東京メルパルクホールで27日に開催された

 

舟木一夫後援会主催のラブリーコンサート

 

今回は「芝居唄」とでもいうべき歌の数々。

 

二階まで満員の会場の幕が上がり、白い着流し姿の舟木さん登場。

 

着物の趣味も着こなしも若い時から秀逸の舟木さん。

 

襟もとを直されるしぐさが、ことのほか艶っぽい。

 

『旅姿三人男』から始まったこの日のコンサート。

 

今までも、コンサートで細切れにいろいろな芝居の歌を歌ってはいるけれど

 

まとめて歌ってみようというのが今回のコンサートのコンセプトのようでした。

 

ご自分も舞台で演じられた『雪の渡り鳥』まで5曲が股旅もの。

 

同じような曲調の歌だけれど、4行詩で綴られた三度笠の世界は

 

内容は明るくないのに、歌っているうちに気持ちよくなる歌とおっしゃるように

 

確かに、詩は堅気の世をはぐれ、旅から旅への旅鴉の世界。

 

今回歌われた『妻恋道中』(藤田まさと作詞)の歌詞を見ても

 

”好いた女房に三下り半を投げて長脇差(ながどす)永の旅”

 

と、世を拗ねて身を持ち崩す話なのに、曲調もあってか

 

聞いているうちに自然と体で拍子をとってしまうような歌が多いのは確かです。

 

 

股旅ものと言えば思い出すのは、若い頃のLPレコード

 

『渡世人-舟木一夫三度笠を歌う』

 

 

 

 

 

今回歌われた歌の中でここに入っているのは『旅姿三人男』だけですが

 

LPが発売された後の何かのコンサートの折、

 

「吹込みをしたときは一番ボルテージが下がっていた時。

 

また機会があれば吹き込み直したい。」

 

旨のことをおっしゃっていた記憶が。

 

そのままになってしまいましたが、これも好きなLPの一つで

 

自分用にカセットテープやMDにダビングし、その最後に、後に出された

 

舟木さん作詞作曲の『さくら仁義』を加えて聞いていたものでした。

 

『さくら仁義』はお芝居は見られませんでしたが、15周年の記念の舞台。

 

これまでの股旅ものの詩の形態を踏襲しつつ、

 

さらに凝縮したような言葉の選択は見事です。

 

 

『さくら仁義』 すずきじろう作詞 幸田成夫作曲

 

 1.わらじ一年 合羽で二年 

   脇差を抱き寝の三年越し

   さくら仁義に啖呵の花が

   咲いて小粋な旅がらす

   なぜに堅気をすねたやら

 

 2.惚れた弱味を まぎらす酒に

   いつか呑まれて 涙ぐせ

   さくらつぼみの あの娘の肩に

   野暮なせりふを二つ三つ

   かけたあの日が命取り

 

 3.笠に重たい 渡世の義理を 

   意地で支えて 越す峠

   さくら吹雪に おふくろさんの

   背伸びするよな 声がする

   それがやくざの泣きどころ

 

特に3番の「さくら吹雪におふくろさんの背伸びするよな声がする」

 

という詩には息子を心配しつつ見送る母の気持ちがよくわかる

 

身につまされる歌詞なのです(´_`。)

 

今回は基本的にご自分の持ち歌は歌われないコンサートなので

 

これは歌われませんでしたが、今のお声で聞いてみたい歌の一つです。

 

 

次は映画の主題歌。

 

映画と言えば一番題材にされているのが『雪之丞変化』

 

長谷川一夫さん、東千代之介さん、美空ひばりさんが、

 

この映画会社で何本、あの映画会社で何本撮られている・・・

 

と、立て板に水のように挙げられる、その記憶力の良さには今更ながら驚かされます。

 

お三味線、それも江戸三味線の豊藤美さんは、こうした和物を歌われる時には

 

必ず伴奏してくださるおねえさま。

 

少しお痩せになられたかなと思うくらいで、本当にお年を取られていません。

 

舟木さんも「本当に変わられませんよね。どうみても15、6にしか見えない(^O^)」

 

お弟子さんの豊藤馨さんもご一緒。

 

私の曾祖母も9歳で三味線の名取になった人。

 

生家の蔵には祖母の使っていた三味線があり、私も幼い頃

 

習ってみたいなと思っていたので、三味線の音を聞くと懐かしい気持ちにかられます。

 

『雪之丞変化』はひばりさんの映画をテレビでみたくらいですが、

 

