18歳、僕は上野の映画館でアルバイトを始めた。

750円というバカみたいに安い時給だったが、なんの文句もなかった。

その映画館は二つのスクリーンがあり、常時二本の封切り映画をやっていた。
僕が入った時は、たしか「フィフスエレメント」と「メンインブラック」だったような。

今でこそ映画館と言えばシネコンの事を指すようになったが、当時の映画館はまだ昭和の遺産のような代物だった。

特に上野辺りの寂れた映画館は、映画を観るところというより、平日のサラリーマンの居眠り場所と言ってよかったろう。
映画の途中だろうが出入り自由、必ずつまみと缶ビールを買って入るおっさん、中でタバコ吸うやつ、完全に不倫関係の男女、などなど。

仕事と言えば、一日何回かある映画の入れ替えの作業、売れたお菓子の補充、その他細かい仕事はあれど、ほぼ受付に座ってるだけだった。

だから大ヒットする映画じゃないと、全然忙しくない。
一ヶ月31日間全部出たこともあったが、疲れる事はなかった。

暇な時は映写室から映画を観たり、まあ実際は映写機の音がうるさくて全然観た気になれないのだが。

早上がりした時はそのまま映画を観たり、遅番の日は仕事前に映画観たり。

とにかく映画三昧の日々だった。
ニューシネマパラダイスが好きだった僕は、毎日が天国のような日々だったのだ。

お笑いの事も忘れて。

そしてこの映画館で、僕はある人と出会う。
当時まだ大学生だった、落語家の三遊亭王楽さんだ。


王楽さんとの話はまた今度。