【今日の1枚】American Tears/Tear Gas | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

American Tears/Tear Gas
アメリカン・ティアーズ/ティアー・ガス
1975年リリース

稀代のメロディーメイカーである
マーク・マンゴールド率いるキーボードトリオ

 アメリカのキース・エマーソンと呼ばれ、現在でも活動を続けるマルチキーボーディスト、マーク・マンゴールド率いるアメリカン・ティアーズのセカンドアルバム。ファーストアルバムはポップ色の強い内容だったが、本アルバムからマーク・マンゴールドのキーボードをメインとする音作りに変わり、ピアノやシンセサイザー、ハモンドオルガンなどの各種キーボードを用いたメロディアスなプログレッシヴロックとなっている。神秘的なキーボードの響きからハードに展開する緩急の効いた曲構成は、後のアメリカン・プログレッシヴハードロックの最初の完成形を示したともいえる傑作である。

 アメリカン・ティアーズの中心人物であるマーク・マンゴールドは、アメリカのフロリダ州マイアミで生まれている。後にニューヨーク州ロングアイランドで育った彼は、8歳のころにハモンドオルガンを弾き始め、10代後半にはユーフォリアというグループを結成して本格的に音楽活動を開始している。ユーフォリアというグループのメンバーは、ヴォーカル&パーカッションのボブ・ハリング、ベース兼ギタリストのドン・クランツ、ドラムのエディ・リビングストン、ベース兼ギタリスト、ヴォーカルのリック・アンブローズ、そしてキーボードのマーク・マンゴールドの5人である。やがて1969年にユーフォリアからヴァルハラとグループ名に変えてユナイテッド・アーティスツと契約し、デビューアルバムである『Valhalla(ヴァルハラ)』をリリースしている。ヴァルハラの音楽性はイギリスのディープ・パープルやユーライア・ヒープといったオルガンハードロックを標榜した良作だったが、たった1枚のアルバムを残して解散してしまう。この時、マーク・マンゴールドはイギリスで席巻していたプログレッシヴロックに注目し、中でもエマーソン・レイク&パーマーの天才キーボーディスト、キース・エマーソンのパフォーマンスに憧れていたという。エマーソン・レイク&パーマーのようにキーボード中心のグループを目指すべく、後にニューヨークで活動していたベーシストのゲイリー・ソニー、ドラムのトミー・ガンと組んで、トリオグループであるアメリカン・ティアーズを結成。後に1974年にコロムビアと契約してデビューアルバム『Branded Bad』を発表している。そのアルバムはギターレスのトリオ編成はまさしくエマーソン・レイク&パーマーを思い起させるが、かなりポップに寄せた音楽性となっている。アルバム発表後にドラマーだったゲイリー・ソニーが脱退し、代わりにグレッグ・ベイスが加入。この新しい編成で次のアルバムのレコーディングを行い、1975年にセカンドアルバム『Tears Gas』がリリースされる。アルバムは1曲を除いてすべて作曲をしたというマーク・マンゴールドのマルチキーボーディストぶりが発揮された内容になっており、彼の饒舌なキーボードプレイをはじめ、ポップ感覚あふれるヴォーカル、キャッチーなメロディが随所にあり、後のアメリカン・プログレッシヴハードロックを牽引したアルバムとなっている。
 
★曲目★
01.Back Like Me~PartⅠ&Ⅱ~(バック・ライク・ミー~パートⅠ&Ⅱ~)
02.Charon(シャロン)
03.Serious Blue Boy~Sail On~(シリアス・ブルー・ボーイ~セイル・オン~)
04.Tear Gas(ティアー・ガス)
05.I Saw A Soldier(アイ・ソウ・ア・ソルジャー)
06.The War Lover(ザ・ウォー・ラヴァー)
07.Franki And The Midget(フランキー・アンド・ザ・ミジェット)

