【今日の1枚】Beggars Opera/Pathfinder(宇宙の探訪者) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Beggars Opera/Pathfinder
ベガーズ・オペラ/宇宙の探訪者
1972年リリース

クラシカルなアプローチの中に奇抜さと
キャッチーなメロディが渾然一体となった傑作

 「三文オペラ」という親しみやすいグループ名で独自のプログレッシヴなサウンドを創生するスコットランド出身のグループ、ベガーズ・オペラのサードアルバム。そのアルバムは端正な響きのハモンドオルガンやピアノ、ハープシコードを中心としたクラシカルなアプローチの中で、技巧的なギター、躍動感のあるドラミング、格調高いヴォーカルとハーモニーといった抜群のメロディセンスに満ちあふれた彼らの最高傑作となった1枚である。アルバムジャケットは異彩ともいえる見開き6面の変形ジャケットになっており、英ヴァーティゴレーベルの中でもとりわけ人気の高い作品となっている。

 ベガーズ・オペラは、1969年にイギリスのスコットランドにあるグラスゴーで結成されたグループである。当初はリッキー・ガードナー(ギター)、マーティン・グリフィス(リードヴォーカル)、マーシャル・アースキン(ベース、フルート)の3人がザ・システムというグループ名で活動していたという。彼らはグラスゴーの地から大都市ロンドンに出て、小さなクラブやバーでトラディショナルな音楽を演奏していたが、当時ブームとなっていたプログレッシヴロックを目の当たりにして急遽グラスゴーに帰郷。3人はもっと厚みのあるサウンドを実現するために、グラスゴーでドラマーであるレイモンド・ウィルソンとキーボーディストのアラン・パークをメンバーに加えた5人編成に変えている。彼らはクラシカルでありながら素朴な音楽を目指すべく、18世紀の劇作家ジョン・ゲイのペンによって作られた3幕のバラッド・オペラ「三文オペラ」にちなんだ、ベガーズ・オペラというグループ名で活動を開始する。彼らはグラスゴーにあるウェストリージェントストリートにあるバーンズハウフクラブに滞在しながら、リハーサルを行いつつステージをこなしたという。1970年にヴァーティゴレーベルと契約をした彼らは、デビューアルバムとなる『アクト・ワン』をリリース。フランツ・フォン・スッペが作曲したクラシックを中心に、ベートーベンの『トルコ行進曲』やバッハの『トッカータとフーガ』などを大胆に取り入れた楽曲群と、キーフが手掛けた秀逸なジャケットデザインも相まって高い評価を得たアルバムとなっている。デビューアルバムリリース直後にはシングル盤として『Sarabande』を発売し、そのオルガンを中心に宮廷音楽風にリズムチェンジしたユニークなサウンドが人気を呼び、ヨーロッパ各地でチャートを賑わしたという。機運に乗った彼らは、キーボード兼ヴォーカリストのヴァージニア・スコットという女性ミュージシャンを起用し、次のアルバムのレコーディングを開始する。しかし、レコーディング前にベーシストのマーシャル・アースキンが脱退。代わりにゴードン・セラーが加入するメンバーチェンジがあったものの、同年の1971年にセカンドアルバム『ウォーター・オブ・チェンジ』をリリースする。アルバムは前作にあった大胆なクラシカル要素は減ったものの、メロトロンを効果的に使用したポップでキャッチーなメロディにあふれた作品として高評価を得ている。後にシングル盤としてリリースした『タイムマシン』が商業的に成功したことにより、彼らはドイツを中心としたヨーロッパツアーを実現している。ツアーの後、ヴァージニア・スコットが脱退し、5人のメンバーとなった彼らは早速次のアルバムのレコーディングを開始する。そして1972年に、前作以上にクラシカルなアプローチの中でより洗練されたポップなメロディが散りばめられたサードアルバム『宇宙の探訪者』がリリースされる。

