【今日の1枚】Beggars Opera/Act One(ベガーズ・オペラ/アクト・ワン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Beggars Opera/Act One

ベガーズ・オペラ/アクト・ワン

1970年リリース

クラシックを独自にアレンジした

サイケデリック性の強いオルガンロック

 18世紀の詩人であり劇作家のジョン・ゲイの風刺劇にジョン・ペプシュが音楽をつけたバラッドオペラ、もしくはブレヒトの『三文オペラ』という原作からグループ名をとったプログレッシヴロックグループ、ベガーズ・オペラのデビューアルバム。そのサウンドは、ザ・ナイスやアトミック・ルースターに通じるオルガンロックとなっており、クラシックを独自にアレンジしたポップ要素のあるアルバムとなっている。主に前衛的な作品をリリースするヴァーティゴレーベルからデビューし、さらにマーカス・キーフが手がけたやや不気味なジャケットアートワークも相まって、レコード愛好家から垂涎の的となった逸品である。

 ベガーズ・オペラは1969年にイギリスのスコットランドの中心都市グラスゴーで結成したグループである。メンバーはリードヴォーカルのマーティン・グリフィス、キーボードのアラン・パーク、ギター&ヴォーカルのリッキー・ガーディナー、ベース&フルートのマーシャル・アースキン、ドラムスのレイモンド・ウイルソンの5人となっている。メンバーのリッキー・ガーディナーとマーティン・グリフィス、そしてマーシャル・アースキンの3人は元々、学生時代にザ・システムというグループで活動していたという。1969年にビーコンズフィールド近くのM40高速道路の一部をメンバーと共に建設する作業を行い、その収益とリッキーの叔父であるジョン・スペンスからの融資を元にマーシャル・スタック(アンプ)や機材を購入している。その時にサイケデリックな音楽からオルガンを中心としたクラシックを取り入れた音楽性に変えて行きたいというメンバーの考えから、新たに新聞広告を打ってオーディションを行い、キーボードのアラン・パークとドラムスのレイモンド・ウイルソンをメンバーに加えている。メンバーそれぞれがクラシックの愛好家だったというから、時代の流れを読んだ結果だったのかもしれない。彼らは集中的なリハーサルを行った後、グラスゴーの中心部のウェスト・リージェント・ストリートにあるバーンズ・ハウフ・クラブやパブでギグを行い、やがて次第に広まった知名度を聞きつけたヴァーティゴ・レーベルと契約することになる。こうして三文オペラというベガーズ・オペラというグループ名で、1970年にデビューアルバム『アクト・ワン』をリリースする。

 

★曲目★

01.Poet and Peasant(詩人と農夫)

02.Passacaglia(パッサカリア)

03.Memory(メモリー)

04.Raymond's Road(レイモンズ・ロード)

05.Light Cavalry(軽騎兵)

 

 独特なジャケットアートに目が行きがちだが、アルバムの内容はオルガンを駆使したクラシカルな楽曲が多く、おもにオーストリア出身でウィーン・オペレッタの父と呼ばれたフランツ・フォン・スッペ(1819年~1895年)の曲をロックアレンジしたものを取り入れている。クラシックをロックにアレンジするグループは数多く存在するが、独自の解釈でここまで大胆に取り入れたグループもなかなか無いと思える。強いて言うならオルガンとドラムスが連続して疾駆するスタイルは、キース・エマーソンが在籍していたザ・ナイスを連想してしまうほど、アグレッシヴでありながらキャッチーなメロディにあふれている。

 