 アルバムの1曲目の『バック・ライク・ミー~パートⅠ&Ⅱ~』は、2部構成の9分に及ぶ大作であり、マーク・マンゴールドのキーボードを象徴した楽曲になっている。最初はタイトなオルガンやシンセサイザーを駆使したロックンロールから始まるが、4分過ぎから非常にメランコリックなピアノやハモンドオルガンをベースにした美しいバラード曲に変貌する。各種キーボードもその楽曲の雰囲気に合わせて使い分けるマーク・マンゴールドのアレンジセンスが光っており、時にグルーヴィーに、またはスペイシーに、そしてハードに盛り上げている。2曲目の『シャロン』は、アルバムの中でもひと際ハードに展開するストレートなロックナンバー。華やかなキーボードをメインに力強いドラミング、跳ねるベースなど、ドライヴ感あふれる非常にノリの良い楽曲になっている。3曲目の『シリアス・ブルー・ボーイ~セイル・オン~』は、8分という大曲になっており、神秘的で荘厳なキーボードの響きから始まり、次第にハードに展開していくプログレッシヴな側面を持った楽曲になっている。タイトなリズムの中で流麗なベースライン、緩急のあるキーボードによる曲展開は初期のカンサスを彷彿とさせる。4曲目の『ティアー・ガス』は、スペイシーなシンセサイザーとハモンドオルガンから始まり、スピーディーで浮遊感のあるパートとドラマティックなパートが交差する聴きごたえのあるナンバーである。5曲目の『アイ・ソウ・ア・ソルジャー』は、抒情的なピアノをペースにした美しいメロディ曲であり、1960年代のブリティッシュロックを思わせるオルガンソロ、最後にはメロトロンと思われる音色で盛り上げている。マーク・マンゴールドのメロディーメイカーたるセンスが表れた1曲である。6曲目の『ザ・ウォー・ラヴァー』は、ヘヴィなリズムによるハードロックになっており、マーク・マンゴールドの独特ともいえるキーボードのソロが堪能である。この曲のみ、3人が共作した楽曲になっており、彼らの忌憚ない演奏が繰り広げられた内容になっている。最後の7曲目の『フランキー・アンド・ザ・ミジェット』は、ライトタッチのポップソングになっており、キャッチーなメロディーが全編にあふれた楽曲。ここではマーク・マンゴールドのポップテイストなヴォーカルを聴くことができる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作のアルバムにあったメロディーセンスをそのままに、よりマーク・マンゴールドのキーボードを主軸としたプログレッシヴな感性を組み入れた内容になっていると思える。それでもアメリカらしい爽快さとメロディは抜群で、曲の雰囲気によって様々なキーボードを使い分けるマークのアレンジセンスは素晴らしい。後のタッチやドライヴ、シー・セッドといったグループで追求し続ける彼のメロディックなハードロックの完成形がすでに本アルバムで確立されているといえる。

