【今日の1枚】Jon Anderson/Olias Of Sunhillow | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Jon Anderson/Olias Of Sunhillow

ジョン・アンダーソン/サンヒローのオリアス

1976年リリース

架空の神話に基づいた一大絵巻の如く

展開されるジョン・アンダーソンの初ソロアルバム

 イギリスを代表するプログレッシヴロックグループ、イエスのヴォーカリストであり、シンガーソングライターでもあるジョン・アンダーソンがアトランティック・レーベルよりリリースした初ソロアルバム。当時のグループとしてのイエスは、1974年にリリースした『リレイヤー』の後の活動休止期にあり、メンバーのスティーヴ・ハウ、リック・ウェイクマン、アラン・ホワイト、クリス・スクワイアなどが次々とソロアルバムを発表していく中、まさに真打というべき最後に発表されたのが、ジョン・アンダーソンの『サンヒローのオリアス』である。アルバムは架空の神話に基づくヒロイック・ファンタジーを展開する一大絵巻のようなトータルアルバムになっており、イエスのアルバムも凌駕するコンセプトで作られている。巨大な翼がはためく空飛ぶ船をモチーフにしたロジャー・ディーンの描く素晴らしいジャケットデザインも相まって、ジョン・アンダーソンの存在感を改めて認識させた名盤となっている。

 アルバムはバッキンガムシャー州のシアーグリーンにある自身のカントリーホーム内のスタジオで、バック演奏も含めたマルチ・レコーディングで制作されたものである。ジョン・アンダーソン自身が音楽の構造と様々な楽器での演奏能力について学びたいという欲求から、作詞、作曲はもとより、様々なキーボードやギター、パーカッションを含むすべての楽器を1人で演奏している。さらに驚くのは『サンヒローのオリアス』という架空の物語の世界観とキャラクター、エピソードを独自で考え、今回のアルバムのテーマにしているところだろう。内容は惑星で火山災害が起きたために新世界へと旅立とうとするサンヒローという地を舞台にしたオリアス、ランヤート、コクアクという3人の主人公を中心とした物語になっている。「高出力エネルギー100万年の霧を抜けて、3人の飛行者はタロウクロスの平原を滑るように飛び、夢に向かって競ったのであった」とプロローグがあり、その3人がオリアス、ランヤート、コクアクのことであり、「ゲダの庭」に集まるところから物語が始まる。その庭は全てのものが柔らかなエネルギーとなって存在しているところで、彼らが歌うことで存在するもの全てが和むという。ここでいう3人の役割はオリアス=ムアグレード・ムーバーという船、ランヤート=光への案内者、コクアク=サンヒローの人間の造者であり指導者となっている。キーパーソンは“歌”である。サンヒローという地は、音楽やリズム、テンポといった音楽意識の違う4つの部族が住んでおり、彼らは地上の壊滅的な火山噴火の災害に怯えていたという。そしてオリアスとランヤートの2人が“ムアグレード・ムーバー”という船を作るため、ランヤートは踊り、オリアスはその踊りに対して声で大地の木々や魚を説得して、その生命をもとに骨組みを作り船は完成する。一方のコクアクは様々な国の人々を呼び集めるものの、部族の音楽意識が違うためにひとつのハーモニーが出来ない。しかし、コクアクは自らの声を振り絞った和の歌で皆が団結し、ついに巨大船“ムアグレード・ムーバー”が空に向かって動き出すという流れになっている。これは曲の流れとも一致している。

 

★曲目(パート含む全8曲)

1.Ocean Song(オーシャン・ソング)

2.Meeting“Garden Of Geda”(ミーティング“ゲダの庭”)/Sound Out The Galleon(サウンド・アウト・ザ・ガレオン)

3.Dance Of Ranyart(ランヤートの踊り)/Olias “To Build The Moorglade”(オリアス)

4.Qoquaq En Transic(トランジック)/Naon(ナオン)/Transic Tö(トランジック・トゥー)

5.Flight Of The Moorglade(ムアグレードの飛行)

6.Solid Space(ソリッド・スペース)

7.Moon Ra(ムーン・ラ)/Chords(コード)/Song Of Search(ソング・オブ・サーチ)

8.To The Runner(走者)

 

