【今日の1枚】Celeste/Celeste(チェレステ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Celeste/Celeste
チェレステ/チェレステ
1976年リリース

静けさの中に激しさを内包した美旋律が心に響く
アコースティカルシンフォニック

 わずかな作品を残して消えてしまったgrogレーベルから唯一のアルバムをリリースした、イタリアンシンフォニックグループ、チェレステのデビュー作。そのサウンドはピアノやギターなどのアコースティックな楽器群とメロトロンによる美旋律に重きを置いた作りになっており、静かで穏やかな演奏ながらも、彼らの情熱的ともいえる起伏が感じられる楽曲になっている。派手さや鮮烈さは無いものの、その分静けさの中から突如として現れては消える激しさを内包した哀愁のメロディが生々しく、バロック期から続くイタリアならではの伝統と気質が感じ取れた名盤である。

 チェレステはイタリアの西側に位置するイグーリア州の港湾都市サンレモで結成されたグループである。このサンレモという都市は、1951年から続くイタリアの様々なポピュラー音楽やアーティストを輩出し、多くの外国アーティストも参加する世界的な音楽祭があることで有名である。チェレステは元々、1969年から1971にかけて活動していたIl Sistema(イル・システマ)というグループが母体となっている。メンバーはエンツォ・メログノ(ギター、ヴォーカル)、レオナルド・ラゴリオ(フルート、サックス、エレクトリックピアノ)、フロリアーノ・ロジェロ(オルガン)、ルチアーノ・カバンナ(ベース、ヴォーカル)、チロ・ペリーノ(ドラムス、パーカッション、フルート、ヴォーカル)の5人編成である。このイル・システマは1970年代初期のグループに多かったハモンドオルガンを駆使したクラシカルな音楽性とサイケデリック色の強いプログレッシヴな感性を持ち合わせたグループであり、ムソルグスキーの『はげ山の一夜』をモチーフにした楽曲もあったという。イル・システマはイタリア国内で多くのライヴを行ったり、スタジオでレコーディングを行ったりと活動の幅を広げてきたが、アルバムのレコーディング途中でメンバーの分裂騒動が起こり、1971年に解散している。このイル・システマが録音したと思われるスタジオテイクのいくつかの曲は、後に発掘されて1990年代にCD化されている。

 分裂騒動に発展したイル・システマのメンバーだったエンツォ・メログノとレオナルド・ラゴリオは、1971年に同じサンレモ出身のカヴァーグループであるラ・キンタ・ストラーダのメンバーといっしょにイタリアンプログレの傑作『ツァラトゥストラ組曲』を生み出したムゼオ・ローゼンバッハというグループを結成する。しかし、アルバムのレコーディング前にレオナルド・ラゴリオが脱退し、1972年にイル・システマのドラマーだったチロ・ペリーノと組んで結成したのがチェレステである。メンバーはレオナルド・ラゴリオ(キーボード、フルート、サックス)、チロ・ペリーノ(ドラム、パーカッション、フルート、キーボード、ヴォーカル)、マリアーノ・スキアヴォリーニ(ギター、バイオリン)、ジョルジョ・バッタリア(ベース)の4人編成となっており、チェレステはシンフォニックな音楽性を追求したムゼオ・ローゼンバッハとは違い、アコースティックの楽器を中心とした繊細な演奏を追求するために結成されたという。彼らは地元のサンレモでライヴ活動を行いつつ、スタジオでリハーサルやレコーディングを繰り返し、アルバムのリリースに向けて準備を整えていたという。しかし、なかなかレコード会社が決まらず、結成から4年の月日が経った1976年に、イタリアのFonit Cetra傘下のレーベルとして発足したgrogレーベルと契約。デビューアルバムとなる『Celeste(Principe di un Giormo)』がリリースされる。このアルバムのマテリアルは1973年頃に作曲、1974年頃にレコーディングされたものを使用しているが、アコースティックギター、フルート、ヴァイオリン、そしてメロトロンを中心とした牧歌的で哀感を湛えた秀逸なメロディにあふれたイタリアンプログレの傑作となっている。

★曲目★
01.Principe Di Un Giorno(在りし日の王子)
02.Favole Antiche(古代の寓話)
03.Eftus(エフトゥス)
04.Giovhi Nella Notte(夜の戯れ)
05.La Grande Isola(大いなる島影)
06.La Danza Del Fato(運命の舞)
07.L'imbroglio(詐欺)