 アルバム発表後、マーク・マンゴールド以外のメンバーが総入れ替えとなり、ベーシストにカーク・パワーズ、ドラマーにグレン・キーカット、そしてギター兼ヴォーカルのクレイグ・ブルックスが加入する。1977年にリリースした通算3枚目となるアルバム『パワーハウス』は、よりハードロック色の強い楽曲となったが、セールス的に伸び悩んだため所属していたコロムビアを離れることになる。やがてベーシストのカーク・パワーズからダグ・ハワードに代わったのをきっかけに、グループ名をアメリカン・ティアーズからタッチに変更。プロモーション用にビデオを制作し、それを見た大物マネージャーのブルース・ペインの目に留まり、彼を通じてATCO Recordsと契約し、1980年にデビューアルバム『TOUCH』をリリースすることになる。シングルカットされた『Don’t You Know What Love It』が大ヒットする順調なスタートを切り、その勢いのままトッド・ラングレンをプロデューサーに迎えてセカンドアルバムのレコーディングを開始する。しかし、プロデューサーのトッド・ラングレンが多忙のために作業は難航し、後にディープ・パープルのロジャー・クローヴァーが引き継いだりしたが、不満を感じたクレイグ・ブルックスが脱退してしまう。一方のマーク・マンゴールドはマイケル・ボルトンのデビュー作に曲を提供したのを皮切りにコンポーザーとして活動をするようになり、タッチの活動はそのまま停止してしまいセカンドアルバムはリリースされずに終わっている。後にマーク・マンゴールドはマルチ奏者のアル・フリッチと出会い、2人でドライヴ、シー・セッドというプロジェクトグループを結成し、さらに1996年には初のソロアルバムを経て、2000年にはヴォーカルのテリー・ブロック、ギタリストのランディ・ジャクソン、ベーシストのビリー・グリアー、ドラマーのボビー・ロンディネリとThe Signを結成して2枚のアルバムをリリースするなど精力的に活動をする。2018年にマーク・マンゴールドのソロプロジェクトの一環として、40年ぶりにアメリカン・ティアーズ名義を復活させ、アルバム『ハード・コア』を発表。2019年には『ホワイト・フラッグス』、2020年には『フリー・エンジェル・エクスプレス』といったアルバムを立て続けにリリースし、アメリカン・プログレファンを歓喜させている。そして2021年にファンが待望していたタッチが、ついにオリジナルメンバーを揃えて、アルバム『トゥモロー・ネヴァー・カムズ』を発表するなど、かつてマーク・マンゴールドが在籍していた1970年代のアメリカン・ティアーズ、そして1980年に結成したタッチといったグループが再評価されつつある。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアメリカン・プログレッシヴハードの一翼を担った、マルチキーボディストのマーク・マンゴールド率いるアメリカン・ティアーズのセカンドアルバム『ティアーズ・ガス』を紹介しました。個人的にマーク・マンゴールドが在籍していたグループといえばタッチのほうが有名で、グループ名を冠したアルバムとシングル曲『Don’t You Know What Love It』が好きでしたね。この曲はよくラジオで頻繁に流れて、ボストンやジャーニー、カンサス、スティクスといったアメリカンロックをよく聴いていた時代にはお世話になったものです。そのタッチの前身ともいえるグループがアメリカン・ティアーズであり、マーク・マンゴールドの多彩なキーボードをメインに据えたプログレッシヴハードロックともいえるアルバムが本作となります。アルバムタイトルの『ティアー・ガス』とは催涙ガスのことで、それに合わせたかのようにジャケットのメンバーがガスマスクを首から下げたものになっています。楽曲のタイトルを見ると、何となく戦争をイメージしているものが多く、ファンタジック性や古典的なイメージのあるプログレッシヴロックとは一味違う感覚があります。それでも華やかなキーボードを中心としたアメリカンロックとなっており、特に1曲目の『バック・ライク・ミー~パートⅠ&Ⅱ~』と3曲目の『シリアス・ブルー・ボーイ~セイル・オン~』は、1曲の中でピアノやハモンドオルガン、シンセサイザーといった様々なキーボードが緩急を加えて演奏しているところはプログレッシヴそのものです。5曲目の『アイ・ソウ・ア・ソルジャー』のリリカルで美しいバラード曲を聴くと、マーク・マンゴールドのメロディセンスは凄いな~と感心してしまいます。時々メロトロンの楽器も奏でているので侮れません。アメリカンプログレの代表といえばカンサスですが、その初期のカンサスを思わせる楽曲があり、本アルバムもある意味、アメリカンプログレハードの完成形といっても良いかも知れません。

 難解な曲展開はなく、爽快なリズムとキャッチーなメロディーにあふれた本アルバムは、曲の雰囲気に合わせたマーク・マンゴールドのキーボードプレイが聴きどころです。この機会にぜひ聴いてみてくださいな。

 それとソニーミュージックが2021年に出したProgressive Rock Paper Sleeve Collection Vol.3には、2009年にAvalonからリリースしたリマスター盤に収録していたボーナストラック2曲が無いのでご注意を。 (´;ω;`)ブワッ シッパイシテカッテモウタ

それではまたっ!