第4話:やっぱ無しで!

LINE交換から数日がたった。

聞いたところによると、彼の誕生日は10月29日らしい。

誕生日まで残り4日となった今日の昼休み、渡辺くんの部署の事務員・喜多川さんに声をかけられた。



「沢田さん、渡辺くんと話した?」



一瞬、身構える。

疑い深い私は、ここまでの流れは“やっぱりドッキリでした”のタネ明かしなのではないかと勘ぐってしまう。



「はい。彼、人懐っこいですよね」

「そうなのよ。でも彼女ができないのよ」



喜多川さんは、母のように「あの子には幸せになってほしいんだけどねぇ」と呟いた。

「そうなんですね。そのうちできますよ」

差し障りのない返事をしながら、様子を伺う。

どうやら彼は、私とのLINE交換や誕生日の話を誰にもしていないようだ。



「ねぇ沢田さん、今までどんな仕事してきたの? 彼氏はどんな人だった?」



どうやら喜多川さんは話し好きな人らしく、次から次へと質問が飛んでくる。

そして話の大半は恋愛話だった。



結局、今日の昼休みは“質問コーナー”で終わってしまった。
喜多川さんは、さっぱりした感じの女性で、話していて楽しいと思った。
ただ、少し社内の恋愛事情に関心が強そうなので、そこは気をつけないといけない。



そしてその日の帰り。

駅までのいつもの道を歩いていると――



「沢田さん!」



後ろから走ってきた渡辺くんに声をかけられた。


「渡辺さん。お疲れ様です」


心の中では、”渡辺くん”だけど、まだ派遣されて間もない私は、渡辺くんとはまだ呼べない。
ましてや、彼は会社の先輩でもあるのだから。
会社でうまくやっていきたいのなら、彼だけを特別に呼ぶことは許されないだろう。

そんな私の思考をよそに、渡辺くんがなぜか曇った表情で何か言おうと口ごもった。

何か仕事であったのかと思ったその瞬間――



「あの!やっぱ無しで! 誕生日のお祝いは無しにしてください!」



そう言って深々と頭を下げた。

ここは“わかりました”と言うべきだろうか?
それとも理由を聞くべき?





正直、誕生日のお祝いの話は断ってほしいと内心思っていた。

けれど…
まるで告白してもいないのに振られたような気分だ。

「えっと……すみません! それじゃ!」

彼はそのまま走り去っていった。

始まってもいないゲームが、今ここで終了してしまったような虚しさが残る。



――そして、
彼の誕生日が1日前に迫った昼休み。

この“やっぱ無しで”の理由が明らかになる。





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ここまで読んでくださってありがとうございます😊 新たな人物、喜多川さんも登場し話しがまた進んでいきます。    

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