【今日の1枚】King Crimson/In The Wake Of Poseidon | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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King Crimson/In The Wake Of Poseidon
キング・クリムゾン/ポセイドンのめざめ
1970年リリース

メンバーの不安定な均衡から生み出された
奇跡的な完成度と先鋭を誇るセカンドアルバム

 メンバー全員が知恵とアイデアを出し合って完成させた衝撃的なデビューアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』からわずか7ヵ月後にリリースされたセカンドアルバム。レコーディング途中に主導権を二部していたイアン・マクドナルドら主要メンバーの脱退が相次いだため、演奏はロバート・フリップを中心としたセッション的な色彩が濃い内容になっている。楽曲がデビューアルバムを踏襲して比較されることが多く、ファンの間では評価が分かれるアルバムとなっているが、緊張感のある演奏の中でキース・ティペットのピアノなど新たな魅力も加わり、高水準の完成度を誇る名盤として数えられている。

 キング・クリムゾンは今でこそロバート・フリップと同義となっているが、デビュー当時はそうではなかった。ピーターとマイケルのジャイルズ兄弟とロバート・フリップが参加して活動していたジャイルズ・ジャイルズ&フリップを基本とし、そこにイアン・マクドナルドが友人のピート・シンフィールドを連れて加わったことが、キング・クリムゾンの誕生のきっかけとなっている。わずか1年後に才気あふれるミュージシャンの感性と人間模様といった複雑なピースを集め、慎重に組み合わせて完成させたのがデビューアルバムという作品であり、誰1人欠いてはできなかった作品とまで言われている。しかし、その後のアメリカツアーで絶妙だった均衡が揺らぎ、ついに崩壊してしまうことになる。1969年12月にロサンゼルスからビッグ・サーに向かう車の中で、イアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズは、ロバート・フリップに脱退を表明している。彼らの言葉を借りれば音楽性の相違やツアーによる疲弊といったものだが、何よりもビッグになり過ぎたことによる不安が大きかったとされている。当時はまだイアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズの存在がグループにとって大きく、2人の脱退はフリップにとってショックであり、「グループを存続させるために私が代わりに辞めよう」とまで言わせたほどである。また、グレッグ・レイクもキース・エマーソンと新グループの構想に取り組んでおり、作詞家のピート・シンフィールドを除けば、残ったのはロバート・フリップ唯1人となったのである。こうした状況の中でセカンドアルバムのレコーディングが予定されていくことになる。

 フリップが最初に着手したのは脱退を表明したメンバーにレコーディングに参加させることだったという。マイケル・ジャイルズはクリムゾンの暗鬱なサウンドにうんざりしており、明るい音楽を求めてセッションを始めていた中だったとされている。また、先に辞めていたピーター・ジャイルズはコンピューター会社に勤めており、グレッグ・レイクはEL&Pのツアーが始まるまでという条件付きで一時的にレコーディングに参加している。3人はそれぞれ内に含むものを持ちながらもフリップの声に快く参加したが、イアン・マクドナルドだけはフリップに対する嫌悪と不信を露わにしており、頑なに拒否したという。マクドナルドの代わりにサーカスというグループにいたメル・コリンズが木管奏者として選ばれ、さらにフリップは並行して英国のジャズミュージシャンにも参加を要請し、キース・ティペットがアルバムに参加している。このメンバーでレコーディングが行われ、出来上がった数曲はシングル『キャット・フード』とアルバム『ポセイドンのめざめ』に収録されたという。こうしてセカンドアルバム『ポセイドンのめざめ』は、1970年5月にリリースされることになる。本作品のほとんどは前作の延長線上にある楽曲ばかりだが、音楽的方向性や感性において不安定な均衡の中で作られた、ある意味奇跡的なサウンドとなっている。

★曲目★
01.Peace -A Beginning(平和/序章)
02.Pictures Of A City -Including 42ND At Treadmill(冷たい街の情景 -インクルーディング:トレッドミル42番地)
03.Cadence And Cascade(ケイデンスとカスケイド)
04.In The Wake Of Poseidon -Including Libra's Theme(ポセイドンのめざめ -インクルーディング:リブラのテーマ)
05.Peace -A Theme(平和/テーマ)
06.Cat Food(キャット・フード)
07.The Devil’s Traiangle -Including(デヴィルズ・トライアングル -インクルーディング)
 a.Meaday Morn(マーディ・モーン)
 b.Hand Of Sceiron(ハンド・オブ・セイロン)
 c.Garden Of Worm(ガーデン・オブ・ワーム)
08.Peace -An End(平和/終章)

