本当に正直です。
自分の心に
実に正直です。
女性もそうです。
だから、私はかないません。
妻や子供に勝てた試しは
一度もありません。
我が子が
夕飯を食べる様子を見ながら
卓上に落ちた飯粒を拾って
口にする御厨屋に
言葉の迷いすら見当たらない。
うちの家内の煮物がうまいんだ
と、高野豆腐と小松菜のあっさり煮
肉じゃが、茄子の煮浸し
甘辛の鶏ごぼうを次々に勧める。
たまに手酌で呑む酒は
お銚子三本ほどで
飯茶碗を手にした。
浴びるほど
酒を飲んでも酔わないと
いつまでも酒瓶を傾けていた男が
たったこれだけで顔を赤くしている。
ふたごは
自分の嫌いなニンジンを
ちゃっかりパパの皿に乗せている。
それをうまそうに食べる
御厨屋は子煩悩な父親の顔だ。
盃を伏せた明覚は
満足そうに ため息を吐いて
わしわしと白飯を喰らい
次々と煮物を平らげた。
なるほど
御厨屋がすすめるはずだ。
丁寧に作られた味だと
明覚にも分かる。
酒を飲むよりも
白い飯が欲しくなる。
どうぞ、と出された
とうがらしを振ったキノコたっぷりの
熱々の汁椀から湯気があがる。
仲間たちの言うことに
間違いは無い。
妻帯して彼奴は やにさがった
は言い過ぎだが
うらやましいだけだろう。
あの御厨屋が
ここまで変わった。
三年先輩の明覚は
鬼気迫るような御厨屋の
暗い目を見て気にかけていた。
苛烈な修行の中で
おのれの死、だけを
望んでいた男が見つけたものは
素朴な家庭だった。
自分の本心に
気がついた男の安堵の顔は
実に穏やかだ。

野ゆき山ゆきの
あてのない旅路の行き着く先は
ここだった。
凍えるような寒空にも
見上げれば
チカチカ光る星がある。
明日は晴れる。
明覚の胸にも
何か確かな思いがあった。
さっきから
パパの肉じゃがの
肉だけを探して食べる
ふたごの目は真剣だ。
あのようにすれば
よいのだな。
そうつぶやいた時
妙なおかしさが湧き上がって
飯茶碗で顔を隠す明覚もまた
ごく普通の男だった。