウンズもポップシンガーのクリス・アンドリュースやマンフレッド・マンズ・アース・バンド、ジミー・ニコル・バンドといったグループに参加している。ダウンズは1970年にMFPレーベルからソロ名義の『ディープ・ダウン・ヘヴィ』、自主レーベルであるOpennianより『Episode at 4 Am』をリリースしており、それと同時並行して作られたのが、1970年にヴァーティゴレーベルからリリースした本アルバム『エレクトリック・シティ』である。オープン・ミュージックのセカンドにあたる本アルバムは、クリス・スペッティング、レイ・ラッセル、イアン・カー、ハロルド・ペケット、マイク・ウエストブルックなど、総勢17人による英ジャズロックシーンを彩る名プレイヤーが参加した痛快な作品となっている。

★曲目★
01.No Time Like The Present(ノー・タイム・ライク・ザ・プレゼント)
02.Keep Off The Glass(キープ・オフ・ザ・グラス)
03.Don't Let Tomorrow Get You Down(ドント・レット・トゥモロウ・ゲット・ユー・ダウン)
04.Dawn Until Dawn(ダウン・アンティル・ダウン)
05.Go Find Me(ゴー・ファインド・ミー)
06.Walking On(ウォーキング・オン)
07.Crush Hour(クラッシュ・ハウア)
08.West II(ウエストⅡ)
09.In Your Eyes(イン・ユア・アイズ)
10.Picadilly Circles(ピカデリー・サークルズ)
11.Gonna Take A Journey(ゴナ・テイク・ア・ジャーニー)

 アルバムの1曲目の『ノー・タイム・ライク・ザ・プレゼント』は、まさにロックのリズムにノイジーなギター・サウンド、そして高らかなホーンセクションが炸裂するジャズロック。ボブ・ダウンズによるクールなヴォーカルに、後半のアヴァンギャルドなサックスが痛快である。2曲目の『キープ・オブ・ザ・グラス』は、ホーンセクションとギターによる軽快なインストゥメンタル曲。手数の多い堅実なドラミングと大胆なベースラインが特筆ものだが、ボブ・ダウンズの粋なフルートの演奏が素晴らしい。3曲目の『ドント・レット・トゥモロウ・ゲット・ユー・ダウン』は、独特なリズムとギターによるファンクっぽいノリのロック。ブルージーな進行ながらドライで垢抜けた楽曲となっており、後のニューウェーヴにも通じる面白い内容になっている。4曲目の『ダウン・アンティル・ダウン』は、ホーンセクションをフィーチャーした王道のジャズロックになっており、今度はサックスに持ち替えたボブ・ダウンズの即興的な名演が堪能できる。5曲目の『ゴー・ファインド・ミー』は、ファンク要素のあるブルージーなジャズロック。ワイルドなコード・カッティングのギターと曲を盛り上げるホーンセクションが熱気あふれるサウンドを作り出している。6曲目の『ウォーキング・オン』は、ブギの要素をはらんだロックになっており、単純なリズム上でサックスやギターが暴れまわるサウンドになっている。ファンクやブギといった多彩なジャンルをものともしない演奏技術はジャズ出身のミュージシャンならではである。7曲目の『クラッシュ・ハウア』は、繊細なドラミング上でホーンセクションを含む洗練されたジャズロックを披露している。とにかくギターとサックスが火花を散らすように交差するシーンは圧巻である。8曲目の『ウエストⅡ』は、打って変わってカリブを思わせるダンスミュージック。演奏は見事というべきだが、スチールドラムがないのがやや惜しくもある。9曲目の『イン・ユア・アイズ』は、フルートを中心としたリリカルなアンサンブルから、コロシアム風の骨太な演奏が印象的なジャズロック。10曲目の『ピカデリー・サークルズ』は、ハードなドラミングソロを交えた即興的なジャズロック。腰の入ったリズム・セクションの上で豪華なブラスセクションが心地よく、無造作ながらヴルーヴィーな演奏になっている。11曲目の『ゴナ・テイク・ア・ジャーニー』は、アルバム中で唯一7分を越す大曲。最後になって初めてフリージャズ的な展開を見せている。フリージャズとロックの融合というべきだが、後半では集団的な即興から一体となっていく怪作となっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ロックやジャズだけではなく、ブルース、ファンク、ブギ、ダンスミュージックなどの要素が渾然一体となって披露されていることが分かる。様々なジャンルとの融合は他のグループでも盛んに行われていたが、ジャズ出身のミュージシャンだけでここまで大胆に創造しているのはある意味個性的ですらある。本アルバムがロックのファンからジャズロックの世界へ踏み入れる最初の1枚として紹介されることが多いのも、今となってうなづけてしまう1枚である。

 本アルバムは当時のジャズロック出身のミュージシャンが多数参加したアルバムということで評判となり、またボブ・ダウンズの数ある作品の中でも傑作として名高い。ボブ・ダウンズはアヴァンギャルドなサックス兼フルート奏者として有名となり、後にレイ・ラッセルのワークショップや歌手であるエルケ・ブルックス、アレックス・ハーヴィー、ジュリー・ドリスコルと共演している。また1970年代ではバリー・ガイのロンドンジャズコンポーザーオーケストラのメンバーとなり、マイク・ウェストブルック・バンドやキース・ティペット・バンドとも共演するなど、様々な作品に参加することになる。ダウンズは作曲家としても数々の作品を世に出しており、ロイヤルバレエを皮切りに様々なモダンダンスの作曲を行い、ジャンルにこだわらない総合芸術家的な色彩を持つマルチアーティストとして活躍する。1970年代後半にはドイツに移住し、ソロフルートの即興演奏を収録したアルバムをリリース。現在では自身のレーベルであるOpenianから定期的にアルバムをリリースしており、最近ではバリー・ガイ(ベース)、デニス・スミス(ドラムス)のトリオグループとして、2018年リリースの『A Blast... From The Past』で健在ぶりをアピールしている。2022年現在、御年85歳である。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアヴァンギャルドなサックス兼フルート奏者であるボブ・ダウンズを中心とした痛快なジャズロックグループ、オープン・ミュージックの『エレクトリック・シティ』を紹介しました。近未来を予感させるアルバムジャケットが秀逸ですね。このアルバムは10年ほど前にカンタベリーミュージックを聴いていた流れから出会ったものです。ディヴ・スチュワート率いるカンタベリー系のグループであるエッグのアルバム『Polite Force』にも名を連ねていて、そこでボブ・ダウンズの名を知りました。アルバムの内容は当時のジャズロック出身のミュージシャンが参加しているのが大きなポイントになっていますが、ジャンルにこだわらないボブ・ダウンズだからこそ可能な個性的なサウンドになっていると思います。ボブ・ダウンズの粘っこいヴォーカルも個性的ですが、特にブルースやファンク、ブギ、ダンスミュージックなど、ジャズ特有の即興性を保ちつつ、その上でロックの疾走感や躍動感を強めているのが凄いです。個々のミュージシャンの腕前も素晴らしく、強固なリズムセクション上で名プレイヤーたちによる火花散るアグレッシヴな演奏がたまりません。ロックの要素が多分にあるので、ロックファンが最初に聴くジャズロックの入門としては打ってつけな作品だと思います。

 セッションマンとして見かける名プレイヤーばかりのグループなので、ジャズ畑で培ってきた演奏面やセンスはさすがと言わざるを得ません。エレクトリックに向かうジャズミュージシャンの実験性が垣間見えるクールな作品です。ぜひ、一度堪能してみてくださいませ。

それではまたっ!