 1曲目の『平和/序章』は、グレッグ・レイクの静かに響く平和のメッセージから始まり、前作では見受けられなかった平和をモチーフにしている。ピート・シンフィールドの平和を願う叙事詩をアルバムのテーマにしたことが、このアルバムの精神面の変化が見て取れる。2曲目の『冷たい街の情景』は、平和な空気を一瞬にして暗黒の世界に導く、前作の『21世紀のスキッツォイドマン』を彷彿させるナンバー。モチーフはピート・シンフィールドが訪れたニューヨークの冷たい街を描いたものであり、曲想からリフ、構成、アレンジに至るまで『21世紀のスキッツォイドマン』とほぼ同じになっており、アルバムの中でも重要な楽曲になっている。3曲目の『ケイデンスとカスケイド』は、前作の『風に語りて』と対になっている牧歌的な曲であり、イアン・マクドナルドが書いた曲をロバート・フリップがアレンジし、ピート・シンフィールドが歌詞をつけている。この曲はグレッグ・レイクがEL&Pのツアーに出たため、ヴォーカルをフリップの旧友であるゴードン・ハスケルが担当している。ハスケルの少年っぽい素朴な歌声が耳に残る素晴らしい曲になっている。4曲目の『ポセイドンのめざめ』は、前作の『エピタフ』と符合する曲でありながら崇高さと荘厳さを持ったプログレッシヴロックの様式美が彩られた名曲。メロトロンが鳴り響き、無音の間が緊張感を産む内容には、「土、風、火、水」という要素から構成される世界が天秤上にあり、まるで自然や人類、善悪すべてがその一部となって均衡を保っているというピート・シンフィールドの精神的な歌詞が色濃く表れている。5曲目の『平和/テーマ』は、1967年末にロバートが書いたというインストゥメンタル曲。フリップの清涼感あふれるギターに心が奪われる逸品である。6曲目の『キャット・フード』は、この時期のキング・クリムゾンの中でも一際斬新なサウンドとなった曲。アメリカのツアー中にイアン・マクドナルドとピート・シンフィールドの2人がシカゴからデトロイトに向かう途中で書いた作品だという。キース・ティペットのアヴァンギャルドともいえる無秩序なジャズピアノとグレッグ・レイクの外に向かうヴォーカルが新たな音楽の方向性を見出した画期的な曲になっている。7曲目の『デヴィルズ・トライアングル』は、フロリダ沖のバミューダ・トライアングルをモチーフにした3章からなる構成の組曲。最初のパートはホルストの『惑星』の中の「火星」をモチーフにしており、2章目はギリシャ神話に登場する「セイロンの手」と呼ばれる強い風を音像化したもの。3章目はキース・ティペットを中心としたフリージャズのエッセンスが色濃く出た作品になっている。時折『クリムゾン・キングの宮殿』のフレーズが出てくるのは愛嬌だろうか。そして8曲目の『平和/終章』で平和をテーマにした静かな曲でアルバムの幕は下りることになる。こうしてアルバムを聴いてみると、楽曲は前作を確実に踏襲しているものの、やはりキース・ティペットのジャズ風味のピアノが加味されているぶん、新機軸ともいえる作品になっている。この即興性のあるサウンドは後のキング・クリムゾンの持ち味となっていくことになるが、何よりもメンバーそれぞれが内に含みを持ちながらも、ギリギリの均衡を保ちながらガラス細工のような脆さと雰囲気の中で演奏しているのが、ある意味奇跡的ともいえる楽曲に結びついたとも言える。

