珍しく
ジュンがフミヤを
誘って
黒猫亭にやって来た。
アールグレイの茶葉を
持参して
淹れてくれるよう
頼み、一番奥のテーブルに
座った。
ジュンは
今読んでいる本の
話しをしながら
大学時代の友だちから
もらったノルウェーの
土産だという
チョコレートを広げた。
アールグレイを
運んできた女主も
交えて、話しながら
チョコレートを
勧めた。
ノルウェーの画家
ムンクの絵をいいと
言うジュンに
あんなヘンテコな絵の
どこがいいんだ
と、フミヤが答える。
ムンクの叫びという絵画は、
実は叫んでいるのではなく
自然を つんざく
終わりなき叫びを
聞いているんだ、と
オスロ美術館に行ってきた
友だちから聞いたという
ウンチクには、感心したように
相槌をうっている。
二人は
真逆の性格のようで
好みも、全く違う。
女主は
フレイヤという
お土産のチョコレートを
つまみながら
二人の会話を聞いていた。
どっちの男を
旦那にしたいか
女主は、
アレコレと楽しい妄想を
膨らませながら、
ついつい
口もとがゆるむ。
熱弁を振るう
ジュンが
ハンカチを取り出して
チョコレートの
ついた口もとを拭こうとした時
ティーカップの
中に、ハンカチを
落としてしまった。
女主は慌てて、
ハンカチを引き出して
洗いながら
JUN と、刺繍が入って
いるのが目に止まった。
ああ
奥さんがいたんだっけ
一度、財布を忘れていると
持って来た時に見かけたら
羨ましいような
美人だった。
神さまは
不公平だ
こんな綺麗な男に
あんな美人の奥さんなんて。
洗ったハンカチを
渡すと
とても素敵な
笑顔をしながら
持ち込んだ紅茶の
代金だと、お金を
払ってくれた。
看板猫の頭を
撫でながら
ドアを開ける。
なんて
小憎らしい男なんだろう。
帰りしな
坊さんの男が
振り返って
私の顔を見ながら
声をかけてきた。
あんたは
もっと笑った方がいい
笑顔は悪くない
もともとが
いい女なんだから。
金色のまなこを
開いた看板猫が
男たちの姿を
じっと
見送っていた。
