ご隠居は
たまにジュンの
墓参りに
ついて来るときがある。
昔、
若かりし頃に
入れ揚げた花魁
村雨さんの墓がある
という。
花魁の村雨さんは
ご隠居のライバルだった
大工の棟梁に
落籍された。
ほっそりした
身体つきに
切れ長の目をした
色白の美形で
花しょうぶのような
凛とした
花魁だった。
棟梁のカミさんに
なってからは
化粧っ気のない
すっぴんに
凄みが増して
気の荒い若衆を
アゴで動かした。
ご隠居は
一世一代の恋に破れ
散々遊廓で遊んでいた
が、ある日
村雨さんが
物陰から
ご隠居をじっと
見つめていることに
気がついた。
棟梁の家は
ご隠居の家に近く
遊廓に居続けた
朝帰りに
村雨さんと出くわした。
半衿の色を見たら
ご隠居がくれてやった
色だった。
ご隠居は
胸が熱くなったが
村雨さんは
じっと見つめる
だけだった。
五年が経ち
ご隠居は
いっぱしの畳職人になり
カミさんももらい
店を構えたが
数年前に
村雨さんは
結核で
亡くなっていた。
なぜ、
はるか年上の
棟梁の後添いになったのか
なぜ、
二世を誓った自分を
捨てたのか
若かったご隠居には
わからなかった。
村雨さんの
墓の前で手を合わせ
ジュンに
話してくれたらしい。
女とは
なんといじましく
かわいいものか。
村雨さんの墓に
酒を供えながら
ご隠居が
呟いた。
花しょうぶの
花言葉は
心意気
花魁 村雨太夫に
ふさわしい
花だと思った。
