ジュンは
不動産業を営んでいるが
会社の入り口の
カウンターには
黒い招き猫が
置いてある。

跡目を継いだ折に
挨拶をしに行った先の
三右衛門から
貰ったものだ。

たまに、
三右衛門が
ジュンの顔を見に覗くと
客がいない時は
必ず本を読んでいる。
とにかく、
勉強家で愛妻家。
朴念仁の団十郎と
密かにアダ名を付けていた。

ある日
朝帰りの三右衛門が
ふらりと立ち寄った
喫茶店の奥のテーブルに
ジュンが座って
分厚い本を読んでいた。

三右衛門は
入り口のそばの
テーブルに座りながら
コーヒーを
頼んだ。

ここの
看板の雌の黒猫は
かなりの年をとっていて
いつも、
カウンターの上に
ハコになって座り
居眠りをしている。




コーヒーを飲み干し
帰ろうと
腰を上げながら
カウンターの
黒猫を見た。
年のせいか
白い毛が混じっている。

婆さん猫や
おあいそ
と、懐の財布を
取り出しながら
黒猫を触わり
手を引っかかれた
三右衛門が声を上げた。

ジュンが
本から目を離して
三右衛門に
ニッコリと挨拶する。

腕時計を見た
ジュンも帰るらしく
小銭を出しながら
黒猫の頭を撫でて
長生きしろよ
と、声をかける。

ついでのように
女には優しくしないと
と、言われた
三右衛門は
カタブツのジュンの
口から出る言葉とは
思えず、少なからず驚いた。

これは
ひとつ
取られたな。

呟きながら
カウンターを見れば
黒猫の金目が
じっと見つめている。

その丸い
金色のまなこは
おまえも
まだまだだね と、
言っているようだった。