 アルバムの楽曲は、イエスのコンセプトにも通じるサウンドを発揮した、ファンタジックでドラマティックあふれる煌びやかな音世界になっている。何よりも天性ともいえるジョン・アンダーソンのクリアヴォイスが美しいサウンドの中で伸びやかに歌っているのが素晴らしい。さらに30を超える楽器(キーボード、ギター、パーカッション、ハープ、木製フルート、ベル、シタール、モーグシンセサイザーなど)を、曲のイメージごとに使い分けていることに驚いてしまう。2曲目のアコースティックギターとハープの心が洗われるような響きから、コミカルな3曲目の「ランヤートの踊り』は多彩なキーボードやモーグを使用している。4曲目は民族的な楽器を多用したトラディショナルな曲になっており、まるでオリアスとランヤート、コクアクの3人が力を合わせて船を完成させつつ人々を導いている様子が聴き取れる。5曲目の『ムアグレードの飛行』は、まさに地上から空に向かって旅立つシーンであり、ジョンの悠々とそして高らかなヴォーカルに聴き入ってしまうほどの力強い楽曲となっている。6曲目は壮大な宇宙をイメージさせるシンフォニックな楽曲になっており、7曲目は12分を越える大曲となっている。宇宙に飛び立った彼らの運命を表すような、複数のヴォーカルをミックスしたハーモニー豊かな楽曲から、荘厳なシンセサイザーによる力強くも哀しい楽曲へと変わっていく。そして最後の曲は彼らを讃えるような賛美歌になっており、長い長い旅の終わりを示唆するかのように静かに曲は終わる。

 ジョン・アンダーソンは元々、文学青年的なところがあり、イエスの歌詞を担ってきたが、今回ソロになって改めて強く表れた作品と言っても良いだろう。ソロアルバムを作るにあたり、他のミュージシャンの助けを借りずに相当時間をかけて自己表現を探求した、彼の内なる“作品”とも思える。イエスといえばテクニックと構成力の高さで話題になりがちだが、本来はこのようなテーマ性を持ったグループであり、ジョン・アンダーソン自身が改めて指し示したといっても良いだろう。

 

壮大なスケールで描かれた物語には続きがある。

 

 大爆発をしたサンヒローは何億もの生命が涙のしずくとなって消え、その寸前に宇宙へと旅立った“ムアグレード・ムーバー”。しかし、その旅は決して楽なものではなかった。中でもムーン・ラと呼ばれる神秘的な力によって人々は動揺し、そのパニックと欲求不満から邪悪な形を作り出してしまう恐ろしい出来事が起こる。しかし、オリアスが目覚め、“愛の歌”を歌い始めることによって人々は安堵を取り戻し、ついにアスガードという新しい惑星に着陸する。部族は下船して別々の道を進み、役割を終えた3人はアスガードの最も高い山を登って星を見上げながら眠りにつき、彼らは宇宙と一体となる……。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイエスのヴォーカリストであるジョン・アンダーソンの初ソロアルバム『サンヒローのオリアス』を紹介しました。イエスのメンバーそれぞれのソロアルバムも聴いたのですが、一番イエスのサウンドに近く、やはりジョン・アンダーソンあってのイエスなんだな~とつくづく思ったアルバムでした。レコードのライナーノーツで渋谷陽一さんが語っていたのですが、英国から本アルバムの資料を請求したところ、何とわざわざ日本語で書かれた5ページにも及ぶアルバムのストーリーのパンフレットが送られてきたというのが面白いです。相当、オリジナルの物語に力を入れていたことが分かるエピソードですが、やはりマーケットとして水準の高い日本を意識していたということですよね。物語の概要を読んでみると、宇宙船と歌で人々を調和するってマクロスかな?って思ったり、最後に人々の魂が宇宙と一体となるってイデオンかな?って思ったりしますが、住んでいた星が危機となって宇宙に飛び出す物語はSFの世界では数多く存在します。とはいえ、ジョン・アンダーソンのミュージシャンとは思えない文学的な表現力には驚くばかりです。

 

 そんな物語を端的に表すと、サンヒローの部族というのは様々な言語と種族のいる地球人のことであり、オリアスとランヤート、コクアクの3人は、音楽を生み出すアーティストなのかなと思えます。つまり、音楽こそ世界の調和を作り、人々の暗澹なる心を照らす光であり手段であるという、ジョン・アンダーソンの平和のメッセージが込められている気がします。もっといえば、音楽アーティストはそのような曲作りを目指していかなければいけないという強い覚悟も感じます。私個人の思い入れもあるでしょうが、このアルバムを聴いてさらにイエスのサウンドが好きになったというのは間違いないです。皆さんはこのアルバムを聴いてどう感じるでしょうか?

 

それではまたっ!