ふたごが大好物の餅は
年末の餅つきのからみ餅から
元旦の雑煮、鏡開きの汁粉まで
連日の食卓に登る。

大根おろしの辛味餅
ゴマだれをからめたゴマ餅
砂糖と醤油を混ぜて付けただけの焼き餅
海苔を巻いた磯部巻き
きな粉や小豆餡をまぶしたり
刻んだ漬け物や納豆をからめたり
毎日毎日、手を変え品を変え
半蔵の工夫は家族全員を喜ばせる。

七輪に炭を熾し
遠火の直火で焼く切り餅は
焦げ目までがうまいと
光太郎や御厨屋までが
まるで子どものように
手を伸ばして来て
アッチッチと声を上げる。

中でも
半蔵たんのお餅、と
ふたごが呼ぶのが
水餅だった。

冬場の乾燥を防ぐのに

搗いた餅を

水に漬けて保存する。

 

もちろん

毎日水を替えなければならないが

この手間をおざなりにすれば

瞬く間に水が腐ってくるのだ。


しかし

この手間をかけていれば

一カ月くらいは持つ。


だから

水餅を食べるのは

だいぶ正月が過ぎて

そろそろ節分の用意をするあたり。


のし餅に慣れたころに

久しぶりに搗き立てのような

柔らかな餅を食べるのは

やはり心おどるもの。




山形県の庄内地方では

私が知る限り

搗きたての餅を水に漬けたのを

手で小さく千切って

餡子や納豆をからめたものを作りますが

それを水餅と呼びますよ。


志乃と加寿子へ

半蔵が話すそばで

大きな甕の水の中に手を浸し

餅を探る小さな手がある。


井戸水を使っているから

さほど冷たくないのも

ふたごはよく知っている。


パパが だいすきなのを

ぼくたちがつくるんだ

と、朝から張り切っているのだ。


お兄ちゃんの勇太郎によれば

志恩と礼恩のは

お手伝いなのかイタズラなのか

分からない、となる。


御厨屋の好みは

大根おろしの中に

醤油とすり胡麻を入れた

関東風のからみ餅だ。


大きなすり鉢を

礼恩が押さえていると

長いすり棒を握って

金色の炒りごまをあたるのは

真剣な顔をした志恩。


好奇心のかたまりのような

ふたごに、教えずとも

見よう見まねで覚えるように

御厨屋は、いつもゆっくりと

すり棒を回していた。


パパー!

ドタドタと足音を立てて

呼ばわるのは我が子たち。


さては

出来上がったのか?と

振り向いた御厨屋に見えたのは

すり鉢を抱えた礼恩と

すり棒を振り回す志恩だ。


幼い子どもの手に

大きなすり鉢と

長いすり棒は

まだまだ手に余るのだろう。


我が子は

父親の背中だけでなく

祖父の背中も見ているものなのだ。

立っている者は親でも使えどおり

そこのところは大したものだ

と、苦笑いが出る。


すり棒を握る御厨屋は

ちゃっかりと親を使う

ふたごの顔を

交互に眺めた。


餅は腹持ちがいいという。

今日の長い祈祷に入る前に

我が子と一緒に食べる餅は

ますますの力になる。


二人で

大きなすり鉢を押さえて

パパ!早く早く!

と、忙しない

ふたごの甲高い声が響く。


はい、と

小さく呟く御厨屋は

子煩悩な父親の顔をしている。

胡麻の香りが鼻をくすぐり

思わず腹の虫が

ぐぅっと鳴った。