古本屋で買い求めた
本が
おかしい
と、相談があった。

見た目は
普通の本で
どうというものでもない。

読書家のジュンは
フミヤに相談する前に
自分の手元に
置いてみようと思った。

本は
ホトトギスという
明治三十年に創刊された
俳句雑誌で
夏目漱石が、この誌上に
わが輩は猫である
坊ちゃん を発表したことが
巷間伝えられている。

俳句雑誌だけに
ページに掲載されて
いるのは
俳句だけだった。

それから
三日ばかり経った頃
雑誌から
陽炎のような
白い煙が上がっていた。

水蒸気のような
白い煙は
女の姿を留めていたが
徐々に形を変えて
霧のように消えていく。

開いていたページを
見ると忍ぶ恋の句があった。
詠み手は女だが
季語は冬。

しかし
このような俳句など
いくらでもある。

フミヤに
渡そうと出かけて行ったが
寺の門前で
懐手をしたフミヤが
立っていた。




本の裏表紙の
装丁に
長い髪が一本封じてあった。

上から
薄い紙を貼ってあり
見た目は
分からない。

恋の句を詠んで
愛しい男に贈ったが
相手にされなかったの
だろうか。

すでに、過去の事なのに
引きずったまま
念だけが残る。
肉体は腐敗して消えても
髪は長く残る
まるで解けない呪文のように。