第7話:何なんですか?
「沢田さん、僕って…何なんですかね?」
真剣な目でこちらを見て彼はそう聞いてきた。酔いのせいなのか、それとも心の奥から滲み出た問いなのか。
私は咄嗟に答えられず、ただ「はい…?」と聞き返すことしかなかった。
「僕って、沢田さんの弟ですか?何なんですか?」
冗談めかして言ったのかと思い、笑い返そうとした。
ーー同僚でしょ。と笑うつもりだったのに。
けれど彼の視線は笑っていなくて、喉に引っかかった笑みは結局出てこなかった。
どうやら、彼の口調は“肩書き”を求めているのではないらしい。
彼は、自分の存在を、私の中でどう定義しているのかを探っている。
「どうって…」
からかいにしては、あまりにも重すぎる言葉。だけど、急に出てきた言葉としては不安定さが見え隠れする。
正直、20代男子の考えていることはわからない。
私は返す言葉に困ってしまった。
「あー。ヤベ。すみません。酔ってんな、俺…」
渡辺くんは頭を抱え、取り繕うように笑った。――彼は酔って口を滑らせたのではなく、酔いを盾に不安を投げたのだと思う。
「渡辺くん、何かあった?」
心の奥がざわつく。
彼の不安を見逃したまま、ただの同僚としてやり過ごすのは残酷すぎる気がした。
「何って?」
「会社で嫌なこととか…」
自分でも表面的すぎる問いだとわかっていた。彼には、もっと深いところで何かある。
そう直感的に感じたからこそ、私は孤独や迷いに触れることで彼を知ろうとしたのかもしれない。
「ないですよ」
短く切られた返事。
――きっと「ない」と言わなければならない事情がある。
「そうなんだ」
そう返すしかできなかった。
この続きをどう返しても、話しは上手く進まないだろうと思った。
――「僕って何なんですかね?」
その言葉は、いつまでも私の中に残ることになる。
そして後に、この問いに答えなかったことが、私の人生の一つの分岐点になることを、当時の私はまだ知らなかった。
ーーーーー
ここまでお読み頂きありがとうございます🙂↕️これから少しずつ渡辺くんの内面も描くことになります😊そして、職場のことも。
