こんにちは。行政書士の名倉武之です。

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令和6年3月19日「遺言無効確認等請求事件」に関する最高裁判決(最高裁判所第三小法廷)がありました。

とても興味深い最高裁判決だと思いましたので、ご紹介させていただきます。

全文はこちらになります。

また、当該最高裁判決前の、本事件の概要(原判決及び争点)はこちらになります。

 

以下、イラストを用いて説明いたします。

・①原告主張:不動産の時効取得

・②上告人主張:相続回復請求権の消滅時効

・東京高裁は原告主張を認めた(①に軍配)

・そこで、最高裁で争うことになった

・結論:原告の勝訴(上告を棄却)

 

(出所)日本経済新聞2024年3月19日17:00より抜粋

 

<被相続人>

・平成13年4月、法定相続人原告(A)以外に、BとC(Aのいとこ)を含む3名に遺産を等しく分与する旨の自筆証書遺言を作成

・平成16年2月13日に死亡

・不動産(本事件の対象)を所有

 

<原告>

・被相続人の死亡時、法定相続人は養子のAのみ

・Aは平成16年3月、当該不動産につき所有権移転登記(Aを単独名義)

・Aは所有の意思をもって、遺言書の存在を知らず、過失なく単独で不動産を所有

(善意・無過失で所有)

 

  • 被相続人の死後10年以上経って遺言書を発見
  • 遺言書の内容は「遺産はA,B,Cで三等分」

<原告(A)の主張>

被相続人の死後10年以上、善意・無過失で当該不動産を占有しているため、民法162条(所有権の取得時効)の第2項により、当該不動産の所有権を取得している。

 

(所有権の取得時効)

第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

 

<上告人(Bら)の主張>

・Bが遺言の事実を知ったときから5年が経過していない。民法884条「相続回復請求権の消滅時効」が完成していないため、Aは消滅時効の完成前に各共有持分権を時効により取得することはできない(Aの単独名義は間違っている)。

 

(相続回復請求権)

第884条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。

 

<最高裁の考え方>

  • 民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効と同法162条所定の所有権の取得時効とは要件及び効果を異にする別個の制度
  • 民法その他の法令において、相続回復請求の相手方である表見相続人が、上記消滅時効が完成する前に、相続回復請求権を有する真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられる旨を定めた規定は存しない。​​​​​​​
  • 表見相続人が同法162条所定の時効取得の要件を満たしたにもかかわらず、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより、当該真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられると解することは、同法884条所定の相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨に整合しないものというべきである。

※表見相続人とは、「実際に相続人ではない、もしくは、相続人ではあるが他の相続人の持ち分を侵害している人」のことを言います。本事件の場合、上告人から見れば、原告Aは表見相続人であり、BやCが真正相続人であると主張

 

詳細は、冒頭に示した最高裁判決の全文をご確認ください。

 

次に、民法884条「相続回復請求権の消滅時効」の考え方について、別の判決をご紹介します。

・ 昭和53年12月20日  昭和48(オ)854 最高裁判所大法廷

全文はこちらになります。事件の概要は以下

 

・不動産を所有の夫(被相続人)が死亡

・相続人は妻、長男の子、次男の子、三男と四男

長男の子、三男と四男は、次男の子の同意を得ることなく、夫の相続財産の不動産について、それぞれが単独名義で所有権移転登記を取得

・次男の子は、登記の存在を知ってから8年後に、自身の共有持分権が侵害されたとして、民法884条の相続回復請求権を行使し、所有権移転登記の抹消登記手続を求めて提訴

・長男の子らは、次男の子の請求が民法884条が定める相続回復請求権の消滅時効(5年)を経過していると反論

 

最高裁は民法884条の趣旨を以下のように示し、上告(上告人:長男の子ら)を棄却

  • 民法884条の相続回復請求の制度は、いわゆる表見相続人が真正相続人の相続権を否定し相続の目的たる権利を侵害している場合に、真正相続人が 自己の相続権を主張して表見相続人に対し侵害の排除を請求することにより、真正相続人に相続権を回復させようとするものである。
  • そして、同条が相続回復請求権について消滅時効を定めたのは、表見相続人が外見上相続により相続財産を取得したような事実状態が生じたのち相当年月を経てからこの事実状態を覆滅して真正相続人に権利を回復させることにより当事者又は第三者の権利義務関係に混乱を生じさせることのないよう相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期にかつ終局的に確定させるという趣旨に出たものである。

これを踏まえると、今回ご紹介した令和6年事件において、「相続回復請求権の消滅時効(侵害の事実を知った時から5年間)に基づき、原告Aによる不動産の単独所有は無効であるとの上告人の主張」を《棄却》した理由がお分かりになるかと思います。

 

「相続人は自分だけと思っていたら、数年経って、遺言書が発見され、遺言書には自分以外の相続人の名前が記されていた」というケースは、十分に考えられます。

そのため、遺産分割後に想定しないレアケースが発生した場合には、士業の専門家にご相談することをおススメします。

 

通常、訴訟になる前に当事者間での話し合いが想定されます。「先ずは様子を見てから…」と考えていると、突然、訴状が送られてくるということも考えられます。レアケースにおいては、訴訟を念頭においた早めの備え(事実の確認と各種情報の収集など)が必要だと思います。

 

行政書士は、訴訟になる前の予防法務(紛争の防止や、もしものときの対処)として、ご相談に応じることができます。

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