 アルバムの1曲目の『Poet And Peasant(詩人と農夫)』は、先にも触れたスッペの曲をオルガンでアレンジした軽快な内容になっており、メロディはそのままにギター、ベース、ドラムが同調するように切れ込んでいく楽曲になっている。2曲目の『Passacaglia(パッサカリア)』は、オルガンやキーボードが荘厳であり、リッキー・ガーディナーのメランコリックなギターとマーティング・リフィスの伸びやかなヴォーカルが聴きどころのナンバー。3曲目の『Memory(メモリー)』は、ヴォーカル中心の曲だが短いながらもフォークとハードロックの要素が入り混じった独特の楽曲となっている。4曲目の『Raymonds Rord(レイモンズ・ロード)』は、ベートーベンの『トルコ行進曲』やバッハの『トッカータとフーガ』、それ以外にもクラシックのフレーズが次々と飛び出し、オルガンやドラムスがノンストップで演奏していく遊び心のある楽曲になっている。5曲目の『Light Cavalry(軽騎兵)』はスッペの曲であり、1曲目と同じようにオルガンでメロディをそのまま忠実アレンジしているが、それぞれのテクニックを駆使してロック調に昇華させている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、大胆にクラシックの曲を取り入れつつも難解なイメージは無いに等しく、柔軟で親しみやすいものにしている。それは彼らのクラシックに対する解釈と造詣は申し分ないほど深く、敬意すら払っているかのような姿勢が曲作りに大きく影響しているからだと思われる。

 ベガーズ・オペラは後にメロトロン奏者兼作曲家のヴァージニア・スコットを迎えて1971年にセカンドアルバム『Waters Of Change』をリリースし、ジミー・ウェップの大ヒット曲『マッカーサー・パーク』をカヴァーしてヒットとなり、サードアルバム『Pathfinder(宇宙の探訪者)』では、ポップ色が強くなるがユニークともいえる楽曲が素晴らしいアルバムを世に出している。アルバムごとにメンバーが入れ替わるものの、ギター&ヴォーカルのリッキー・ガーディナーとメロトロン奏者で作曲家のヴァージニア・スコットを中心に、2000年代まで活動して15枚近くのアルバムを残している。なお、中心メンバーであったリッキー・ガーディナーは2022年5月17日に亡くなっており、キーボード奏者のアラン・パークも2002年に移住したオーストラリアの地で亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。ユニークなキーフのジャケットアートが目に焼きついて離れない、ヴァーティゴレーベルの中でもとりわけ人気が高いベガーズ・オペラのアクト・ワンのアルバムを紹介しました。このアルバムを初めて聴いたとき、クラシックにあまり造詣の無い自分でも聴いたことのあるフレーズが随所にあって、思わず笑みがこぼれるくらい面白いアルバムだと感じたものです。今までの私は何となくロックでもクラシックでも身構えて聴いたものでしたが、“音楽は楽しく聴くもの”という本来の気持ちを呼び起こしてくれた優れた作品だと思っています。

 

 さて、本作で登場するスッペの曲ですが、カラヤンとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で演奏された『詩人と農夫』を聴きました。主に曲の後半を引用していると思いますが、ほとんど違和感がないですね。無論、ベルリン・フィルの演奏の方が、管楽器の力強さと弦楽器による疾走感は「さすがはカラヤン」と頷けるものですが、オルガンとギター、ベースにドラムという楽器でロック調にするとこうなるのかと、ベガーズ・オペラの軽快な作風とアレンジには驚きです。クラシックを聴きやすくするってこういうことなのかもしれませんね。ちなみに最近の復刻CD盤には、『Sarabande(サラバンド)』と『Think(シンク)』の2曲が追加されています。この2曲は1971年にリリースされたシングル盤のA面とB面になったものです。シングル向けに作られたものなので短めの曲になっています。とはいえ、『Sarabande(サラバンド)』はオーソドックスなロック調でありながら、間奏ではハードロックばりのオルガンとドラムにシフトチェンジするのが非常に面白いです。ぜひ、彼らの楽しいクラシックのアレンジを堪能してほしいです。

 

 ちなみにセカンドアルバム『Waters Of Change』と、サードアルバム『Pathfinder(宇宙の探訪者)』は、どちらも個人的に好きなアルバムなので、近いうちにどこかで紹介したいと思っています。

 

それではまたっ!