看護師になってはみたけれど… -5ページ目

看護師になってはみたけれど…

看護師になってはみたんだけど。
まぁね。いろいろあります。

看護管理室の奥に看護部長室はある。
『どうぞ~』眼光鋭い部長には似つかわしくない甘ったるい声だった。



また、ここでも事情聴取。
長時間の残業が常態化していること。激やせした体調のこと。折れてしまった心のこと。空回りしている家庭のこと。疲弊してきているこどもたちのことなどをひとしきり話した。
その間、面談シートなる紙にメモをとりながら、部長は黙って話を聞いていた。



しばらくの沈黙の後、ターンは部長へ…。
口を開いた瞬間、さっきまでの甘ったるい声が嘘みたいに猛々しく変化した。
『あなたね、家族がね、母親がね、看護師になるってことがどういうことか、夫にこどもたちに覚悟が足りないわよ。お母さんが残業で遅くなるだったら帰るまで、菓子パン食べさせればいいのよ。夕飯、作らせたっていいじゃない。甘い!甘い!甘いわよ!ムキー』捲し立てるように話は続く。

『仕事100%で取り組むことを最優先にしてもらわなきゃ、困るのよ。1年目なんだから。家族には犠牲になってもらって!それもしょうがないことなのよ。それが看護師になるってことなの!』

『今、あなたが異動して何ができるの?外来に行くとかね、血浄行くとかね、残業やりたくないからって、異動の希望出すなんて許さないから。わかった?』

矢継ぎ早に尖った痛い言葉が投げ掛けられる。
まだまだまだまだいろいろ言われた。
だが、くたくたに弱ってる心ではもうこれ以上はムリ!と判断した。
ブレーカーが落ちた。
心が動かなくなった。
身体中の筋肉が固まり表情も動かなくなった。
一段と重くなる心と身体。
もう何を言われても聞こえない。
響かない。
フリーズした。



私に対して言いたいことを言い尽くした部長は気が済んだのだろう。続いて声高に自慢話を始めた。いかにしてこの地位まできたのか。結婚後も実母と同居して、すべてお任せだったという家庭の話。子育てした記憶がない…母子手帳は白紙だったというエピソード。誰得な話なんだろう?っていう内容ばかり。楽しそうだなぁ…自分が大好きなんだなぁ…この人。愛想笑いが引きつっていたはず。部長はまた気が済んだのだろう。沈黙が流れる。



空気を読んで、声を振り絞る。『お忙しい中、お時間いただきましてありがとうございました。失礼します。』かっちこちになった身体と心で看護部長室を後にした。



針の先でチクッと刺されたくらいではあったが、退職という考えが芽生えたのはこの時だった。
『もう、ここにはいられない…』



そんなこんなで休職期間に突入した。
そこからもう3ヶ月近く経った。
休職が明けてからのこと。また書きます。