事務所に入って半年が経ったぐらいだろうか、マネージャーに、
「オンバト行ってみるか?」
と言われた。
今の若手芸人や、若いお笑いファンの子は知らないかもしれないが、その昔「爆笑オンエアバトル」という番組がNHKでやっていた。
10組の芸人がネタを披露し、上位5組しかオンエアされない、地獄のような番組だ。
月二日収録日があり、一日二本分だったから月合計4回の収録があった。
僕らが芸人を始めた頃はM-1創世記で、キングオブコントなんてなかった。
だから芸人の主戦場はこのオンバトだった。
その証拠に、オフエアが続いて解散する芸人がいたり、収録前のネタ合わせでケンカしたりする芸人もよくいた。
みんなピリピリしていた。
「え、オンバトに自分達が行くの??早くない??」
と正直思った。
だが今思うと、この世界に早いも何もない。
それが来たら、それに向かって万全に整えるのだ。
オンバトはオーディションがない代わりに、番組収録の前説をやる事になっている。
そこでネタをやって感触が良ければ、じゃあ次回収録来てください、という事になる。
前説当日、僕は収録に臨む芸人達よりも緊張していた。
だってあのずっと見ていた、オンバト収録のスタジオにいるんだもの。
前説という事もあり、お客さんもリラックスした様子でネタを見てくれた。
自分で言うのもなんだが、かなりウケて、
「これが収録だったら500キロバトル超えてたのにな〜」
と思えるぐらいだった。
あ、オンバトは審査員がボールをバケツに転がし、その重さで競い合うのだ。
前説はスタッフさんからの評判も上々で、僕らは次回の収録に参加する事となった。
収録当日、僕は、
「オンバトデビューが500キロバトル超えしたらたまんないなぁ」
なんて考えながら渋谷のふれあいホールに向かった。
テレビで見た事のあるオープニングや順番決めをやったり、相方たちとネタ合わせしたり、他の出演芸人と喋ったり、いろんな初体験にワクワクしていた。
収録が始まり自分達のネタになった。
前説の時と同じようにやれば問題ない、僕はそう思っていた。
するとどうだろう、全然ウケないのだ。
前説の時はあんなにウケたのに、まるで違う番組に来ているみたいだった。
「そうか、これは本番なんだ。自分達は品定めされてるんだ。」
と僕は思った。
結果、500キロバトル超えには程遠い、300キロバトルにすら満たない結果だった。
なんかもう、テレビのお笑い界から「用無し」の烙印を押された気分になったものだ。