サッカーのワールドカップ(2026.6.11~ 米、カナダ、メキシコ共催)が迫っています。日本チームの活躍を期待しつつ、だいぶ前に別のブログ(現在は廃止)にアップした記事に手を入れてお届けしたくなりました。テーマは、大会史上、最大の番狂わせと言われている「マラカナンの悲劇」(勝った方には「奇跡」)です。「マラカナンの悲劇」(沢田啓明 新潮社)がネタ元です。劇的な試合経過と、試合後のエピソードをお楽しみに、最後までお付き合い下さい。

★1950年、ブラジルで開催されたワールドカップでは、地元ブラジルが、圧倒的な強さを発揮し、上位4チームによる決勝リーグ(当時はトーナメントではなく、総当たり制)に駒を進めました。決勝リーグでも段違いの強さを見せつけたブラジルは、最終戦のウルグアイ戦に臨みます。引き分け以上で、ブラジルが優勝、ウルグアイが勝てば、ウルグアイが優勝という大一番に、勝利を信じて疑わないファンが、マラカナンスタジアムに大挙押し掛けました。

★試合は、後半そうそうに1点を先取したブラジルを、ウルグアイが追う展開になります。そして、後半21分に同点ゴール、34分に逆転ゴールを決めたウルグアイが奇跡的な勝利をおさめます。ギッジャ(画面中央)による決勝ゴールの瞬間画像です。

 その瞬間、20万人(現在でも史上最高の観客数)を収容したスタジアムは、水を打ったように静まりかえり、スタジアムだけで、2人が自殺、2人がショック死、20人以上が失神、100人近くが負傷と伝えられます(数字については、異説もあります)。

★本書は、出版時点(2014年)で64年前の「事件」の全容を、残り少ない関係者の証言、膨大な資料を基に、10数年かけて完成させた労作です。
 著者が焦点を当てているのが、ウルグアイのキャプテンであるバレーラです。ブラジルの先制点ではオフサイドフラッグが上がっていたにもかかわらず、得点を認めた主審に激しく、執拗に詰め寄ります。ものすごいブーイングに負けず、ブラジルの気勢を削ぐと同時に、味方を鼓舞するための抗議でした。「本当の試合は、これから始まるんだ。絶対に勝つぞ!」(同書から)と自陣に戻ったバレーラは叫びました。

★そんな彼のリーダーシップで見事に勝利をおさめたウルグアイですが、ブラジル人による襲撃を恐れた自国の協会役員からは、優勝の夜、禁足令が出されます。役員は、高級ホテルで祝勝会を開く一方、選手は、ホテルで、サンドイッチとビールでささやかに勝利を祝うだけでした。
 そんな中、バレーラだけは、街に出かけます。ほど近いレストランに入ると、ブラジル人が集まって、口々に憤懣をぶちまけています。そのうち、ある若者が目ざとく彼を見つけて、声を掛けてきました。「あんた、ウルグアイ代表のキャプテンだよな」殴られるのを覚悟でうなずくと、返ってきたのはこんな意外な言葉でした。
 「あんたはすごい男だよ・・・・体を張ってブラジルの攻撃を食い止め、チームを鼓舞し続けた。セレソン(ブラジル代表)だけじゃなく、スタンドの全ての観衆を敵に回して戦い続けた。そりゃあ、俺たちはあんたを野次りまくったさ。あんたが憎かった。でも、心の底では、あんたがどれだけ勇気があるか、よくわかっていた。決勝点をあげたギッジャは、確かにすごかった。でも、ウルグアイの最大の勝因はあんただ。あんたがいたから、ウルグアイは勝てた。あんたみたいな勇敢な男がいなかったから、セレソンは負けた」(同書から)
 ブラジルのサッカーファンと、ウルグアイのキャプテンとの交流は、朝まで続いたといいます。

 試合後のエピソードを書きながら私が思ったのは強豪チームのファンのスゴさです。
 攻撃にしろ、守備にしろ、自チームのプレーに集中して、観戦、声援するファンが多いように感じます。でも、ブラジルのファンは、相手チーム選手のプレーだけでなく、振る舞い(本書では、激しく抗議するキャプテンの姿など)をしっかり見極め、評価しています。そんな厳しい目を持つファンとの相互作用で、本当に強いチームが育っていくのだな、と強く感じました。

 いかがでしたか?最後はちょっと生意気なことを書きましたが、サッカー観戦のご参考にでもなれば幸いです。それでは次回をお楽しみに。