日本のアカデミーはどこを目指しているのか、どこを目指すべきなのか。現場と本部との間に見えるギャップ、イメージの相違。世間の”エリート”という言葉に対する嫌悪感。有意義になりうるポテンシャルを持っているアカデミーをどう育て上げ、どう認識していけばいいのか。そこで今回は一例としてスイスサッカー協会が行っているタレント育成センターを取り上げてみようと思う。

欧州選手権のホスト国スイスは近年ユース年代では欧州選手権で何度も優勝するなど育成年代での充実振りに定評がある。アーセナルでプレーするセンドロスをはじめ、各国の一部リーグで活躍する若手選手も多い。またFCバーゼルをはじめとするクラブでもユースのレベルは非常に高いものがある。

スイスは非常に狭い国土に、決して一流とはいえないトップリーグを持ちながら、このデメリットを跳ね返し、2006年ドイツワールドカップではソリッドで流動的な戦いぶりを見せ、ベスト16進出を果たし、さらには唯一の無失点チームとなった。

昨年オーストリアで行われた日本戦でも、特に前半30分までは日本の攻撃をほぼ完璧に封じ、すばやく幅のある攻撃で2得点を奪った。後半主力選手を下げたことで、そして日本が吹っ切れたプレーを展開することで最終的に日本は勝利を果たした。しかし各選手の確かな技術、走りの量と質、サッカーをよく知った動きと展開はさすが欧州の一流国と思わせるものだった。

そんなスイスでも、更なるタレント育成を目指して、近年タレント育成センターが開設された。最初に作られた場所がピエルネ、その後2005年にテネロ、2006年にエメンでもスタート、フットビルでは2004年に少女育成センターがスタートした。

タレント育成センターが掲げる目標は、a:プロサッカー選手の育成b:U16代表主力の育成とされている。そして「タレント豊富な選手の”プロサッカー選手になる”という夢を夢で終わらせないために、育成センターでは成長の場を提供。将来プロ選手としてやっていけることを主眼においた最高レベルのトレーニングを行う。そして選手としての成長を最大限サポートすると同時に、場合によっては選手としてのキャリアをあきらめ社会人としてやっていかなければならないことも考慮し、キャリアアップサポートも行う。」と記述されている。まあ、ここまでは日本のアカデミーでも考慮されている。

注目すべきは次にあげるタレント育成センターの存在意義。

育成センターではホストファミリーの元で寝泊りしながら月曜日から金曜日まで学校に通いながら、練習に励む。そして金曜日に所属クラブへ戻り、土曜日にクラブで練習。日曜日に所属クラブで試合に出場し、また育成センターに戻ってくる、という形がとられている。

こうすることで徹底した基礎技術の習得、ハイレベルなサッカーでもとめられるの動きの習得、経験豊富な育成世代のプロコーチの元での指導と同時に、”ハイレベルなリーグ戦を戦う”という絶対必要条件も満たすことができている。

育成センターで練習する仲間とばらばらでゲームを行うことは、チームでの戦い、組織での戦いを学ぶという点でマイナスと見られるかもしれない。しかしスイスサッカー協会が掲げるタレント育成センターの哲学として”選手個人のサッカー選手としてのレベルアップ”が最重要ポイントとされており、また欧州のサッカーでは選手はそれぞれ自分の武器を持ちえなければ戦えないという背景もある。サッカー選手としてのあらゆる分野でのベースを持つことと同時に、自分にしかない武器を磨くには、あるいはチームの中心選手として、チームを引っ張ることを自覚させるためにはこうしたやり方は非常に効果的であるといえる。またサッカーとは常に同じ仲間と同じように戦うことが求められているわけではなく、限られた時間と空間の中で、常に状況に応じた最高の判断を求めれる。「チーム内で俺が一番うまいんだから、みんな俺のために走れ。俺にボールを預ければドリブルで3人抜いてやる。」という姿勢では所属チームで試合に出ることもできないはずだ。自分から主体的に動き、守備をし、回りを動かし、自分も動く。そうした姿勢で所属チームでの試合に臨むことで、自然と自主性、責任、サッカーの奥深さと向き合うことができるだろう。

日本のアカデミーではどうだろう。日本サッカーが世界で戦うためにはもちろん組織としてた戦うことが絶対条件だ。日本最高峰の選手は世界一流レベルにはなれても、世界超一流にはなかなか及ばないのが現実だ。一人で決定的な仕事をしてのける選手は出てきてほしいし、いずれ出てくると信じているが、それはそのときを待つほかに手はない。世界で戦うための基盤として、組織として、チームとして戦うことを学ぶのは間違いなく必要。しかし同時にそれぞれの選手が少しでも個の力を発揮できるようになることも大事だし、必要だ。1対1の場面で必ず仕掛けなければならないとはいわない。しかし仕掛けられる状況であるにもかかわらず、様子を見てしまってはいつまでたっても危険なプレーはできない。10回1対1があったとしたら、せめて4-5回は仕掛けられるようになるべきだと思う。

そしてそれを挑戦する場はやはり試合だ。アカデミーが今後もチームとして高いレベルのリーグ戦を戦うことができるのであれば、問題ない。しかし代表クラスの選手を集めることができたときに、果たしてそれと肩を並べることができるチームがどれだけあるだろうか。今後もスカウティングを行わずアカデミーというひとつのチームとしてずっとやっていくのであればかまわないが、そうしたチームを日本サッカー協会サッカーアカデミーと位置づけられるのだろうか。そうしたチームから将来の代表選手の主力は生まれるのだろうか。

アカデミーとしての試合があってもいいと思う。アカデミーで参加する大会があってもいいと思う。でもそれとは別に、個人的には選手はそれぞれの所属チームがあって、そこでリーグ戦を戦うほうがいいと思う。日本人が苦手とする主体性と柔軟性を鍛えるには、そうした戦いがいいのではないだろうか。週末ごとの移動費は日本サッカー協会が出せばいい。週末の試合はアカデミーのスタッフがしっかりと視察に行けば、子供たちも変なプレーは見せやしないだろう。所属チームのコーチにとっても勉強になることは多いし、所属チームのほかの選手にとっても刺激になるはずだ。アカデミー、学校、所属チーム、サッカー協会、寮、家族。そうした要素がたくみに絡み合い、抜群のハーモニーをかもし出すことができれば、この世代は絶対におもしろい存在になるし、日本社会にとってもポジティブな作用をもたらすと思う。