ご隠居の
知り合いの画廊から
絵の鑑定を頼まれ
話しが弾み遅くなった。

銀座からタクシーで
帰ろうと並木通りに
出たところで
何かが 足元に
まとわりついた。

見れば
真っ白な猫だった。
野良猫とも思えない
綺麗な猫は
執拗にジュンの足元に
絡まり、離れようとしない。

拾ったタクシーに
乗ってきた猫は
ジュンの膝の上に上がり込み
動こうともしなかった。
仕方なくそのまま
家に連れて帰った。

ツカサ姐さんに
事情を話し
白い猫をみせたが
拾った猫は
左右の目の色が違う
オッドアイだった。

白い猫が来て
二日目にツカサ姐さんが
根を上げた。

とにかく
ジュンから離れようとしない。
どこに行くにも
付いてくる。
エサはジュンから
もらわないと食べない
夜は、ジュンの胸の上に
丸くなって寝る。

白いスーツに
ボルサリーノを被った
ジュンの後を
付いてくる 白い猫に
モテる男はツライね
と、和菓子屋のカミさんから
からかわれた。

一週間が過ぎ
さすがに
ツカサ姐さんが
サジを投げた。

白い猫は
ジュンだけを見ていて
ツカサ姐さんは
まるで
見えていないようだった。

ジュンは
思い出した。
画廊で鑑定した
数枚の絵の中にあった
藤田嗣治の絵を。

白い猫 という
贋作だった。

画廊に行き
もう一度見た。

画廊の店主の
話では、
第二次大戦中に
スイスで藤田嗣治の絵を
手に入れた曽祖父の
遺品だと
売りに来た女から
一目見て気に入り
買い求めたらしい。

自分の目利きに
自信のあった
店主は
贋作とは
思わなかった。

そういえば
売りに来た女は
目の色が
左右で違っていて
薄気味悪く思った
と、言っていた。





ここ十日ばかりの話しを
聞いていたフミヤが
ブランデーを
飲みながら
呟いた。

贋作とは
言われたくなかった。

ジュンが
女心ってヤツか?
と、微笑む。

白い猫は
いつも、足元で
ジュンを見上げて
鳴いていた。
あれは、抗議だったのか?

突然、消えるように
いなくなった
白い猫。

ブランデーを注いだグラスを
テーブルのスミに
置いたジュンが
囁いた。

あのときは
悪かったな。

にゃ〜ん
と、微かな猫の
鳴き声が
聞こえたようだった。