町内の老人会
みずほの会は
ご隠居が会長をつとめる。
この中に
歌舞伎好きが何人もいて
殊に、11代目団十郎の贔屓が
五人いた。
町内に三つの蔵を持つ
お大尽 三右衛門は
昔は不知火大夫という
花魁を落籍して
妻とし、この妻の手腕で
商売を大きくした。
かなり前に
妻を亡くし
悠々自適な隠居生活だったが
三年前に後妻をもらい
若返った。
ジュンが
跡目を継いだ時
挨拶に来たジュンを
気に入り、以来長い付き合いを
していたが、
畳屋の隠居が
出入りしているのが
今ひとつ気にいらない。
先祖代々の墓がある
寺の住職に
相談した。
ヤクザの組長を
やっているような男は
どのようなものが
好きなのかと。
三右衛門からは
南方熊楠の
全集が届いた。
フミヤから
南方熊楠の蔵書を借りて
読み、面白いと思った。
近所の本屋にはなく
日本橋の
丸善にでも行って
買い求めようと思っていた
矢先だった。
暇があれば全集を
読んでいるという
ジュンは
将棋を指しにくる
ご隠居に居留守を使う。
母親の墓参りのときに
待っていたように
寺の門の前に立つ
フミヤが言った。
どうだ、
本は届いたか?
熊楠は欲しかった
本だろう?と、
いたずらっぽい顔つきで
話し出した。
あの
三右衛門は若い頃から
剛毅な男で、なんでも
自分が一番でないと
気がすまない。
だから
自分が一番だと
思わせておくのが
間違いない。
ジュンは納得したが、
この三右衛門は
毎年の布施の額が
五本の指に入るとは
フミヤしか
知らない。
