新版日本秀句3 一茶秀句 加藤楸邨著 春秋社 新版第一刷 2001年7月
を基礎資料としている。
天明 安永10年4月2日1781年4月25日に改元
寛政 天明9年1月25日1789年2月19日に改元
寛政3年1791年14年ぶりに帰郷する一茶には、まだ継母や異母弟への悪感情に自分自身で気づいてる風ではない。
「灯をとる此処(ころ)、旧里に入る。日此(ひごろ)心にかけて来たる甲斐ありて、父母のすくやかなる皃(かほ)を見ることのうれしく、めでたく、ありがたく、浮木にあへる亀のごとく、闇夜に見たる星にひとしく、あまりのよろこびにけされて、しばらくこと葉も出さりけり」と書き留めた後の句
門の木もまづつつがなし夕涼み 寛政3年1791年
「まづつつがなし」とはまことにほっとした気分で、そこからの「夕涼み」なので、「まづたのむ椎の木」と子供の頃から見上げていた椎の木を信頼し、その下で安心して夕涼みをするのである。15歳で奉公に出されての江戸暮らしは大変だったのだろう。
この句は
まづたのむ椎の木もあり夏木立 芭蕉
を契機とする発想と加藤楸邨は書いている。
この頃には
夕けぶり誰が夏痩をなく烏
烏の鳴き声を耳にした時、一茶は痩せこけた自分を嗤って鳴いていると、世界を自分のコンプレックスに引き込んで作句をする性向が芽生えている。
なにはともあれ、一茶の帰郷は波風の立つこともなく無事に終わった。
翌寛政4年1792年には、一茶は俳諧師としての修行でもある漂泊の旅に出る。漂泊ではあるけれど、一茶は二六庵竹阿の弟子であることをよすがに、関西から西の方面に多かった竹阿の門人を巡った。これを父親に話したらしく、西本願寺への参詣を頼まれ、実行している。
この旅の旅立ちに
雨、草枕せんと人々と留別
いつあはん身はしらぬ火の遠霞 寛政4年1792年3月26日、出発。
「いつの日にか再び会おう。自分の身がどうなるかはワカラナイよ、とおくおぼろげに霞む西国の果まで行くのだからね。」と、それなりに悲壮な決意でもあった。「身はしらぬ火の」とは歌舞伎のような感じに、一気に吹出した言葉なのだろうが、心情吐露とは言え、さんざん勉強した貞門談林の臭みの底浅き句になってしまった。
故郷への旅は寛政4年1792年から寛政10年1798年まで続く長旅の練習だったのかもしれない。江戸を発つとき、一茶は剃髪して
剃り捨てて花見の真似や檜笠
と詠んだ。「剃り捨てて」とは娑婆への未練を捨てたとの意味と思うが、「花見の真似」とは怪しい。江戸時代には花見の宴には女性は「花衣」で着飾って、殿方の訪れを待つ風習もあった。かつての歌垣のような、辻のような、盆踊りのような、出会い系だったのだ。僧形になれば有利に働くと考えたのだろうか?「檜笠」が「花見の真似」ということかな?
乾坤無住同行二人
吉野にて桜みせうぞ檜木笠 芭蕉
芭蕉のこの心模様に倣ったことを「真似」と言ったのか?
三条大橋弥次喜多像
一茶はこの後長い旅をするが、この画像ほどの陽気な旅ではなかった。
剃り捨てて黒髪山に衣がへ 曽良
「奥の細道」の芭蕉に付き従った曽良が日光参拝の折に詠んだ句を、同じように髪を剃った一茶は本歌取りの句にした。
今日よりや書付消さん笠の露 芭蕉
以下、連歌に興味がなければ此処で終了。
https://note.com/saijiki_yuyu/n/nbce4185bd150
一茶両吟 弐ノ巻
【表六句】
春 剃り捨てて花見の真似やひのき笠
春 きさらぎ散るも好し伴す春
春 畠打ちが焼石積める夕べかな
雑 黄金の壺もあるや泥の手
秋の月 父ありて母ありて花に出ぬ月かな(※)
秋 柿は未だかと秋意きこへも
【裏十二句】
夏 日盛りやヨシキリに川の音もなき
恋 陰を結びて戯れ午睡
恋 伊香保根や茂りを下る温泉煙
雑 すべる雫に紅唇よせて
雑 馬の屁に目覚めてみれば飛ぶほたる
雑 幽きのこそひかり臭ほめや
冬の月 通し給え蚊蠅のごとき僧一人
冬 寒の月見す雪舟が墨
雑 しづかさや湖水の底の雲のみね
雑 水鳥が白はね魚のはら
花 盃に散れや糺の飛ぶほたる
春 惜春わする若気の花筵
【名残表 十二句】
春 塔ばかり見えて東寺は夏木立
雑 いそぐ花まち佐保姫と牛
雑 京かな東西南北辻が花
雑 歩みゆるりく蓬また好し
夏 夏の夜に風呂敷かぶる旅寝かな
夏 天井かけも夢は盗まじ
雑 をり姫に推参したり夜這星
恋 眠りの森の鶏まで語たれ
恋 吹き降りや家陰たよりて虫の声
雑 めぐりの軒の夜はながめに
秋の月 船頭よ小便無用浪の月
秋 棹さす雲間に仲秋はすぎ
【名残裏 六句】
秋 負け角力その子の親も見ているか
雑 土ぞ宝と雲がはげます
雑 御射山や一日に出来し神の里
雑 肩に重たしわが孫俵
花 寒き夜やわが身をわれが寝ずの番
春 桜の下にかなふ人かな
(※1) 原文 「出ぬ日かな」【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
切字が多すぎる気がするが。
(続く)