 アルバムの1曲目の『在りし日の王子』は、優しいメロトロンの音色をバックに、ヴァイオリンやアコースティックギター、ピアノ、フルートのアンサンブルからなる芳醇なヴォーカル曲。パーカッションを抑えているためか、1つ1つの楽器の音色が際立っており、後半のムーディーなサックスのソロを湛えたメロトロンの響きが素晴らしい。この1曲でメロトロンとアコースティックな楽器を融合したチェレステの音楽性と方向性が感じ取れる楽曲になっていることが良く分かる。2曲目の『古代の寓話』は、スペイシーなキーボードからキング・クリムゾン風の重厚なメロトロンのオープニングから、繊細なアコースティックギターとフルートをバックにした美しいヴォーカル曲。途中でリリカルなエレクトリックピアノとフルート、そしてアコースティックギターの爪弾きによる静かな楽曲が続き、後に讃美歌のような崇高なオルガンになり、再びアコースティックギターの爪弾きやフルート、ピアノのソロを中心とした曲になるなど、静と動が揺らぐような曲構成を持ったプログレッシヴ性のある楽曲である。3曲目の『エフトゥス』は、アコースティックギターとフルートのアンサンブルが美しいヴォーカル曲になっており、こちらも途中からメロトロンがフィーチャーされ、荘厳な雰囲気にさせてくれる。優しく包むようなフルートの音色が心地よく、その静かで哀愁のあるメロディは聴く者に感動を与える。4曲目の『夜の戯れ』は、アコースティックギター上で跳ねるようなピアノの音色が印象的なイントロから、端正なフルートと重厚なメロトロンの音色、そしてピアノ、サックスのソロが続くなど、キング・クリムゾンの『アイランズ』を彷彿とさせる曲。こちらは流麗なピアノのソロを大きくフィーチャーしており、全体的にクラシカルな内容に徹している。5曲目の『大いなる島影』は、静寂なアコースティックギターとピアノの調べから、パーカッションと合わせて力強く鳴り響くメロトロンなど、起伏が激しい曲構成となっている。後半はメロトロン大きくフィーチャーした壮大なシンフォニーを聴かせてくれる。6曲目の『運命の舞』は、鈴の音から強めのベース音と静かなアコースティックギターをバックに、エレクトリックピアノとフルートによるアンサンブルが素晴らしい楽曲。フルートの音色が非常に牧歌的であり、イタリアらしい哀愁のあるメロディに包まれた内容になっている。7曲目の『詐欺』は、1分ほどの短い曲だが、パーカッションとフルートによる激しさとアコースティックギターによる静けさを対比した内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、全体的に穏やかな旋律が流れているばかりだが、個々の楽器による起伏がしっかりと表現されており、ヴォーカルですら楽器の一部と思うような感覚に陥ってしまうほど質感に優れた内容になっていると思う。繊細なアコースティックギターと端正な響きを持つフルートとピアノが目立っているが、やはりここぞとばかり使われるメロトロンが、アコースティックな楽器と融合して音の厚みと壮大さを生み出している。決して派手な曲展開は無いものの、1音1音が丁寧に奏でられているところが、何となくイタリアならではの職人気質が感じられる。

 アルバムリリース後に、チェレステはセカンドアルバムのレコーディングを開始するが、デビューアルバムのセールスが芳しくなかったことに対するメンバーの不満とそれに伴う音楽性の不一致が原因で1977年に解散している。さらに所属していたgrogレーベルがイタリアの社会情勢のあおりで消滅してしまったため、本アルバムは廃盤となってしまい、長い間プレミア化が続くことになる。そんな中、10年以上経った1991年にMellow Recordsから、セカンドアルバムとしてリリースする予定だった『Celeste Ⅱ』(CD盤は『Second Plus)が突然発表される。内容はサックス奏者のレオナルド・ラゴリオをメインとしたプログレッシヴなジャズロックになっており、インプロゼーションの多い楽曲になっている。また、チェレステが1974年に録音した映画用のサウンドトラック『I suoni in una Sfera』も合わせてリリースされ、ボーナストラックにはファーストアルバムの曲をアレンジしたものを収録している。解散から30年近く経った2019年には、ドラマーのチロ・ペリーノがチェレステを再結成し、多くのゲストミュージシャンを招いたアルバム『IL RISVEGLIO PRINCIPE(王子の目覚め)』をリリース。メロトロンやサックス、フルート、効果音などを駆使しており、デビュー盤に肉薄する叙情性を湛えた素晴らしいアルバムになっている。また、2021年には前作に続くアルバム『Il Principe Del Regno Perduto』をリリースしており、その健在ぶりをアピールしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はメロトロン好きのファンの中でも特に人気の高いイタリアのプログレッシヴグループ、チェレステのデビューアルバムを紹介しました。このアルバムは1990年代にヨーロピアン・ロック・コレクションのCD盤を持っていましたが、後に紙ジャケで入手しました。リマスター化されたからか、その繊細なアコースティックギターとフルートの音色がクリアで、さらにリード楽器として使用するメロトロンの音色の奥行きと幅広さに驚いたものでした。全体的に静けさを湛えた楽曲がメインですが、素朴な手法による音作りであるにも関わらず、1音1音がダイレクトに響いてくるアルバムはそうそう無いと思います。メロトロンを追って聴いてみると、キング・クリムゾンを思わせるフレーズが随所にあって、初期のイギリスのプログレッシヴロックをかなり意識したフレーズもあります。アコースティック楽器とメロトロンを融合したサウンドは他のグループにも多くありますが、チェレステの場合は、音の輪郭というか厚みが感じられるのが決定的な違いだと個人的に思っています。

 さて、一旦はお蔵入りしたチェレステのセカンドアルバムですが、1991年に突然リリースされたことを先に述べました。実はメンバーだったドラマーのチロ・ペリーノが大きく関連します。チロ・ペリーノは1977年にグループが解散した後、ベーシストのジョルジョ・バッタリアと一緒にLA COMPAGNIA DIGITALEというグループを結成し、その後、SNSというグループで活動した後にソロアルバムをリリースしたそうです。その後、1991年にマウリオ・モローニと組んでMellow Recordを設立します。チェレステのセカンドアルバムが突然リリースされることになったのは、Mellow Recordの創始者であるチロ・ペリーノの影響があったのではないかというのが定説となっています。とはいえ、埋もれるはずだったセカンドアルバムがこうして陽の目に当たるようになったことは嬉しい限りです。

 チェレステの奏でるアコースティックな楽器による美旋律と、リード楽器として使われたメロトロンの音色は酔いしれること間違いなしです。ぜひ、この機会にその心に響くメロディを堪能してほしいです。

それではまたっ!