『むらさき小唄』『江戸の闇太郎』など、主題歌を聞いているだけでも実際に

 

映画を見ているような気分にさせられます。

 

特に闇太郎の時の舟木さん、遊び人風に何気なく片手を袂に入れて歌われる

 

その自然な仕草の格好良いことと言ったら(*v.v)。

 

以前のふれんどコンサートで、ひばりさんの歌ばかりを集めて歌われた時、

 

「歌で見栄を切れるのはひばりさんだけ。」とおっしゃっていたことが忘れられません。

 

 

着替えの時のバックの演奏は『お富さん』

 

お着替えしてから歌われたこの曲は

 

『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』

 

通称「切られの与三」を題材として作られた歌。

 

今年のコクーン歌舞伎、そして松本大歌舞伎もこの演目。

 

私は見に行かれませんが中村七之助丈が与三郎を演じられます。

 

 

歌舞伎に題材をとった歌謡曲はあまりないけれど

 

『白波五人男』の1人『弁天小僧菊之助』と『三人吉三』を題材にした『お嬢吉三』

 

そして『お染久松』を題材にした『野崎小唄』

 

松也さんがコクーンでお坊吉三をやられた時、見に行かれたとおっしゃってましたが

 

私も松本でやられたこのお芝居、見に行きました。→

 

弁天小僧菊之助の”しらざぁ言ってきかせやしょう”

 

お嬢吉三の”こいつぁ春から縁起がいいわい” 

 

などの名台詞が歌詞に含まれているこれらの歌を聴いていると、

 

まるで歌舞伎の舞台を何本も見たような気分になります。

 

若い頃、何かの雑誌で舟木さんの女形に扮した写真を見た記憶があり

 

『雪之丞変化』の扮装かしらとお尋ねたしたところ、昔をよく知る舟友さんに

 

それは御園座で昭和45年にやられたお嬢吉三の扮装だと教えて頂き

 

長い間の疑問が解け感謝したのでしたm(_ _ )m

 

 

今では無くなってしまった新国劇。当時は、島田、辰巳が二枚看板。

 

島田正吾さんとは映画『夕笛』で共演されていますし、

 

その他の新国劇の役者さんとも、大勢共演されています。

 

辰巳さんのやられたお芝居の主題歌はあるけれど島田さんのは何故か少ない。

 

『人生劇場』『無法松の一生』『王将』

 

舟木さんの容貌からは真逆の歌のような印象をうけるかもしれませんが

 

以前も書いたように、特に舟木さんの歌う『王将』は絶品(*^.^*)

 

 

最後はこれぞ芝居唄の真骨頂。新派のお芝居の歌。

 

かつて、新派に誘われたこともある舟木さんだからこそ

 

「新派の古典(今回歌われたような)とも言うべき芝居がなかなかかからなくなった

 

できればこういう舞台を見たいと思っている観客の1人。」

 

とおっしゃったことも頷けます。

 

『隅田川』『十三夜』『明治一代女』そして『湯島の白梅』

 

昭和53年に1枚だけ出された『ふれんどコンサート』のLPにも

 

『明治一代女』と『湯島の白梅』が入っています。

 

今回は台詞はありませんでしたが、このレコードには『湯島の白梅』1番の後に

 

 ”お蔦 俺と別れてくんなよ

 無理は承知なんだ

 真砂町の先生のいいつけなんだヨ

 たのむ 俺と切れるといってくれ

 なあなあ お蔦”

 

の台詞が入っていました。

 

 

『湯島の白梅』は言わずと知れた泉鏡花『婦系図』が題材。

 

早瀬主税とお蔦の悲恋物語ですね。

 

まさに新派の王道と言ったお芝居でしょうか。

 

2番の”忘れられよか筒井筒”「筒井筒(つついづつ)」は言うまでもなく

 

伊勢物語

 

”筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに”

 

からの引用で、昔の詩の何と素晴らしいことかと思ってしまいます(*^.^*)

 

 

そしてアンコールはそれを受けて、あの『英もよう』

 

 

舟木さんが、英太郎さんに請われて英さんのために作られた曲。

 

”…「湯島の境内」(ゆしま)見るよな朧月”

 

英さんの舞台の姿を思い出し、ほろりとさせられました。

 

 

 

残念ながら実際の新派のお芝居は見る機会が無く、テレビでしか見たことのない私ですが

 

舞台を何本も見た後のような濃密な時間を堪能した、満足のコンサートでした。