佐助さんの
連れ合いのスイさんは
枇杷の種で
お酒を作っていた。
寺の広い敷地の裏には
大きな枇杷の木が
数本あったが
一般に
庭に枇杷の木を
植えると、病人が絶えない
とか、家が倒れる
という言い伝えがある。
家を覆い尽くすほど
高くなる木で
葉が日を遮るから
そういった
言い伝えが出来たのだろうと
佐助さんが
言っていた。
フミヤは
植木屋に庭の手入れや
樹木の伐採を頼んでいたが
花の咲く木や
実のなる木は大切に
していた。
柿や、梅、桃、ミカン、
ブドウ、アンズ、無花果、
枇杷の木があるが
佐助さんやスイさんは
季節ごとの実がなるのを
楽しみにしていたからだ。
檀家の人が
墓まいりのついでに
住職のフミヤに
話しをしに寄るが
その季節により
佐助さんは
お茶と一緒に
敷地に実る果実を
供する。
佐助さんは
幼くして喪った娘の
命日が近づくことを
感じながら
毎年実る
枇杷の実を採るという。
先代の旦那様が
建てて下さった小さな墓に
毎年、フミヤ坊っちゃまが
庭の吾亦紅を供えて
経を読んでくださる。
フミヤ坊っちゃまは
枇杷の花言葉には
愛の記憶
という意味もある
ということも
教えてくださった。
檀家の人たちに
敷地に実る果実を
勧めると、
フミヤ坊っちゃまは
真っ先に手を伸ばす。
茶菓子には
滅多に手を出さない
フミヤ坊っちゃまだが
家内の言う通り
敷地内に実る果実だけは
美味しそうに
召し上がる。
敷地内で採った果実を
出すときは
フミヤ坊っちゃまの分まで
多めに出すように
家内に言われていた。
家内には
まるで、
亡くなった娘が
食べるように見えるのか。
手拭きのタオルを
坊っちゃまの分まで
用意しなければ。
佐助さんは
いそいそと
台所に引き返した。