★曲目★
01.Hobo(放浪者)
02.Macarthur Park(マッカーサー・パーク)
03.The Witch(魔法使い)
04.Pathfinder(宇宙の探訪者)
05.From Shark To Haggis(シャーク)
06.Stretcher(ストレッチャー)
07.Madame Doubtfire(マダム・ダウトファイア)

 アルバムの1曲目の『放浪者』は、キーボード奏者であるアラン・パークが作曲したもので、彼が奏でるアコースティックピアノとマーティン・グリフィスの朗々たるヴォーカルを前面に押し出したクラシカルな曲。ノスタルジックなブリティッシュロックのイメージを持ってしまうが、曲の中のオルガンやギター、リズムのバランスが程よく、軽妙にポップアレンジされた彼らのセンスの高さがうかがえる楽曲になっている。2曲目の『マッカーサー・パーク』は、アメリカのシンガーソングライターであるジミー・ウェッブの曲を1968年にアイルランド出身の俳優であるリチャード・ハリスが歌ったことで一躍有名になった曲。元々、複数の楽章からなる長い曲をベガーズ・オペラがロックアレンジを施したものにしている。ハープシコードやピアノをメインにクラシックとロックを見事に融合したドラマティックな楽曲になっており、何よりもマーティン・グリフィスのロマンティックあふれるヴォーカルが素晴らしい。3曲目の『魔法使い』は、エッジの効いたリッキー・ガードナーのギターとアラン・パークのオルガンワークが印象的なハードロックナンバー。時折叫び声が発せられるが、安定した演奏とハーモニーが光った内容になっている。4曲目の『宇宙の探訪者』は、オルガンとワウワウのギターが追随する展開が小気味良いブルージーなタイトル曲。リズミカルなバックと裏腹にヴォーカルは哀愁を帯びていて、ジャケットの荒馬にまたがる宇宙飛行士という滑稽なイメージをそのまま楽曲にしたような感じさえある。5曲目の『シャーク』は、スコットランドの伝統料理であるハギスをモチーフにした楽曲。前半はゆったりとしたムーディーな展開で進み、後半ではスコットランドやアイルランドのフォークダンスであるジグをメインにした躍動感あふれる楽曲に変貌する。6曲目の『ストレッチャー』は、リリカルでピアノソロから始まるシンフォニックスタイルのインストゥメンタル曲。抒情的なギターと流麗なピアノが重なった時、この上ないメロディアスなアンサンブルとなっている。7曲目の『マダム・ダウトファイア』は、独特なリズム上で歌うマーティン・グリフィスのヴォーカルが冴えた曲。アラン・パークのハープシコードが古典的なイメージを誘いつつも後半の縦横無尽に弾く混沌としたオルガンの奇抜さが進歩的なプログレッシヴ感を出しているようである。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ブリティッシュロックの正統性を継承しているものの、非常にバラエティーに富んだユニークなポップミュージックを提示している。端正なキーボードワークの中でひねりのある楽曲が多く、即席に終わらないクラシカルな味付けが良い効果を生み出している。しかし、演奏自体にどこか土着感があるのは、彼らがスコットランド出身であることが大きいのだろう。

