田捨女 45)【か】
10)なかぬ夜は枚をふくむかほとゝきす 夏 104
日本では「枚」は「ひら」「まい」と読みむが、ここでは「枚」は「ばい」と読み、意味は「木のみきなど」らしく、「うすく平たい物を数えるのに用いる漢字」とある。ONLINE漢和辞典
https://kanji.jitenon.jp/kanjib/985
句中の「枚」は、「夜討ちや行軍などのとき、兵士が声を出さないように口にくわえた箸のような形をした木」だとか。横に銜えたら、両端の紐を頭上で結んだそうで、軍馬にも用いた。
「轡(くつわ)の鳴らざるやうに枚を含ませて」太閤記
日本語読みの「ひら」は
ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なるひとひらの雲 佐佐木信綱
この「ひとひら」は漢字だと「一枚」だし、「枚方市」と地名に残った。
田一枚植えて立ち去る柳かな 芭蕉
区画した田を数えるときは、「まい」。
で、捨女は百人一首にまたもインスパイアされ、鳴かない夜に苦情を言っている。
ほととぎす鳴きつる方をながむればただ有明の月ぞ残れる 後徳大寺左大臣
※ほとぎすは一晩中鳴くものなのか?
枚じゃありませんが、含む姿が
鳴かぬ夜は枚を含むか不如帰
11)卯の花にほとゝきすかきし絵に
はこねうつぎ声ハ関所かほとゝきす 夏 110
卯の花にほととぎすを描いた絵に「記した」いわゆる画賛。
ほととぎすの姿を描き留めているので、箱根卯木を掲げ、その「箱根」から「関所」と遊ぶ句のようだ。
「声ハ関所」の「関所」は「関」で、水をせき止める所すなわち堰である。「声が堰き止められ」て「鳴かない」ほどの意味と考えた。「声の美しいほとゝぎす」なのに、絵に描かれているから「鳴かない」と言うことだろう。
「ハ」の役割は、「越ゆ」が「や行」で「声こゑ」が「わ行」との注意喚起だろうか。
箱根卯木
箱根卯木声は関所か時鳥
12)色にさへにせ紫かひねなすひ 夏 145
似紫(にせむらさき)はくすんだ青みのある赤紫で、「紫根染による紫は高価」であったため、紫根の代わりに藍で下染して、茜や蘇芳を重ねたり、蘇芳を鉄で発色させて紫色に染めることが行われていた。これらは紫根で染めた「本紫」に対して、紫に似せた色ということで「似紫」と呼ばれた。江戸初期は本紫が禁制であったため、偽色が盛んに染められたらしい。あえて「似せ」を冠したあたりが江戸庶民の心意気だ。
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ちなみに、「にせものがたり仁勢物語」は寛永十六年1639年頃に成立している。「にせむらさきゐなかげんじ偐紫田舎源氏」少し下って文政十二年~天保十三年1829~1842刊である。
ひね茄子
「ひねなすび」は「収穫時期を逸した茄子」だが、「ひねもの」が俳句になるか?「今年酒」「今年米」や「新酒」だし、ただし「新生姜」には「古生姜ひねしょうが」と季題にも「ひね」は無いワケじゃないが、これは昨年の収穫物として意味がある。
「ひねなすび」は「名残の茄子」ではなく、色さえも代替品だと言いたいのだろう。
テキストでは『季節に遅れたおくての茄子でも、色艶ともに旬の頃にひけをとらない。その紫を「にせ紫」と表現する。』とあるが、「本紫」に対する「似せ紫」のごとく、「ひけ」はとっているのだ。
「山本健吉基本季語五○○選 講談社学術文庫」では、「茄子」の傍題に「初茄子」とかいろいろあるが、「古茄子」は無い。
これやこの江戸紫の若なすび 宗因
江戸紫は赤みが強い京紫に対して青みがかった紫色で、江戸時代に武蔵野に自生するムラサキソウを用いて江戸で染めたことからの色名とも言われる。若なすびは爽やかな青みがかった茄子だ。
色にさへ偐紫か古茄子
13)女七夕男たなはたつる関かけふの雨 秋 153
鷲座のアルタイルが牽牛星で男七夕、琴座のヴェガが織姫星で女七夕と呼ばれる。「女七夕男(めたなお)」は織女と牽牛の二星のことで、「たな」とは元来階上に作り出した「掛け造り」で、この「棚」に置いた「機」で「機織る娘」が「棚機つ姫たなばたつひめ」であり、「棚機たなばた」はそもそも「織機」のことである。
結局、「女七夕男たな」は「七夕棚たなばただな」である。
「はたつる」は「はだつる」とすると、何かを始める意味になる。原文を読み違えるはずもないが、「はたつる」は「隔つ」の「へたつる」ではないか。「機」を含みに「はたつる」と洒落たか。
意味的には、今日の雨故に二人の恋路を塞ぐ関所のようであると、つまり雨が「隔て」なのだ。
人目をおぼして、隔ておき給ふ夜な夜ななどは、いと忍びがたく 源氏物語 夕顔
夜をこめて鳥の空音は謀るともよに逢坂の関は許さじ 清少納言
孟嘗君が函谷関を通る際、鶏の鳴き声を真似て通過した話を、捨女もご存じなのだろう。
女七夕男棚隔だつる関か今日の雨
追加;実は我が町も開花か
回文
傷み肴は品書悲し花見鯛
いたみなはしなかきかなしはなみたい
花見鯛
(続く)





