時季外れの
風邪を引いて
寝込んでいるという
フミヤを見舞った。
たまに
アールグレイに
入れると言っていた
コニャックを手土産に。
佐助さんが
水撒きをした庭に
小さな紫陽花が
生き生きと咲いている。
婆やさんの
スイさんに挨拶をして
コニャックを
手渡した。
佐助さんの
何か言いたげな顔を
見つけ、話しかけた。
フミヤの
腹違いの兄が亡くなったとの
短い電報が届いたらしい。
長く肺を患って
いたようだ。
フミヤには
他にも、腹違いの
妹がいた。
たまに
兄弟とは、どのようなものか
佐助さんに聞いてきたそうで
坊っちゃまには
ちゃんとお友達という
兄さんたちが
いらっしゃるでしょう
と、答えていたらしい。
フミヤにしてみれば
腹違いでも
兄弟がいたら面倒をみたい
と、思っていたようだ。
それは、
父親の不始末の責任を取る
といった世間体ではなく
憧れのような気持ちだった
と、佐助さんが
ポツリと言った。
家族団欒というものは
フミヤには
無かったようだ。
子どもの頃は
誕生日のケーキを
佐助さんとスイさんの
三人で食べていた。
両親と
もし自分に
兄弟や姉妹がいたら。
どうだったか。
考えても
答えの出ない数式の
ような思い。
庭の紫陽花は
スイさんが
植えた。
紫陽花の
花言葉は 移り気
だが
家族団欒という
意味もあるという。
寝ているフミヤの
顔を覗き
となりの書斎の
机の上の本に
目が止まった。
紫陽花の花が
見える、フミヤの
書斎にあった
栞を挟んだ
読みかけの
トーマス ウルフの
天使よ故郷を見よ
これは自伝的小説で
父母や兄との葛藤、
思春期の恋愛などの
エピソードを
ほとばしるような情熱的な
文章で語る、
膨大な作品である。