 本アルバムはグループの存続の危機に見舞われ、一時的に修復して制作されたとは思えないほどの完成度を誇り、イギリスでアルバム・チャートで第4位まで上がり、前作を上回る成績を記録している。これはキング・クリムゾンの全アルバムの中でも最高位となっている。結局、本アルバムのレコーディング後、オリジナルメンバーはバラバラとなり、再び集結することは無くなる。その証拠にこのメンバーでのアルバムツアーは実現していない。今を思えば本アルバムの完成を見たのは奇跡的といえるだろう。以後、キング・クリムゾンはロバート・フリップを中心に、アルバムごとに集合離散を繰り返すプロジェクト的な意味合いの強い作品を作り続けることになる。サードアルバムの録音時には、フリージャズピアニストであるキース・ティペット、サックス奏者のメル・コリンズ、一時的にヴォーカルとして参加したゴードン・ハスケルが正式にメンバーとなり、ドラムスにアンディー・マカロック(アンドリュー・マカロック)が加入し、1970年12月にサードアルバム『リザード』をリリースしている。そのアルバムはジャズ要素が強まり、即興的な演奏でキング・クリムゾンの新たな音楽性の一面を披露したが、レコーディング終了後にゴードン・ハスケルはロバート・フリップとの対立が原因で脱退。ドラマーのアンディー・マカロックもアーサー・ブラウンのキングダム・カムに加入するために脱退し、グループが再び危機的な状況に陥ることは周知の通りである。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はキング・クリムゾンのセカンドアルバム『ポセイドンのめざめ』を紹介しました。前回に紹介した『リザード』でも解散を視野に入れた状態でグループを存続させたロバート・フリップの並々ならぬ手腕をお伝えしましたが、本アルバムはさらに作詞家のピート・シンフィールドを除いて、フリップのみ残った状態からスタートします。彼の心境はいかばかりだったか想像を絶すると思います。普通であれば解散です。それをアルバムの完成にまで漕ぎ着けたのは、フリップのグループに対する強い想い以外考えられません。キング・クリムゾンが常に先駆的なサウンドを生み続けられている理由の1つに、才気あふれるミュージシャンたちの感性のぶつかり合いとガラス細工のように脆い緊張感の中で、この不均衡ともいえる瞬間的な収束の中で生まれた結果にあると思えます。まさにアルバムの『ポセイドンのめざめ』にある『リブラ(天秤座)』が暗喩している“均衡”そのものです。後にアルバムがプロジェクト的な意味合いが強くなっていくわけですが、フリップ自身がそれを狙ったのかどうかは定かではありません。また、イアン・マクドナルドとの決裂は本アルバム制作時に露わとなり、1974年のアルバム『レッド』のレコーディングでは、ジョン・ウェットンがイアン・マクドナルドを呼び戻そうとしましたが、フリップは「自分の音楽を私が演奏するのを許せないという理由で脱退したマクドナルドを呼び戻すのか?」と難色を示したほど、かなり根の深い確執を残していたそうです。しかし、本アルバムでイアン・マクドナルドの書いた曲に手を加えた楽曲があることから、当時は本気で嫌っていたから手を加えたのか、まだ嫌っていなかったから彼の曲を利用したのかイマイチ分かりづらいところがあります。どちらにしろイアンの曲想と決別できたのは次のアルバム『リザード』からということになるのでしょうか。個人的にイアン・マクドナルドはサウンドクリエイターとして高く評価しているので、もしロバートと2人が共に作品を生み出していたらどんな音楽になっていたのかと想像してしまうほど残念で仕方がありません。キング・クリムゾンに限らず、傑作といわれるアルバムにはグループの危機感と凄まじいほどのメンバー間の感性のぶつかり合いがあると言われていますが、本アルバムもそういう意味ではまぎれもなく名盤であると思います。

 さて、本アルバムの日本盤が出た際の邦題は『ポセイドンのめざめ』でしたが、実は名詞「wake(航跡)」と動詞「wake(めざめる)」を取り違えた誤訳であると言われています。本来のアルバムタイトルの意味は「ポセイドンの跡を追って」、または「ポセイドンに続いて」となるそうです。CD化以降でも『ポセイドンのめざめ』の邦題のままでリリースしているようですが、「ポセイドンの跡を追って」という意味を知った今、このアルバムが大海と大陸を自在に支配して世界の“均衡”を象徴するポセイドンのように揺るがない世界の平和を願ったものではないかと思えて、私にとって本アルバムに対する認識が大きく変わりました。単に前作の踏襲であると言われた本アルバムですが、改めて聴くとプログレッシヴロックの全盛期の中で、いかに彼らが新しい音楽を切り開こうとしていたかが良く分かります。そういう意味ではもっと評価されてもいいアルバムだと思っています。

それではまたっ!