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キャパの写真で、歴史的に見ても貴重な写真は、ノルマンディ上陸作戦の写真があげられる。
史上最大の作戦として、第二次世界大戦のターニングポイントとなる戦闘で、いくつかの上陸ポイントの中で、一番過酷なオハマビーチを撮影したことは、すごいことだ。
スピルバーグが製作した「プライベートライアン」では、開始5分でオハマビーチの戦闘シーンが描かれ、今までの戦争映画の中でも最も激しいシーンを見せつけられた。
まさしく銃弾の雨あられの中を突っ込んでいく上陸艇から最初のフランスの地が見せた姿は、ロンメル将軍が細工した障害物がオブジェとして点在する身のかくしょうもない地獄の海岸であった。この映画がリアリティにあふれていたのは、キャパの写真のおかげだろう。
キャパが捉えたノルマンディの風景が、映像として展開していた。
キャパは、この時108枚の写真を撮影したが、写真の処理にあわてたライフのロンドン事務所がフィルムの乾燥に失敗し、8枚以外はすべて駄目になったといういわくつきの写真である。
当然残った写真も乳剤が溶ける手前の写真だから本来の写真より荒れた感じに仕上がっている。この時ライフの編集長は、写真のキャプションに「その時キャパの手は震えていた」と付け加えた。これが、歴史的に有名なキャプションとして、写真より有名な言葉として記憶に残ることになる。
ちなみに当時ライフのロンドン事務所には、ラリーバローツがいて、キャパの写真に触発され、キャパのような写真を撮りたいと思ったみたいだ。
またドラマチックに考えるとラリーがキャパの写真を駄目にしてしまい、それに反省したラリーが、キャパの跡を継いでベトナムの写真を撮り出したというストーリーが出来る。ラリーは、ベトナム戦争の取材で、後のロバートキャパ賞を3回も受賞している。まるでキャパのスピリットがのり移ったように活躍するラリーもベトナムの露と消えてしまった。
ところで、実際写真として使えたカットは、11枚あり、それとは別にローライで捉えた写真が何枚かあるのでもう少しキャパの見た風景は再現されるのだが、フィルム2本の中に隠されたすさまじいシーンは永久にこの世から消えてしまった。
普通キャパは、人の批判をよくするタイプであると言われている。しかし、この写真でライフのスタッフに対しての批判はされなかった。
ここで不思議なのは、キャパは、なぜフィルムを駄目にしたライフに文句をいわなかったかである。
推測できる解答は2つある。
一つは、すでにライフに堂々と掲載され、ピンボケブレぶれの写真にも関わらずキャプションが素晴らしかったので、人々から賞賛を浴びたので黙ってしまった。もちろんギャラもたんまり入ったのでそんなにこだわらずにすんだ。
もう一つは、キャパは、過去の自分の失敗をかえりみて、自分もこんな失敗したなと思い出して、暗室マンを責めなかったという説である。
事実キャパは、暗室係の時代、同じような失敗をしたことがあるみたいだ。これに粋を感じたライフのスタッフたちが、キャパの意志を継いでキャパの死後良い仕事をしたのではないかと思う。
そう考えるとキャパは、非常に人間味あふれ、友人や後輩を大切にするナイスガイであることが理解できる。