カズミが飼っていた
雑種の犬 コロは
10年生きた。
中古だったが
新居に引っ越した
ばかりの頃に
大雨が降るなか
近道だろうと
公園を抜けて行こうと
したら、
仔犬の鳴き声を聞き
家に連れて帰った。
動物の好きな
妻は喜び、雨で濡れた仔犬を
お風呂に入れ
ごはんを与えた。
カズミも
自分のおかずの
トンカツをひとつ
コロのごはんの上に
載せてやり
一緒に夕飯を食べた。
妻が
買い物ついでに
コロを散歩させると
道行く人々が
可愛いですねと
声をかけてくれる。
コロという
名前の通り
コロコロとした
愛らしい犬だった。
昼間は
庭の犬小屋にいたが
夜は
玄関の中に入れていた。
夜遅くに
カズミが帰ってくると
必ずお座りをしていて、
シッポを振りながら
出迎えてくれた。
ある夜中に
妻は
コロの押し殺したような
異様な唸り声で
目を覚ました。
カズミは出張で
いない。
起き上がろうとしたが
身体が動かない。
目だけで
あたりを見回した。
何かが
揺れている。
木の枝に何かが
ぶら下がって
揺れている。
ベッドに
寝ているのに
玄関の外が見えた。
コロが
じっと見上げて
唸り声をあげている。
あれは
なんだろう
あれは。
気がつくと
朝だった。
兄貴から
紹介された坊さんの
フミヤが
いきなり言ってきた。
今いる家から出ろ
奥さんを
もっていかれるぞ
カズミは
意味が分からずに
いたが、顔色の悪い
妻の話しを聞いて
すぐに引っ越した。
それからコロは
長生きをして
眠るように死んだが
カズミの妻は
しばらくの間、コロの気配を
感じていた。
守ってくれているのか、
とカズミといっしょに
墓に手を合わせたが
コロの気配が消えた日に
今度は、シェパードが
カズミのところに
やって来た。
妻が
一目で気に入って
買ってきたのだった。
カズミとフミヤの
昔話を聞いていた。
あの時、カズミは
オレの言ったことを
信じていなかったよな
オレは
警察官だからな
疑うのが仕事だ。
笑いながら
カズミが言う。
毎晩遅く帰って来ると
コロは
自分ではなく
自分の背後を見ていた。
コロの目線を辿ると
松の太い枝が伸びていたが
その枝には
なにか紐をかけたような
跡がついていた。
コロは
夜はいつも起きて
カズミが開けるドアの
向こうを見つめていると
気がついた。
水割りを
飲み干し
お前の言うことが
ピンときたのさ
あの時は助かったよ
そう言って
フミヤの顔を見た。
