母に貯めた二百万を献上してしまった僕は、途方に暮れていた。
「どうすれば映画の世界に飛び込めるのだろう」
そんなある日、僕はとある映画の事を思い出す。
北野武監督の「キッズリターン」だ。
僕はこの映画が大好きで、何度も何度も観ていた。
「お笑い芸人も、将来映画を撮れるんだ」と安易に思ったのだ。
今よくよく考えたら、お笑い芸人だから撮れたわけではなく、たけしさんだから撮れたのだ。
そんな事すらわかっていなかった。
僕は高校卒業してすぐぐらいから、以前トリオの時にいたヤツに、ずっとお笑いをやろうと誘われていた。
お笑いに興味がないわけじゃなかったが、そいつと二人でコンビを組むというのが、どうもしっくり来なかった。
ひとまずお笑いの世界がどんなものか知りたかったし、自分の書くネタがどう評価されるのか興味が出て来た。
僕は漫才を一本書き、そいつと恵比寿にあるとある事務所のネタ見せに行った。
17歳、初めてのお笑いである。
今でこそコントをメインにやっているが、初めは漫才だったんだなーと思う。
ネタを見てもらい、事務所の人に「ちょっと話がある」と言われ、奥の部屋に通された。
僕は事務所の人に「君は上手いね。キャラもあるしいいんじゃない。」と言われた。
ネタは「粗削りだけど、あんまり見たことないネタだから、どんどんいろんなネタ作ってみな。」と言われた。
そして一緒に行ったヤツは「完全に素人だね。向いてないと思う。」と言われた。
帰りの電車で、そいつが泣いていたのを見て「やっぱりこいつとコンビはきついな〜」と僕は思った。
当時ジョビジョバさんが全盛期で、僕が大好きでハマっていたのもあり、次の日から5人組になるべく、僕は他のメンバーを探し始めた。
思えばそれから21年、今は違うヤツとコンビでやっている。
人生は何がどうなるかわからない。