ちょっと重い話。
子供の頃、父と母は夫婦喧嘩ばかりしていた。
父が一方的に機嫌が悪くなっての喧嘩なのだが、母も気が強いから一歩も引かなかった。
手が出る事もあった。
そんな時いつもおばあちゃんが守ってくれた。
僕は父が怖かったし、嫌いだった。
こんな人には絶対にならないと、子供心に思ったものだ。
僕が滅多に怒らない人間になったのは、父を反面教師にしたからだ。
結婚とか夫婦とかに憧れがないのも、多分親の影響だろうと思う。
ある日、また父と母が喧嘩をした。
普段よりも激しい口論で、僕と姉はおばあちゃんに抱きついて見ないようにしていたが、多分手も出ていた。
しばらくして喧嘩がおさまり、父と母はちょっと離れて会話をしていた。
すると急に父が、手元にあったウイスキーのビンを母に投げたのだ。
ビンは母には当たらず、母の後ろの窓に当たり、ガラスが割れた。
いまだにあの時の光景は目に焼き付いてるし、多分一生忘れないだろう。
その割れた窓ガラスの形が、キツネの形に見えたのだ。
だから僕は、キツネにいいイメージがない。
これが世に言う「トラウマ」ってやつなのだろう。
大きくなってから母に「なんで父親と離婚しなかったのか」聞いた事がある。
母は「離婚したらあの人一人じゃ生きていけないでしょ?」と言っていた。
僕はこれを聞いた時から「男が女に勝てるわけない」と思っている。
しかし不思議なもので、もう70を過ぎた父と母は、たまに実家に帰ると二人揃って仲良くテレビを見て笑っている。
夫婦とは、二人にしかわからない、血の繋がった子供にすらわからない、不思議な絆で結ばれた赤の他人なんだろう。