物おもえば
沢の蛍も
わが身より
あくがれ出づる
魂かとぞみる

和泉式部の和歌を
読んでいた。

フミヤの書斎には
いろいろな
本がある。
たまに珍しい蔵書もあり
ジュンも借りて
読んでいた。

ふと、円窓から
外を見ると
露草にホタルが
止まっている柄の
浴衣を着た女が
庭に佇んでいた。

顔はよく見えないが
ほっそりとした
小柄な
女だった。

手元に目をやり
再び
外を見たが
女はいなかった。

フミヤが
アルバムを広げて
クラス会のメンバーを
思い出していた。
今年は
自分が幹事をやるんだ
と、言っている。

今では
想像もできないくらい
フミヤって、ずいぶん
可愛いお坊っちゃま
だったんだなぁ
と、アルバムを
横から眺めていた。

が、ふと
さっきまで
佇んでいた
女の話しをした。

露草にホタルが
止まっている柄
と、言った途端に
フミヤの顔が
白くなった。

アルバムをめくり
変色した写真を
見せてくれた。
自分で盗み撮りした
ものらしい。

寂しげな
面ざしをして
露草に
ホタルをあしらった柄の
浴衣を着た女。

フミヤの
初恋の相手
茶道の先生だった。

しばらく
放心したように
ボーっとしていたが
自分の父親の墓に
きたのだろう
と、取り繕った。




その夜は
スイさんが
手打ちウドンを
振る舞ってくれて
食べながら
庭を見ると
蛍が飛んでいた。

開け放した窓から
ふうわりと
飛んできて

まるで
人を選んだように
フミヤの胸に
止まり
しばらくの間
光っていた。