大きな岩屋から
子どもたちの声が
響いてくる。

勇太郎に直樹と功の
仲良しの三人が
半蔵を囲んで
お汁粉を食べていた。

毎月一度は訪ね
半蔵を忍者の師匠として
植物や小動物の生態や森の生活の知恵
食べられる野草やキノコの
目利きを習う。

図鑑や本で学ぶのと違い
生きた知恵だから
スポンジが水を吸うように
どんどん学んで行く。
仲良し三人の目的は
食べる、という学びもあるから
なおさら楽しみにしていた。

高飛車な物言いだった直樹は
優しい口調になり
母子家庭の功は、
生活のために
出稼ぎに出ている母親のことを
自然に口にするようになって
何よりも、相手の目を見て
話せるようになった。

母子家庭を恥じていた功は
勇太郎から言われたものだ。
功もお母さんも何も悪くないんだから
堂々としていいんだ。
おじいちゃんもおばあちゃんも
毎日毎日畑仕事をして
取れた野菜を売りに行くんだし
お母さんがちゃんと働いているんだから
胸を張っていい、って
僕のパパもママも言っている。

御厨屋と志乃は
功や直樹が遊びに来ると
勇太郎の友だちでいてくれるのを
必ず丁寧に礼を言った。
頭を下げ三つ指をつく母親の志乃には
真っ赤になるくらい照れる功は
少しずつ本来の明るさを
取り戻してきたようだと
御厨屋は思う。

小腹を満たした後は
焚き木を集めて
寝泊まりの準備と
夕飯の支度に取り掛かる。

明るいうちに
済ませて置けば
あわてなくていいから、と
半蔵仕込みの勇太郎が
率先して動き回り
まるでリーダーのように
功と直樹に教えるのを見るのが
半蔵の楽しみになった。

どんなに些細なことを
質問されても
分かりやすいように 
優しい口調で話すのは
パパ譲りだろうかと
目を細めるのだ。


大きめの丸太を選び
ノコギリで十文字に
切れ目をいれ、さらに一本刻む。

切り込みの真ん中に
火種を仕込み
しばらく待っていると
丸太に火が付き
じわじわと燃え出した。

春とはいえ
夜が更けてくれば
深々と冷えてくる。

これは
私の故郷の北海道で
よくやったものです。
スェーデントーチともいい
長い時間、じっくりと
暖をとることができます。

木こりのランプのようだと
森に暮らす人たちが
言っていたものですよ。

楽しそうな半蔵が
説明するのを
勇太郎は不思議そうに
見つめていた。

直樹や功も
自分の思ったことを自然に話し出し
辛い思い出のある故郷のことは
ひとことだって
口にしなかった半蔵が
ごく当たり前のように
話し出したのだ。

焚き火を
見つめていると
心につかえたものが思い出され
炎に溶かされていくうちに
燃えて無くなるようだと
勇太郎は感じた。

焚き火を囲むと
聞き役に徹する勇太郎は
饒舌な半蔵と、功と直樹の
焚き火に照らされて
明るい顔を交互に
見合わせる。

そこには
温かな炎のように
心と心が通う空間があった。
自然、という
何よりも変えがたい宝もの。
心安らぐ場所は
森の片隅に息づいていた。