 アルバムは高評価だったにも関わらず、商業的にあまり結びつかなかったという。そんな折、初期メンバーだったヴォーカリストのマーティン・グリフィスが脱退。代わりにリニー・パターソンが加入し、翌年の1973年に4枚目となるアルバム『ゲット・ユア・ドッグ・オフ・ミー』をリリースしている。しかし、ヴォーカリストが変わったためかプログレッシヴな要素は無くなり、これまでのベガーズ・オペラの楽曲から遠ざかった内容になっている。しかし、シングルとしてリリースした『クラシカル・ガス』が小ヒットしたのを受け、低評価しかもらえないイギリスに見切りをつけて、ヨーロッパで一番支持を集めていたドイツに渡ることになる。以降、ドイツを拠点に活動を続け、ドイツのジュピター・レーベルから1974年に『サジタリー』、1979年には『ベガーズ・キャント・ビー・チューザーズ』をリリースしている。『サジタリー』のアルバムリリース後にキーボード奏者のアラン・パークが脱退し、かつてのヴァージニア・スコットを復帰させて活動を続けたが、ギタリストのリッキー・ガードナーが、デヴィッド・ボウイの『Low』やイギー・ポップの『Lust For Life』に参加するなど、すでにバラバラの状態であったという。そのため、1980年にベーシストのゴードン・セラーを中心としたベガーズ・オペラ名義のアルバム『ライフライン』を最後に活動を休止している。その後、しばらく音沙汰がないまま時は過ぎたが、1996年にゴードン・セラー(ベース)、アラン・パーク(キーボード)を中心に新たなメンバーでベガーズ・オペラを再結成し、アルバム『The Final Curtain』をリリース。単発で終わってしまったが、本来このアルバムに参加するはずだったギタリストのリッキー・ガードナーは病気療養中だったという。後にガードナーは病気を克服し、今度は息子であるトム・ガードナー、そして彼の妻となっているキーボード奏者のヴァージニア・スコットと共に新生ベガーズ・オペラを結成し、2007年に自主レーベルからアルバム『Close To My Heart』をリリース。そのアルバムはギターとキーボードによるアンビエントな楽曲となっており、2012年まで計7枚を発表している。



 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はクラシカルな作風でありながら、ユニークなポップサウンドが魅力のベガーズ・オペラのサードアルバム『宇宙の探訪者』を紹介しました。前回、『アクト・ワン』の紹介からベガーズ・オペラの作品では2枚目になります。このアルバムはドイツの輸入盤CDが最初で『アクト・ワン』と『ウォーター・オブ・チェンジ』と共に入手していたのですが、2003年にユニバーサルミュージックからリリースされた限定紙ジャケを買ったとき、その見開き6面変形ジャケットが見事に再現されていて感動したものです。これ、レコードの場合、A1かB1ポスター並みのサイズになりますよね。荒馬にまたがる宇宙飛行士という、一見滑稽ともいえるアルバムジャケットがとても目を引きます。ジャケットのイラストはピーター・グッドフェローが手掛けたものらしく、SF作家のアーサー・C・クラークの『白鹿亭綺譚』をはじめ、フィリップ・K・ディックやレイ・ブラッドベリ、オラフ・ステープルドンといった作家の本のカバーイラストレーターとしても有名です。アルバムジャケットはこのベガーズ・オペラの『宇宙の探訪者』が初めてだったらしく、後にマンフレッド・マンズ・アース・バンドの『Messin’』やユーライア・ヒープの『Head First』なども手掛けることになります。

 さて、本アルバムはデビューアルバムにあった大胆なクラシックの導入こそ無くなりましたが、代わりにスコットランドのフォークダンスであるジグを導入していたり、ギターやオルガンの独特な奏法があったりと、どこかトラディショナルなイメージが強くなっています。プログレ感は薄まっていますが、クラシカルな要素を普遍的なものとし、ブリティッシュロックの精神性を継承しつつ新種のポップサウンドにした感じがします。あざといと思いつつも本アルバムでハープシコードの音色はやはり美しい楽器だなあと改めて思った次第です。かつて18世紀当時に貴族の娯楽だったバロック・オペラに対抗する形で庶民の心意気を活き活きと描いた「三文オペラ」のように、高尚なクラシックをまさにユニークなポップミュージックに変えたベガーズ・オペラの名前に恥じないセンスにあふれた作品だと思います。

 ベガーズ・オペラは個人的には、『アクト・ワン』、『ウォーター・オブ・チェンジ』、そして本アルバムの『宇宙の探訪者』の初期の3作がオススメです。デビューアルバムから本作まで、だんだん楽曲が洗練されていく過程が楽しめます。

それではまたっ!