今夜は
新月だった。
仕事の忙しさに
忘れていた。

釣り仲間たちと
群馬の渓流釣りに
来ていて
夢中になって
場所を変えていたら
道に迷った。

仲間たちの
名前を呼んでも
誰も答えない。

とにかく
川を下ろうと
歩き始めたカズミの
背後に
何かの気配がした。

振り向いても
何もいない。

同じような木々の緑の中を
ひたすら歩いて
山を下った。

どのくらい
時間が経ったのか
いきなり
肩を叩かれて
振り返ったら
仲間たちだった。

何をやっていた
と、聞かれたカズミは
道を迷って
皆んなを見失ったから
川を下った
と。

青白い顔をした
仲間たちは
カズミが一人で
どんどん川を下り
先を歩いていくのが
見えたが
声をかけても
聞こえないようで
カズミの姿を追ってきた
と、言う。




車の中で
ここだけの話
というのを聞いた。

この近辺は
昔から神かくしが
あるという伝説があり
磁石の針が
ぐるぐる回って方向を
見失う土地らしい。
山菜を採りに山に入って
行方知れずになる人が
毎年のようにいるという。

気がついたら
新月だった。
お姉ちゃんが
守ってくれた
そう思いながら
車の窓から新月の
夜空を見上げる。

カズミにしか
見えない
満月が
そこにあるようだった。