フミヤが
前にしている
古ぼけた木箱。

三右衛門が
蔵の中を整理していたら
柱の梁に
見慣れない木箱を
見つけて持ってきた。

禍々しい気を発した
重箱くらいの
大きさで、寄木細工の
凝った作りだった。

なぜこのような
物があるのか
三右衛門はわからない。

ホコリが溜まっているのは
亡くなったお艶が
持っていたものか。

三右衛門の
前妻は
元は不知火大夫と
言われたお艶。

極貧の生まれの中、
自らの美貌を利用して
遊郭に身を投じて親兄弟を
食べさせ、
田畑を買い与えたことで
ウワサがウワサを呼び
いなせ と呼ばれた男前の
気っ風の良さに、
さらに人気の拍車を
かけた。

そこに、惚れ込んだ
三右衛門は、自分の身代を賭けた
身請け金で、不知火大夫を
落籍したが、恩義を感じた
元不知火大夫 お艶は
見事な気働きと、手腕で
身代を大きくして
三右衛門に応えた。






三右衛門に
どうやって、伝えたら
いいのか
考えあぐねたフミヤの
もとに
三右衛門が訪ねて来た。

あの箱は
呪術に使われる物で
特に、女 、子どもに災いを
起こす物だが、おそらくは一度も
使われては居らず
呪物としても、すでに
その力は無いだろう と。

フミヤからの
答えが、わかっていたように
頷いて目を閉じた。

三右衛門には
籍は入れてはいないが
子どもが三人いた。
お艶とは
子どもが出来なかったが
お艶は、一度も
子どもを望んだことは
無かった。

しかし、
女は女である。

三右衛門の妾を
知っていたであろう
お艶の本心は、どうだったのか。
炎は見えなくても
嫉妬の炎は
人知れず、煌々と
燃えていたのかも知れない。

熾火のような
女心は、
今となっては分からない。
三右衛門の閉じた
まぶたの裏に
お艶の顔が浮かんでは
消えていった。